「つかさ」と「ちひろ」
というと、その人がいうには、
「警察署には言いましたが、捜索願は、基本的に家族が出すものと言われたんですよ」
という。
確かにその通りで、捜索願を友人というだけで出しても、受理はされないという場合があるというのも分かっていることであった。
「確かに難しいかも知れませんね」
とは言ったが、その女性がかなり気にしているのを見て、
「一体いつから行方不明なんですか?」
と聞くと、
「私は少なくとも、一か月は会っていません」
というのだ。
「何か会わなくなる前に前兆のようなものはありませんでしたか?」
と聞かれ、彼女はそれを待っていたかのように、
「それがですね。どうも、誰かにつけられているような気がするといっていたんですよ。だから私もストーカーなのではないかと思い、警察に行くことを勧めたんですよ。警察署内には、そういうストーカー犯罪に特化した、生活安全課というのがあるんですよね?」
と彼女は言っていたので、彼女は、それなりに分かっているようで、逆に、
「この女性も、かつて、ストーカー被害に遭って、生活安全課を訪ねたことがあったのかも知れないな」
と感じた。
彼女は、年齢的には、
「清水巡査よりも、少し上くらいではないか?」
と感じた。
あくまでも勘でしかないが、
「本来の年齢よりも、少しだけ老けて見えるのは、落ち着いた物腰が、髪型から感じられ、化粧の施され方が、熟年女性を思わせるからではないだろうか?」
と感じた。
すらりとした慎重に、ワンピース姿。
さらに、ロングのストレートヘアが、彼女の一番の魅力を引き出しているように思えたのだ。
「小学校の時の担任の先生を思い出した」
似たようなイメージの先生がいたことで、最初に見た第一印象は、
「女教師なのではないか?」
と思ったことだった。
しかし、話をしているうちに、
「女教師というよりも、看護婦といった方がいいかも知れないな」
と感じた。
「あまり、相手のことを勝手に詮索するのはダメかな?」
とも思ったが、
「ただの想像であれば、別に構わないだろうな」
とも思った。
ただ、彼女が、話をしてくれている中で、いつまで経っても、怯えているような姿が垣間見えるのは、
「こっちの考えを見透かされているからではないか?」
と、考え、
「今度こそ、余計なことを考えないようにしよう」
と思うようになったのだった。
実際に、彼女の身元を聞いてみると、
「K病院で、看護婦をしている」
ということであった。
「探してほしい」
という相手の女性は、かつて、彼女の病院に入院していた人で、
「入院中に仲良くなった」
という人だったのだ。
「年齢も同じということで、話が合って、彼女が退院してからも、時々会うようになったんです」
ということであった。
「ところで、その行方不明になった女性の家族に、捜索願だけは出してもらった方がいいかも知れないですよ」
と清水巡査は言った。
そもそも、
「一度警察署にいってから、断られたからと言って、交番にくる」
というのは、どこかおかしい。
普通であれば、交番に来るのであれば、最初に相談して、そこから、警察署内の、
「行方不明者を創作する部署」
に連絡を取ってもらうのが筋ということになる。
一度、断っているのだから、交番から、いくら警察署に挙げても、
「無理なものは無理」
ということになるだろう。
だが、それでも、交番に来たということは、
「藁にもすがる思いなのだろう」
と、清水巡査は考えた。
そんな人を、形式的に、
「ルールですから」
ということで、追い返すのは、あまりにも忍びないと思った。
確かに、
「勧善懲悪」
ということでもないし、
「正義感に燃えて警察官になった」
というわけではないが、何か、
「後ろ髪を引かれる」
という思いがあった。
それこそが、
「もし、ここで付き合はして自殺でもされたら、夢見が悪い」
と感じたからだった。
本来の警察官であれば、
「突き放してしかるべき」
というところであろう。
要するに、
「できないことをできる」
といって、相手を安心させるというのは、
「正義でも何でもない」
ということで、
「なまじ相手に期待させるのは、却って気の毒なことだ」
ともいえる。
だから、警察組織は、
「組織として動く」
ということであり、安全を守るためには、市民に安心感を与える威厳を持っていなければならないということにもなるのだろう。
その時は、とりあえず、
「私の方でも、探せる範囲で探してみましょう」
ということで、その友達の写真を預かることにしたのであったが、
「どこをどう探せばいいのか?」
ということでもあり、そもそも、事件でもないのに、制服警官が、勝手に聞き込みを行うというのも、
「ルール違反」
ということであった。
それでも、できる範囲ギリギリで行ったが、こんな、まるで、
「雲をつかむような話」
確かに、
「無理なものは無理だ」
ということが証明されたようなものであった。
ただ、一つの考えとして、
「依頼にきた彼女は、何かを知っていて、最終的な何かを隠している」
というのが、清水巡査の勘であった。
あくまでも、
「趣味でミステリーを書いていることで、頭がミステリー脳にでもなってしまったのではないか?」
と感じるのだった。
どうして、そう感じるのかというと、
「彼女はどうして、この交番に来たのだろう?」
という疑問からだった。
普通に考えれば、
「近くの交番」
ということなのかも知れないが、この交番は、彼女の家からも、失踪した女性の家からも近いわけではない。
実際に近くの交番にいかずに、ここに来たということは、
「彼女の中で手掛かりがこのあたりにある」
という考えがあってのことなのか?
それとも、
「この交番ではないといけない何かがある」
ということなのかもしれない。
と思った時、その疑問のどちらも満たすかも知れないという発想で考えた時、
「彼女は何かを隠していて、肝心なことを言っていない」
と感じたのだ。
「それが、その女性の失踪に関わってくることなのか?」
ということになるわけで、
「謎が深まるばかり」
と考えられる。
そういう意味で、
「彼女の言うとおりに捜査していいのだろうか?」
とも考えたが、
「相手を怪しんでの捜査であれば、相手が見られたくないと思っている部分も見えてくるかも知れない」
ということであった。
「警察の仕事」
に対して、他の人とは違った歪んだ考えを持ってはいるが、
「好奇心」
というものは旺盛ということで、
「捜査してみたいな」
と感じたことで、ある意味、
「警察官としての、均整がとれている」
ということなのかも知れない。
その時に、相談にやってきたのが、
「水沼つかさ」
という女性で、31歳だという。
そして、探してほしいと願い出た女性は、同僚の看護婦ということで、名前を、
「山内ちひろ」
だというのだ。
写真をもらい、パトロールの最中に、適当に人を捕まえては、
「この人、ご存じないですか?」
と聞きまわった。
作品名:「つかさ」と「ちひろ」 作家名:森本晃次



