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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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ひとり言 せずにはいられない

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労災の加害者



 4月のはじめに、うちの宮内君が大型装置に取り付ける部品の向きを間違えて、それを発見した後工程の企業の作業リーダーさんから修正依頼があったんです。宮内君は謝りながらその企業の作業現場にお邪魔して、わざわざ時間を空けてもらって手直しをさせていただくことになったんですが、大型台形脚立を使って、装置の上の方にあったカバーを外そうとした時に、うっかり手を滑らせて、そのカバーを落としちゃったんです。するとその脚立の下に、作業を止めてもらってたはずなのに、いつの間にかそこの企業の作業者がいたらしく、ヘルメットした頭に当たってしまいました。
 宮内君はすぐに下りて謝ったけど、ものすごく怒鳴られたそうです。周囲にいた作業リーダーも慌てて止めに入って、ケガが無いか確認という名目で、現場の外に連れ出したくらい騒然としたらしい。でもその人、気持ちが静まると、「大したことないから」と言って、そのまま作業を継続されたんですね。
 宮内君は、上司の島副部長に連絡して、島君も大慌てで現場を訪れて、被災者に謝罪したのち、病院で診察を受けるようにお願いしたんだけど、
「大丈夫だから、病院には行きません」と言われたんだ。
なら(その程度でよかった)って思うけど、その島君、その人を見てしっかりした対応をすべきだと考えた。この感覚は正解だった。
 その企業の管理責任者にも病院での診察を勧めたんだけど、
「話を大きくしたくないからいいです」と断られました。
 それで島君が僕に相談して来て、僕からもその管理責任者に、
「労災処理でもいいですから、病院に行ってください」ってお願いしたんだけど、その企業の方針は変わりませんでした。
 実は、10年ほど前に僕が現場リーダーだった頃に、この管理責任者とはひと悶着ありまして、それは今回とは逆にそこの企業の作業者が装置の上から、部品を僕の部下の背中に落とす事故があったんです。その時の被災者が、僕のお気に入り女子社員の小原主任だったから、相当厳しく責任追及したんですよ。(下に人がいる時は、上で作業したらダメ)ってルールがあったんです。それが守られてなかったから、労災事故が発生したことを、その管理責任者は申し訳なく思われてたんですね。今回は被災者がルール違反して、上で作業してた宮内君の下に入ってしまったのもあって、
「以前、反対の立場で迷惑をおかけしたから、今回は穏便に済まさせてください」と、逆に謝って来られるくらいでした。
 なら仕方ないかと思い、
「うちは今回、加害者ですから、そちらの方針に従います。でも何かあればすぐ連絡ください。当然、ケガがあった場合の慰謝料も、保険に入ってますから対応しますので」と伝えておいた。ここまではしっかりやってると思うでしょ、僕たちは。
 でも僕は、後々問題になったら困るから、相手企業の方針がそうでも、うちの社内的には、法に則った対応をしておこうと、宮内君に『経緯説明書』を即日書かせて、島副部長には、現場対応の一部始終を時系列でまとめた報告書を書かせ、それをもとに僕は、その日以降の対応の履歴を、何時何分までの正確さで、記録を取り始めました。でもこの先のことは、楽観的な予想しかしていなかったのだ。

 翌日、島君はもう一度、相手先の現場を訪れて、被災者にケガの様子を聞いたけど、「大したことない」って話で、「一応、病院に」って繰り返し勧めてみたけど、相手は「必要ない」との返事でした。ところがその日、被災者の現場の同僚からの説得で午後から早退されて、やっと病院に行ってくれました。
 それを聞いて一安心していましたが、さらに翌日の事故から2日目の朝、その企業の管理責任者から、島副部長に「被災者が怒ってる」と電話がありました。なぜか、「宮内君が謝罪していない」と、怒ってるそうです。
 宮内君は事故後すぐに脚立を下りて謝ったけど、被災者のものスゴイ剣幕にタジタジとなり、それ以上何も言えなくなってしまったそうで、その様子は周囲の作業者も見ていたのに、被災者本人は興奮して謝罪に気付いていなかったようでした。
 島君はすぐに宮内君を連れて、もう一度正式に謝罪しに行きました。その時の被災者は、前日までの同一人物とは思えないくらいすごく興奮して怒鳴っていたそうですが、宮内君はその場に土下座させられて謝ったそうで、それでようやくその彼の興奮は治まりました。
 ちなみにその作業場は、床に膝や手を着いてはいけないルールでしたので、土下座する宮内君のことを、周囲の人は見て見ぬふりしてくれたそうです。そして島君はそんな揉め事を隠そうとしたのか、僕にその日の事実を報告しませんでしたので、丸く収まったもんだと思ってました。
 その後、その企業の管理責任者と僕との情報交換は1週間ほど続き、このまま終息という結論だったのです。その直後に林さんが足首骨折して、その対応にテンヤワンヤしているうちに、その前の加害事故の件は記憶から薄れ始めていたのですが、それから一カ月も経って、その被災者から損害賠償請求が、うちの本社に来たってことか・・・。