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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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ひとり言 せずにはいられない

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退職した美人



 むかし労災事故の被害に遭ったっていう、元社員で美人の小原主任が退職したのは、実家のお父様の農園をご主人と継ぐためだった。もう5年前のことだけど、今はコメや野菜を生産されて、僕は毎年秋に、お裾分けをもらってる。退職後出産した子供さんも、もう4歳になったけど、コロナ渦ではめったに会う機会がなかった。
 でも今でも僕と彼女は月1回くらい連絡を取り合って、電話で2~3時間くらい話し込む仲。色々と家族にも言えない悩み相談や、大人の秘密の会話なんかがテーマです。お互いに自分の秘密の暴露のし合いが楽しくて、こんな関係になっちゃった。でも逢ってないから、不倫関係じゃないですよ。エアーです。
 それにしても、お互いのことはもう絶対に裏切れない。もし裏切ったら、僕の秘密全部ばらされちゃうだろうし。
(長編作『隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2』に登場する美人の部下です)

 そんな彼女との会話の中で、自分が作ってる「無農薬・有機野菜を売る店を持ちたい」って夢を聞いた。お姉さんがハンドメイドアクセサリー作家なので、それも一緒に売れるようなお店。
「それ、商品ラインナップにギャップが大きくない? 野菜とアクセサリーの店?」
「やっぱり変ですよね~。そこをうまくシャレオツにしたいなと」
「じゃ、その店出来たら、僕の多肉植物も一緒に売らせてよ」
「あっ! いいですねそれ。やりましょう」
「僕の多肉は可愛く寄せ植えにして売るから、野菜とアクセサリーの中間ポジションになるでしょ」
「本当だ。絶対やりましょう」

 ところが昨年4月に、その小原のお父様がガンで他界された。ガンが年末に見付かってから、正月もなく治療に専念されたのに。(ひとり言『死別』参照)
 小原のお姉さんもまた元部下だったんだけど、結婚式でもお父さんっ子って分かるくらいのものだったから、お姉さんには何度か会って励まし続けてた。でも今回だけは、何でもうまくいく僕の『幸運』を分けてあげることは出来なかったのだ。
 更には、お父様が亡くなる直前に、お姉さんの妊娠が分かって、何とかその喜びを伝えることは出来たものの、その赤ちゃん、その後お腹での成長が芳しくなく、昨年秋に最悪の結果になってしまっていた。なんてことだ。僕も泣いたよ。
 僕なんかじゃ、不幸が続いたその家族を励ますことなど出来ないけど、小原は僕を頼ってくれている。前向きなる話をし続けて、せめて彼女らの心に寄り添えればと思っていたら、今度はその小原が「白血病になった」と、突然、今年2月に狼狽えて電話して来た。
 僕は、頭が真っ白になった。
 今まで何人も友達をガンで亡くしているし、人生の師でもあるボスが肺ガンで亡くなってまだ2年。
 小原とのその電話では、僕はまったく言葉が出せなかった。
(彼女まで亡くしたくない。何か僕に手伝えることは?・・・何も出来ない)
それからは、月に2~3度、治療の進捗を聞いて、前向きな話をするしかなかった。
 僕は、彼女の何の助けにもならない無価値な存在だ。
「頑張れ」なんて言葉は、今の小原にとって何の意味もないだろう。
「僕にどう言ってほしい?」単刀直入にそう聞いた。
「(早く元通り帰って来い)って言って・・・」

 その日から僕はヒゲを剃るをやめました。彼女の治療が終わるまで、伸ばし続けよう。ゲン担ぎじゃないけど、ヒゲを触る度に小原を思い出して、
(彼女は今もツライ思いで治療を頑張っている。僕の前の問題なんか、それに比べたら何でもない)って、言い聞かせるために。
 僕は彼女からパワーを分けてもらおうと考えたんだ。こんなこと小原に言うと、(無責任な考えだ)って思われるから言ってないけど、この顎ヒゲ、マスクで隠してるけど、もう4センチくらいまで伸びています・・・。