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数学博士の失踪(後編)

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 と感じさせるほどだったのだ。
 だから、まどかは、
「自分が人と同じでは嫌だ」
 と感じるのではないだろうか?
 もちろん、それは心理的なものに違いはないが、このようなリアルな感覚というものが、大きく影響してきているのかも知れない。
 まどかが、そんなことを感じるようになると、その男性がこちらを見た。
「明らかに意識しているんだわ」
 と思うと、まどかの方も、必要以上な意識を感じた。
 いわゆる、
「ドキドキ感」
 というものであった。
 その思いは、
「今までにもあった」
 という恋愛感情というものとは少し違っている。
 やはり、
「慕いたい」
 という気持ちが強いのか、それこそ、
「父親や兄に対しての気持ち」
 という、親近感がわく、それこそ、肉親に対してのものというものに近いということではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「店の中の空気が、また流れ出したような気がする」
 と感じたのだ。
 しかし、すぐに、その空気の流れは止まる。
 いや、
「流れが止まっているというのを感じさせる瞬間がある」
 ということである。
 それを感じた時、それまで自分が何を感じていたのか、考えていたのかということを、一瞬にして忘れてしまうのだ。
 そのたびに、感情がリセットされるような気がして、そう思えば、
「まるで同じ時間を繰り返しているかのように思える」
 と感じる。
 いわゆる、
「タイムループ」
 と呼ばれるものなのかも知れないが、どうもそうではないような気がする。
 というのは、
「まったく同じシチュエーションではない」
 ということからであろう。
 時間を繰り返すということであれば、
「同じシチュエーションでなければいけない」
 ということだ。
 それが、別の時間を繰り返しているように思うのは、それこそ、
「パラレルワールドのような世界」
 というものをイメージさせる。
 実際に、パラレルワールドというものを、まどかは信じている。
 その存在に関しては、今の自分で証明できるだけの発想があるわけではないが、それこそ、
「心理学の観点から解明したい」
 と思っていたのだ。
 まどかが心理学を目指すというのは、こういう、SFチックな発想からも出てくるというものであった。
 まどかが、先ほどの男性を意識してから、どれくらいの時間が経ったというのか、そのドキドキ感は薄れることもなければ、深まることもなかった。
 つまりは、
「それ以上でもそれ以下でもない」
 ということになるのだろう。
 それこそ、
「真実は一つ」
 という言葉を思い起こさせるのであった。
 そんなことを考えていると、急にその人が、
「さっきまで私に興味を持ってくれていたはずなのに」
 と思った。
 まどかは、自分が我に返ったかのように感じたのだが、その瞬間は、明らかにその一瞬前の瞬間とは、空気が違ったかのように思えた。
「この店では、一定の間隔で、空気が変わっているのかも知れない」
 という、不可思議な感覚を覚えたのであった。
 その雰囲気というのは、
「まったく違っている」
 というわけではない。
 それなのに、
「明らかに違うなどということを、今までに感じたことはなかった」
 ということを思えば、
「それが違和感というものではないか?」
 と感じさせるのであった。
 そんな違和感というものを感じていると、
「自分がこの場所にいる」
 ということが余計に違和感として増幅する気分にさせられる。
 その思いが、この店の雰囲気を、まるでコマ送りのように感じさせるのではないだろうか?
 そのコマ送りというものが、まるで、
「映像の世界」
 のように思えてきて、それこそ、
「秒刻み」
 という時間の感覚を、錯覚として感じさせると思えば、少しであるが、
「違和感の正体」
 というものが分かってくるような気がするのであった。
 そこまで考えていると、
「何を違和感と言えばいいのか?」
 ということまで考えてしまう。
 もう一つ言えることは、
「この店に入って、まだ誰も一言も発していない」
 ということであった。
 本来であれば、店主が客を見かければ、
「いらっしゃいませ」
 というのが当たり前である。
 それがなければ、瞬時に、
「違和感」
 というものを感じさせるだろう。
 しかし、その違和感がないままに、ここまで来た。
 しかも、まどかとしては、
「聞いていないはずの声」
 というものを覚えているという錯覚があった。
「どんな声だった?」
 と聞かれると、答えようがない。
 何といっても利いていないのだから、それも当たり前というものであろう。
 マスターは、その表情をニコニコとさせ、どこか、
「父親を思わせる雰囲気」
 といってもいいだろう。
 そう思えば、隣にいる、
「お兄さん」
 という雰囲気の人は、なんとなくであるが、
「遠藤探偵に似ている」
 とも思えた。
 すぐにそのことを感じなかったのは、
「顔が似ている」
 ということではないということであろう。
 まどかという女の子は、
「人の顔を覚えるのが苦手だ」
 と思っていた。
 それも、
「致命的」
 といっていいほどで、確かに人の顔を覚えられないのは、致命的といってもいいのだろうが、自分が心理学を志した理由の一つに、
「人の顔を覚えられない」
 ということがあったのは、間違いのないことであった。
 自分の中で、
「どうして心理学を志したのか?」
 ということが、少しずつさらけ出されたかのようで、実際には、そのことを忘れていたからではないかということだったのだ。
 実際に忘れてしまっていたといってもいいだろう。
 自分としては、
「これほど大切なことを忘れてしまうなんて」
 と思っていたが、逆に、
「大切なことだからこそ、潜在意識の中に自分自身で封印してしまったのかも知れない」
 ということだった。
 そもそも、自分にとって大切だと思うことを、表に出しておく必要というのはないような気がする。
「大切なものは、しまっておいて、人に見せるものではない」
 という感覚があることから、
「潜在意識に封印」
 ということになったのだろう。
 なるほど、
「自分が持っている潜在意識」
 というものは、自分だけが感じているというものではないとすれば、
「表に出しておくことの危険性」
 というものを、どこかで感じることになるとしても、それも無理もないということではないだろうか?
 この店にいると、
「気が狂いそうになる」
 という人もいるかも知れない。
 しかし、一度迷い込むと、抜けられなくなるという雰囲気もあり、それこそ、
「この店というのは、その人それぞれの感覚で存在しているのではないか?」
 と感じたのだ。
 それを思えば、
「昨日、この店がここになかった」
 というのも分かる気がする。
 店自体に感情があり、その感情が、人間の感情よりも強いもので、その人間の感情というものを凌駕できるだけの力を持っているとすればと感じると、結果とは違う感情が、昨日の不可思議な現象というものを、ハッキリとさせてくれるというものである。
 もっといえば、