「つかさ」と「ちひろ」
そうだとすれば、やはり、
「気のせい」
ということであり。
「ただの偶然だ」
ということになるだろう。
老夫婦が帰った後、一応、ハコ長には、
「水沼つかさが訪ねてきて、捜索依頼をした」
という話をした。
それも、深刻にではなく、あくまでも、
「話を聞いてやった」
という程度にである。
幸いなことに、
「交番では、受け付けても、捜査はできない」
ということ、さらには、
「文書での届」
ということではないので、ごまかすことはいくらでもできるのであった。
ただ、清水巡査のいうことを、ハコ長が、簡単に信じるかどうか?
というのは、何とも言えないだろう。
ハコ長の。
「思い一つ」
ということで、
「人の心にまで立ち入ることはできない」
ということから、
「余計なことは考えないようにしよう」
と考えるのであった。
ハコ長は、その時、もう一度、
「生活安全課に行ってみてください」
ということを言った。
「今回は、この交番からも、話を通しておきますから、捜索願の受理だけはしてくれると思います」
といったからだ。
実際に、捜索をしてくれるかどうかは、警察署の方の考えであり、
「交番があれこれ言える立場ではない」
ということになる。
ハコ長が、地域課を通して聞いてもらえると、
「捜索願は受理された」
ということであった。
ただ、その時に、捜索願を受理した人が、
「山内ちひろ」
という名前に聞き覚えがある。
「確か、その人を探してほしいといってこられましたね。すみません、名前までは憶えていないですが」
ということであった。
「なるほど、身内ではないということでの門限払いだな」
と清水巡査は思ったことで、それが、
「水沼つかさ」
ということは、今さら言うまでもないことであろう。
その時、この話を、
「捜索願受付担当」
から聞かなければ、また事件は違った方に向かっていたかも知れない。
それも、
「間違った方向に」
ということで、この話が、この事件における。
「いくつかある」
と言わんばかりの分岐点になるということではないだろうか?
それを考えていると、
「ここまでくれば、自分の中では、一つの事件だ」
と清水巡査は考えた。
というのは、
「単純な失踪事件というには、謎が多すぎる」
というものであった。
特に、
「老夫婦の態度」
であったり、なんといっても、
「水沼つかさ」
という女性の、ところどころでの、不可思議な態度ということになる。
「そもそも、家族に何も言わずに、自分から、捜索願を出しに来たか?」
ということである。
普通であれば、
「身内でなければ、受け付けない」
というくらいのことは分かっていても当然だと思う。
特に彼女は、
「捜索願を出しても、警察がそのすべてを捜査するわけではない」
ということは知っていたではないか?
それでも、
「警察署に訴え出る必要があった」
ということであろうか。
と考えると、問題は、
「彼女が、その時捜索願を届けに行った」
ということを、皆に納得させる必要がある。
ということになる。
「その理由は?」
ということで、
「アマチュアミステリー作家」
ということで推理が許されるとすれば、
「何かの事件で疑われるかも知れない」
ということで、アリバイを作っておく必要がある。
ということであろう。
もし、対応した相手が覚えていないとしても、警察内部なのだから、
「さすがに、防犯カメラくらいはあるだろう」
ということで、
「カメラにうつりさえすればいい」
ということになる。
しかし、だとすれば、その後に、
「K駅前交番」
に現れて、
「清水巡査に対応してもらう」
という必要がどこにあるというのだろうか?
それを考えると、清水巡査は、
「交番に来たのは、何の意味があるというのか?」
と考えると、
「さすがに、アリバイトリックという考え方は、飛躍しすぎている」
といってもいいだろう。
ただ、
「交番への依頼」
というのは、本当に、
「警察署で受け付けてくれなかった」
ということで、
「藁をもつかむ」
ということだったのか?
それを考えると、
「どうも、過剰反応に思えてならない」
という気がしたのだった。
そういう意味で、それらの曖昧な状況の中に、
「真実」
というものが隠されているということなのだろうか?
「いろいろ曖昧で、何のための行動なのか?」
ということが分かっていないと、逆に、
「これが何かの事件ということであれば、それだけ、見えない部分が大きいというような、大事件なのかも知れない」
ということであった。
見えている部分が小さくても、見えない部分にどれだけのふくらみがあるのかを考えれば、
「カギを握っているとすれば、水沼つかさではないだろうか?」
そもそも、水沼つかさにだって、
「老夫婦が、警察に訴え出る」
ということくらいは想像がついただろう。
「すぐに訴えることはない」
と思ったことから、
「自分が訴えられる時間がある」
と考えたのであれば、
「そこに、老夫婦と、水沼つかさとの間に、何か目に見えない関係があるのかも知れない」
ということであった。
これは、実際に、
「事件」
といっても、
「刑事課」
が捜査するものではないことから、実際に捜査ができるとすれば、
「行方不明者捜索」
というくらいであろうか。
ただ、実際には、
「事件事故に巻き込まれた」
という様子もない。
ということから、
「捜索願が出たとしても捜索しない方に分類されるのではないか?」
ということである。
やはり、
「ちひろには、殺されるというようなものもなければ、事故もそれらしい報告は上がっていない」
ということであったが、一つ気になるのが。
「彼女に男がいたかどうか?」
ということである。
「看護婦というと結構もてる」
ということであったが、逆に、
「忙しすぎて、彼氏を作る暇もない」
とも言われる。
それを考えると、
「彼氏がいるいない」
というのは難しい判断で、忙しさを理由ということであれば、一番考えられるというのは、
「病院内での職場恋愛」
というものだ。
「一番怪しいとすれば、ドクター」
であろう。
または、
「担当看護婦」
ということであれば、親身になって世話をすることから、
「同情が愛情に変わる」
ということだってあるだろう。
それを考えると、
「ちひろも、彼氏がいなかった」
とは言い切れないだろう。
ちひろの捜索は、結局警察ではやってくれなかった。両親とすれば、とりあえず自分たちで少しだけ動いてみて、できないようなら、
「民間の探偵を使ってでも探す」
ということであった。
しかし、やはり、捜索は難航しているようで、どうやら、民間探偵を雇うことにしたという。
いくら気になっているとはいえ、友達というだけでは、どうしても。捜索には限界がある。だから、両親と、つかさとでは、最初から、
「それぞれで捜索するようにしよう」
ということになっていたようだ。
作品名:「つかさ」と「ちひろ」 作家名:森本晃次



