「つかさ」と「ちひろ」
「金銭を要求する」
ということになって、
「他の人が見たとしても、ちひろの方が優位だ」
ということになり、
「誰の目から見ても、結果として、すべてちひろが主役だ」
ということになるだろう。
しかし、そうはなっていないということは、
「弱みを握っている」
というよりも、
「言いなりにならないといけないだけではなく。それが顔に出ない」
というようなことでなければいけない。
そうなると、まず考えられるのが、
「洗脳」
というものであろう。
ちひろに、何か人を洗脳できるような特殊能力が備わっているとすれば、その考えもありえるだろう。
さらに、もう一つは
「異常性癖」
というものの中でも、
「SMの関係」
というものが、
「相手を言いなりにする」
という意味では考えられることではないだろうか?
これは、
「肉体的なことはもちろん、精神的な意味でも、相手を支配する」
というのが、
「SMの世界」
といえるだろう。
しかも、二人は女性同士。
「レズビアンでもある」
ということだ。
そうなると、お互いに同性ということで、
「敏感な部分は知り尽くしている」
ということで、
「ちひろのわざ」
というものが、つかさを虜にしたのではないか?
と考えられるからだ。
他の発想もいろいろあるにはあったが、結局は。
「異常性癖」
あるいは、
「洗脳」
のどちらかではないかと考えられるのであった。
それが分かったのは、それから、また半月が過ぎてからのことであった。
つかさが発見された」
ということであった。
死体というわけではなく、五体満足での発見だったということで、正直、
「事なきを得た」
ということである。
だが、このときのつかさも、
「正常とはいいがたい状態での発見」
ということになった。
記憶喪失ではなかったが、何かの催眠に掛けられているかのようで、つかさも、ちひろが発見されたのと同じように、
「意識がもうろうとしている」
という状態であり、
「身体がかなり衰弱していた」
ということであった。
大団円
ただ、幸いといっていいのか、
「つかさは記憶喪失」
ということではなかった。
しかし、精神的なもうろうは、医者に言わせれば、
「体力が戻ってくれば、どんどん回復していくはずなのに」
ということであったが、なかなか思うように回復してはこなかった。
結局つかさは、
「一週間経っても、元に戻らない」
ということで、結果的に。
「ちひろと同じ記憶喪失」
のような状態にあるといってもいいだろう。
だが、時間が経ってくると、
「医者の方にも何かが少しずつ分かってくる」
というようで、
「つかささんは、何かの強い力で、誘導されているかのように思えます」
ということであった。
それを聞いた清水巡査は、
「それって、洗脳ということでしょうか?」
とおうと、医者はビックリしたように、清水巡査を見上げるのであった。
「よくお判りになりましたね。そうなんですよ。洗脳というか、一種の催眠術のような形ですね」
ということであった。
つかさが入院した病院」
というのは、かつて、ちひろが入院していた病院であり、奇しくも、担当医も一緒だった。
というか、病院側とすれば、
「同じような症状の患者がいれば、同じ担当医というのは当たり前のことですね」
ということであった。
だから、
「かたや記憶喪失。かたや催眠か洗脳を受けている患者」
ということで、
「精神科医としての資格もある医者が受け持つのは普通、当たり前のことではないか?」
ということであった。
実際に、
「ちひろの方は、記憶が欠落してるというだけで普通に生活ができる」
ということで、
「一週間入院をしたが、すでに退院した」
ということである。
つまり、
「ちひろと入れ替わりに、つかさが入ってきた」
ということで、そのまま担当医も、同じ先生ということになったのだった。
だから、
「一番二人の症状を分かっている」
ということで、しかも、今回の問題は、
「肉体的なこと」
というよりも、
「精神的なことだ」
ということになるのである。
医者は、何とか、
「つかさの催眠状態を解こうと努力していた」
ということであるが、医者は、半ば、
「あきらめかけていた」
といってもいい。
特に、
「つかささんの催眠というか、洗脳は、掛けた人にしか解くことはできないだろう」
ということであった。
そこで、これまでの状況を先生に話すと、
「そうですか、では、ちひろさんが掛けたと考える方がいいでしょうね。そうなると、余計に難しいですね」
という。
「どうしてですか?」
「要するに、掛けた人にしか解けないということは、掛けた人は記憶喪失だということいなりますね?」
「ええ、それが何か?」
「だって、掛けた人が記憶喪失では、本人とすれば、何のつもりで、どんな催眠を掛けたのかということを覚えていないということになる。催眠を解くには、掛けた本人が、自分が掛けたという意識を確実に持っているうえで、意識して、その催眠を解かなければ解けないというものなんですよ。だから、今のような記憶が欠落した状態では、どうしようもないですね」
ということであった。
「じゃあ、つかささんはあのまま?」
というと、
「いや、そういうわけではないですね。催眠の種類によっては、一度掛ければ、解かない限り、掛けた催眠が勝手にその人の中で成長していき、場合によっては、自害に走る可能性もあるんですよ。だから、何とか、ちひろさんの記憶を取り戻される必要あある」
ということであった。
しかし、記憶はなかなか戻らない。
「どうすればいいんだ?」
と清水刑事が考えていると、しばらくして、なんと、
「主治医が逮捕される」
ということになった。
容疑は、
「女性患者を洗脳し、自分の言いなりにする」
ということが、医学的に証明されたからであった。
今警察では、そういう、
「一部の医者が、その権威を隠れ蓑にして、女性を洗脳している」
というのが、水面下で流行っているという。
それを警察の科学捜査班の、
「科学研究室」
が、悪徳医者を見極めることができる機械を開発し、さらに、
「毒牙に掛かった女性の催眠を解く」
という機械も開発された。
ということで、この事件も、
「急転直下の解決」
ということになったのだ。
ただ、なぜ警察の本部がこの事件を分かっていたかというと、どうやら、
「内偵捜査が行われていた」
ということで、清水巡査が知っていることくらいは、すべてお見通しだったということである。
だが、
「最後には一網打尽にする」
ということから、敢えて泳がしていたというわけだ。
清水巡査とすれば、
「もっと早く知っていればよかったのに」
とは思ったが、
「今度の捜査や、開発機械によって、警察も新しい時代に対応できるだけの機関になった」
ということであろう。
しかし、いくら科学が発展しても、使うのは人間である。
その人間が腐っていれば、
作品名:「つかさ」と「ちひろ」 作家名:森本晃次



