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数学博士の失踪(後編)

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「あの時と、光景にまったく違いはない。その角を曲がれば店があるかないかというだけのことではないか」
 ということであった。
 実際に、角を曲がると、そこには店が存在していて、この間見たここを曲がった光景が、まるで幻のように意識から消えていたのだ。
 だから、
「店がなかった」
 という意識は、もはや、
「遠藤探偵の意識にしか残っていない」
 ということになる。
「遠藤探偵も、日にちを開けてから来てみればいいのに」
 とまどかは思ったが、遠藤探偵のことだから、そんなことは分かっているといってもいいのではないかと、まどかは感じていた。
「遠藤さん」
 と、思わず名前を呼んでしまったまどかだった。
 店の中に入ってみると、
「以前、どこかで見たことがあるような気がする」
 と一瞬だが感じた雰囲気があった。
 きっと、テレビドラマか何かで、
「バーというのは、こういう雰囲気のお店なんだ」
 という印象を受けたのかも知れない。
 それを感じると、初めてきたお店ではないような気がしたのだった。
 しかし、思い出してみると、似たような感覚になったことが今までにも何度かあったような気がする。
「そうだ、デジャブ現象というやつだ」
 と、まどかは感じていた。
「一度行ったことがあったはずなのだが、それがいつだったのか、記憶が定かではない」
 などというのをデジャブ現象というというのを、最初に知ったのはいつだったのか。
 あれは確か、中学の頃だったかも知れない。
「前にも見たような景色な気がする」
 と、どこかに赴いた時、ふっと口から出てきたことで、友達が、
「それはデジャブ現象なんじゃない?」
 と言ったのだ。
 その時は、敢えて触れることはしなかったが、それから少しして、本で調べてみた。
「意識の中にある記憶が薄れかけているところに、似たような景色を見たことで、自分の中の曖昧さが顔を出したような感じ」
 というようなことが書かれていた。
 どうしてそのような意識になるのかということまでは分からなかったが、まどかが心理学を志してみたいと思うきっかけの一つになったことに違いはないだろう。
 そんなデジャブ現象を感じながら、店の中を見渡していた。
 すると、
「やはり、テレビなどで見た印象が結構深く残っている」
 という感覚がよみがえってくる。
 店のつくりは木造で、レトロな雰囲気を醸し出している。明かりもそんなに明るくないことが、バーの雰囲気を余計によくしているのかも知れない。
 どの場所に座るかによって、その明るさが微妙に違ってくるように思え、その分、店の広さを感じるのも、それぞれに違いがあるように思えるのだ。
「どの場所が、一番お店を広く感じさせるだろう」
 と思うと、自然と足が、カウンターの一番奥に進むのであった。
 店は、カウンターに7,8人も座ればいっぱいになるくらいで、その後ろにはテーブル席が二つほどあるという雰囲気であった。
 店の広さは、バーとしては少し広い感じがした。それは、テーブル席があるからだろう。まどかのイメージするバーというのは、テーブル席がないというイメージだった。テーブル席があるとすれば、それはスナックだと思っていたのだ。
 そもそも、まだ未成年のまどかが、このような飲酒のお店にくるというのは、本当はいけないことだとは分かっている。実際に、今回のような、父親の失踪などがなければ、このような店に赴くこともなかった。
 しかも、本来であれば、昨日遠藤探偵と赴くはずだったのだ。それが、何がどうしてこうなったのかということである。
 実際に、奥のカウンターに腰を掛けると、なるほど、最初に入り口から見た店の広さよりも、かなり広く感じさせるのであった。
 もちろん、座ってから見るのであるから、入ってきた時に見下ろすような雰囲気とはかなり違う。
 しかも、最初に感じた雰囲気と、少し時間が経ってからでは、本来なら最初に感じる方が広いというものではないだろうか?
 それを考えると、目の錯覚というのは、結構なものだと思うのであった。
 店の明るさも次第に目が慣れてきたからか、次第に明るさを感じるのであった。
 すると、それまで感じていなかった気配のようなものを感じた。その気配というのは、最初に感じたのは、人の息遣いであった。呼吸をしている声が聞こえたかと思うと、店の中の湿気が急に強くなったような気がした。
「誰かいる」
 と思うと、それまで誰もいなかったはずの店に、本当に誰かがいると思わせた。
 すると、カウンターの反対側、つまり、入り口側に、本当に誰かが据わっているのだ。
 それを感じた時、
「懐かしい感じがする」
 ということで、よく見ると、ひとりのおじさんが座っていた。
 その人を、
「おじさん」
 というには、少し気の毒なくらいであろう。
 まどかは、男性の年齢というものをよくわからないと思っていた。だから、
「お父さんというには、少し若い気がする」
 ということで、
「お兄さん」
 という雰囲気であろうか。
 だとしても、実際の兄妹ということであれば、年齢は離れているような気がする。
 イメージとしては、20代後半と言えばいいような気がする。実際にスーツを着て、パリッとしたその姿には、頼りがいも感じるが、むしろ、哀愁も感じるのであった。
 何か、慕いたい気持ちもあり、そう考えると、またしても、デジャブ現象なのか、
「前にもどこかで?」
 と感じてしまうのであった。
 この、
「バー「メビウス」
 という店は、客にデジャブを思わせる店なのだろうか?

                 時間差の空間

 店に入ると、もう一つ気になることがあった。
 それは、店に入った瞬間に気になったことだったが、次の瞬間には、それを忘れてしまったようだ。
 それこそ、
「違和感」
 というもので、一瞬激しいその違和感というものに襲われたのであるが、その感覚というものは、自分の中で、急に打ち消したくなったのだ。
 だからこその、違和感というものなのかも知れない。
 というのは、
「風が通るか通らないか?」
 ということであった。
 扉を開けて店に入った瞬間、一瞬だが、店の中から勢いのある風が吹いてきた気がしたのであった。
 その風を感じた時、その風を、
「新鮮な感じがする」
 ということで、ホッとした気がした。
 実際に、表を歩いてきて、汗もかいていたし、クーラーの利いた店内からの風は、実に気持ちいいものだった。
 しかし、中に入ると、今度は一転して、風が吹いていないのであった。扉を閉めたからなのだろうが、ここまで風が吹いてこないというのも不思議な感覚がしたのであった。
 ただ、後から考えれば、
「客が自分一人だったから」
 ともいえるだろう。
 しかし、その後、もう一人の雰囲気を感じた時、湿気を帯びた空気を感じたではないか。
 あの時は、急に空気が変わったことで気づかなかったが、あれは、空気が変わったのであって、そのために、風が吹いたと言えるのではないだろうか?
 実際に、人の気配をいきなり感じた時というのは、そのまわりの空気を気持ち悪く感じ、それこそ、
「風邪をひいてしまったのではないか?」