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15分



 戦士はパーティーを壁際まで下がらせる。
 壁を背にして体力の低い魔法使を囲む形で守備陣形を整え、必要以上に攻勢に出るなと聖騎士に怒鳴りつけた。そして僧侶には若い2人に勝手をさせるなと強い口調で指図する。
 正確な現状の把握とおおよそのコボルドの残数を知る必要がある。その為の時間稼ぎの守りの陣形。戦士1人が剣を振るい、聖騎士と僧侶は盾となって攻撃を防ぎ、魔法使が補助魔法で後ろから援助する。

 聖騎士は指示通りに防御に徹する。
 しかし、その内心戦士のとる態度には憤慨していた。常に受け身な作戦にも納得がいかないでいる。犯した過ちに責任は感じているが、いまはその過ちに苛まれている場合ではない。ここを切り抜けなければ全てが無意味になってしまう。こんな場所で…。
 聖騎士の戦士に対する信頼は大きく揺らぎはじめていた。

 僧侶も前衛に位置して接近戦に参加している。
 装備している武器は攻撃力の低いメイス。ローブは魔力増幅を目的としている防御力の低いもの。一般的な熟練の僧侶の物理的な戦闘能力はレベル3の戦士程である。しかし、僧侶職にしては接近戦もそこそこにこなす方であった。
 残っている魔法は回復魔法が1度。防御に徹しながら若い2人に指示をだす。

 魔法使は後ろからの援助。
 魔法使を守るこの陣形は、僅かばかりの補助魔法を魔法使が確保しているからである。残されているのは回復と攻撃補助のそれぞれ数回程度。使い果たせばこの陣形をとる理由はなくなる。その時がくれば僧侶同様に接近戦に参加しなければならない。
 武具は僧侶と同じく魔法増幅を目的とするため、接近戦ではまったく頼りにならない。体力は全ての職種で最も貧弱。魔法を駆使するかわりに護衛をして貰わなければ成り立たない職種が魔法使である。


【聖騎士は防御している
:コボルドの攻撃  
  ‐戦士 が  1のダメージを受けた
【戦士 の攻撃
  ‐コボルドが死んだ
:コボルドの攻撃  
  ‐戦士 が  1のダメージを受けた
【魔法使はヒールを唱えた
  ‐戦士 は体力を25回復した
:コボルドの攻撃  
  ‐戦士 が  2のダメージを受けた
:コボルドは仲間を呼んだ
  ‐コボルドが2体あらわれた
:コボルドの攻撃
  ‐聖騎士が  1のダメージを受けた
【僧侶 は防御している
:コボルドは仲間を呼んだ
  ‐コボルドが2体あらわれた
【戦士 の連続攻撃
  ‐コボルドが死んだ
  ‐コボルドが死んだ
【聖騎士の攻撃
  ‐コボルドが死んだ
:コボルドの攻撃
  ‐戦士 が  1のダメージを受けた
:コボルドの攻撃
  ‐僧侶 が  2のダメージを受けた
          :
          :

だが、多すぎる。
次から次へと闇の中から沸いてくるのだ。
守勢一辺倒にならざるを得ない。
知能の低いコボルドもそんな陣形に慣れ始めて連携攻撃をかけはじめた。
戦士は3方向からの攻撃に対処しきれず、立て続けにダメージを受ける。
ここまでパーティーを支えていたのは戦士の戦闘能力。
若い2人に押し寄せる圧力は、戦士への信頼を越えようとしている。
押し込まれてきた戦士を感じて、聖騎士は前方のコボルドに仕掛けた。
聖騎士の剣が首を2つばかり断ち斬る。
崩れた陣形の隙を突いてコボルドが突入する。
僧侶と魔法使が反応して叩き殺す。
再びコボルドが突入してくる。
奮い立つ聖騎士は更に一歩前進し、剣を振るう。
シーフを死なせた愚行をまたもや繰り返している事に自覚はない。
僧侶は聖騎士の根首を掴んで引きずりもどして怒鳴った。
戦士はもう無謀な若者を諭すことはしない。
3人に護られる中、食い千切られた侍の光景が魔法使の頭を過ぎった。

 未熟な2つの胸の片隅に疑念の火が燻りだす。その小さな火は臆病に震える心に燃えうつり、少しづつ、少しづつ、やがては炎となってすべての心を巻き込んでゆく。

 窮地に立たされた際、奮い立つ者と委縮する者の2通りにわかれる。戦士は萎縮する2人を見て、背後に迫る静かなる死の足音を聞いた。
 決断する時がきた。
 底無しの沼に足をとられて身動きもとれず、もう首元まで沈んでしまっている。
 戦士は振り返らずに大声で告げた。

 戦士 「15分っ!

3人はその時間の意味するものを理解した。
コボルドの群れを殲滅する時間ではない。
巣窟から脱出する時間でもない。
何者かが助けに訪れる時間でもない。
何らかの策を捻り出さなければ確実に全滅する、それがこの時間の意味である。

 僧侶も自分たちの戦いがどの程度持続するものかと考えていた。
 出した答えは30分。
 残りの回復魔法と体力を照らし合わせ、冷静に算出した残り時間。だが、その答えが冷静なものではないであろう事は自覚していた。窮地に陥っている場合には希望的な予測をしてしまうもの。その事を自分自身にも照らし合わせ、再び考慮したもう1つの答え。15分。

 そして疑念と悲嘆の火に包まれた1つの心が、この冒険に終止符をうつ。