「つかさ」と「ちひろ」
「ちひろと、つかさの関係がどのようなものなのか?」
ということである。
実際に、事件になっているわけではないし、
「交番勤務」
ということで、
「本来の職務」
というのをおろそかにもできない。
そこで、どうしても、捜索するにも限られているということなので、
「いかに効率よく捜査できるか?」
ということがカギになる。
そのためには、
「二人の関係性」
というものをたどることが必要になった。
いろいろな人に聞いて回ったが、それに関しては
「曖昧な意見」
というか、
「正反対の意見」
というものが出てきた。
「二人は大親友で、いつも、二人だけで話をしていることが多い」
という人もいれば、
「関係性は悪いかも?」
という人の話とすれば、
「どうも、いつも、どちらかが優位に立っているという感覚があるんですよ」
というので、
「どちらがですか?」
と聞くと、
「正直、確証はないんですが、私には、ちひろさんの方が立場的には強く感じましたね」
ということであったが、それ以外の人は、
「しっかりしているのは、つかささんの方で、ちひろさんは、つかささんに引っ張られているという感じじゃないかしら?」
ということであった。
それを聞いた時、清水巡査の勘としては、
「つかさは、ちひろに何か弱みを握られている?」
という感覚であった。
なるほど、そうであれば、納得がいく部分もある。ただ、それが、
「二人の失踪」
というものに、どのような影響があるのかが分からなかった。
「何かの事件にまきこまれている」
ということであろうか?
今のところ、
「ちひろに対しての報告はどこからもない。だからこそ、両親は探偵を雇った」
ということであるが、つかさに対しての情報もなかった。
つまり、
「ここ1か月、ふたりの女性の消息が忽然と消えてしまった」
ということである。
もっとも、気になっているのは、警察内部では、今のところ、清水巡査だけだった。
そんなことをしているうちに、
「ちひろさんが見つかった」
ということで、清水巡査も半分肩の荷が下りたと感じた。
ただ、まだつかさの行方が分からないだけに、少なくとも、
「ちひろに会って、話を聞かなければ」
と思うのだった。
ただ、ちひろに関しては、
「今、病院に入院している」
ということであった。
警察内部の情報としては、
「体力が落ちて、かなり衰弱している」
ということで入院ということになったという。
そして実際に、
「3日間は、面会はできないだろう」
ということだったのだ。
「そんなになるまで、どこに行っていたというのだろう?」
ということであったが、
「会ってみなければ分からない」
ということであった。
実際に、3日が経ってから、面会に行った。公務ということではないが、
「友だちが探してほしいと交番に来た」
ということを話せば、面会くらいはできるだろう。
そう思って、入院しているとされる病院に、
「お見舞いがてら行ってみる」
ということにしたのだが、行ってみて、一目見た瞬間、
「あれ?」
と感じた。
というのは、彼女の目の焦点が合っていないことに気づいたからだ。
実際に話を聞いてみると、回答がおぼつかない様子で、
「というよりも、質問に対して、何ら答えていない」
ということで、
「これは、何かをごまかそうとしているのではなく、記憶を失っているということなのかな?」
と感じた。
立ち会ってくれた医者にアイコンタクトを送ると、黙って頷いたのだった。
「ということは、やはり記憶喪失ということか?」
と感じたのだ。
医者に聞いてみると、
「何かのショックで、記憶が一部欠落している」
という感じだという。
そして、
「その欠落は、この1か月がほとんどで、その前の記憶も、一部消えているようなんです。しかし、その欠落した記憶というのが、どうも結びついているような気がするんですよ。警察で何か捜査されるのであれば、そのあたりから捜査されるのもいいかも知れないですね」
という。
「あ、それと、彼女が見つかった時、睡眠薬のようなものを服用していたと思われます。そんなにきついものではなかったんですが、意識は相当朦朧としていたと思われます」
ということであった。
「記憶は戻るんですか?」
と聞くと、
「たぶん、大丈夫だと思います。もちろん、絶対などとは言えませんけどね。それに、その戻るのがいつなのかと聞かれたとしても、それは私にも分かりません。それこそ、神のみぞ知るということになるんでしょうね」
と医者はいうのであった。
そんな状態で、これ以上聞いても仕方がない。
とりあえず、捜索願が出された人が、
「記憶喪失」
ということであるが、一応命に別状ない状態で帰ってきたというのは安心できることであった。
ただ、
「睡眠薬を服用していた」
ということで、
「それが記憶喪失と、どのようなかかわりがあるのか?」
ということを考えると、
「事件性がない」
とハッキリ言えるのだろうか?
清水の勘としては、
「彼女は、何か見てはいけないものを見たことで、組織に監禁されていた」
という発想である。
つまり、彼女は、
「何かの事件にまきこまれた可能性がある」
ということである。
だとすると。
「この事件に、つかさはどのようにかかわっているのか?」
ということである。
「つかさがいなくなったのが偶然だ」
ということであれば、
「こんな偶然、できすぎている」
と考えられる。
しかし、逆に、
「つかさの失踪」
というものがなければ、今回のつかさが発見されたことで、そこまで奥深く感じることはないだろう。
清水巡査の中では、
「他の警察官が思っているよりも深いところに、この事件の真相が隠されているのではないか?」
と感じるのであった。
そこで、考えたのが、
「二人の間の関係性」
ということであった。
その関係性というものは、いろいろ想像できるが、あくまでも、
「清水巡査の勘」
ということである。
ただ、気になることで、一番のキーとなるのは、
「つかさの行方」
ということであろう。
少なくとも、今のところ、
「つかさらしい変死体はない」
ということで、
「どこかで生きている」
という可能性はかなり高いといえるだろう。
「清水巡査の勘」
ということで、今考えられるのは、
「つかさとちひろが、異常性癖でつながっているのではないか?」
という考えだった。
かなり奇抜ではあるが、人の話の中で、
「まわりは、
「つかさの方がしっかりしているので、ちひろが引っ張られている」
とみているようだが、話を聞いた中で一人だけが、
「ちひろの方が、つかさに対して優位性を持っている」
ということであった。
それを考えた時、普段からわざと、
「つかさの方が引っ張っている」
と思わせておいて、実際には、
「ちひろの方が絶対的優位にいる」
という考えであった。
相手を、そこまで自分に有利に導けるというのは、
「何か弱みを握っている」
という場合である。
ただ、それであれば、
作品名:「つかさ」と「ちひろ」 作家名:森本晃次



