数学博士の失踪(前編)
前述の最初から優先順位が高いということで、あくまでも、
「人間に危害が及ぶ」
というのは、ロボット開発の目的から考えて、完全に、
「本末転倒なことだ」
ということになるだろう。
しかし、ロボットというものを、悪用しようとする連中もいて、中には、
「戦争屋」
と呼ばれる連中に利用されるのではないかとも考えられた。
「戦争屋」
というのは、
「戦争が勃発することで、利益を得る」
という、
「人殺しの兵器を作っている」
という集団である。
いわゆる、
「死の商人」
と言われるものであるが、戦争がなくならない限り彼らは存在し続ける。
だから、逆にいえば、
「彼らの存在意義は戦争にしかない」
ということで、人類の最大のテーマである。
「戦争のない世界」
であっては困るということだ。
「戦争をなくさない」
という発想から、暗躍している。
しかも、
「その暗躍を他の人には知られてはいけない」
ということだ。
彼らの存在が明るみに出れば、
「戦争などバカバカしい」
という発想になってしまえば、それこそ、彼らにとっては、本末転倒になるということであろう。
実際に、戦争がなくなるということはない。
なくなってしまわないために、ロボット開発が急務だということだが、そのために、彼らの存在というものが、開発者からすれば邪魔だということで、
「ロボット開発というのは矛盾している」
といってもいいかも知れない。
実際にロボット開発というものが成功しないのは、もう一つ、
「フレーム問題」
というものがある。
こちらは、
「ロボット工学三原則」
というものに比べて、もっと深刻ではないだろうか?
ロボットの人口知能の問題であるが、
「人間にできることが、ロボットにはできない」
ということであった。
つまり、
「次の瞬間に何が起こるか?」
ということを予知できないということだ。
ロボットは、
「無限の可能性」
というものを考えてしまい、結局は何もできなくなってしまうというのが、
「フレーム問題」
というものだ。
そこで考えたのが、
「それらの可能性をいくつかのパターンに当てはめれば、無限ではなくなるのではないか?」
という発想である。
しかし、それができなかったことで、実は、
「可能性というのが無限にあった」
ということに気づいたのかも知れない。
ここからが、本来は、筒井教授の出番なのだが、数学的に考えると、
「無限というのは、何で割っても、結局は無限でしかない」
ということである。
これを解決出来れば、それこそ、
「ノーベル賞もの」
といってもいいだろう。
それどころか、その開発者の名前は、永遠に残る偉大な名前ということになるに違いない。
それが、数学者としても、挑戦してみたいことであるが、そう簡単にいかないのが数学というもので、実際には、この無限という問題のような厄介な考えが、結構たくさんあふれているといってもいいだろう。
そんな時代が今の時代といってもいい。
もっとも、
「昔から、矛盾の中で生きている。それこそが人間だ」
ということを提唱する学者もいる。
その人は、
「物理学者」
の人もいれば、
「心理学者」
という人もいる。
つまりは、
「それぞれの分野で、興味深く考えられている」
といってもいいだろう。
それなのに、どうしても破れない壁というものがあり、それが、今の時代の世の中の象徴なのかも知れない。
それを思えば、タイムマシン開発の、
「タイムパラドックス」
というものも、なかなかの難問といってもいいだろう。
そんな難問を、
「数学的な見地から、見てみたい」
というのは、数学者の共通の意見だろうが、数学者にも解けない者があるということを改めて思い知らされたといってもいい。
筒井博士は、今そのことを思い知っていて、難しい岐路に立たされているといってもいいかも知れない。
筒井博士が、
「行方不明になった」
ということが発覚したのは、博士の発表がまもなく行われるという頃のことだったのである。
遠藤探偵
博士は、前述のように、毎日のルーティンが決まっている。
だから、何かあったとすれば、すぐにその日に分かるようになっている。
「お父さんが帰ってこない」
ということに最初に気づいたのは、やはり奥さんであった。
奥さんとすれば、
「午後八時にはいつも帰ってきていて、それこそ、突貫でもない限りは、どんなに遅くても午後九時には帰ってくるんです。実際に、予備校で遅くなる娘が午後九時半に帰宅するので、それよりも遅くなったことはなかった」
というのがその理由だった。
その日は、
「午後十時になっても帰ってこない」
ということで、実際に、娘の法が早く帰宅してきたのだ。
当然、おかしいと思うのは当たり前のことで、娘のまどかが帰宅してきた時は、すぐに、そのいつもと違う雰囲気に気づいたのだった。
「どうしたの。お母さん」
と聞いても、母親は怯えるだけだった。
「実際に、こんなことはなかった」
ということと、
「このようなパニックに陥った時、まったく冷静さを失う」
という性格から、実際には、
「パニックに陥っていた」
といってもいいだろう。
実際には、まどかもそういう性格に近いと自分でも思っていたのだが、母親が先にパニックになってしまったのだから、自分がパニックになるわけにはいかないという、逆の心理が働いたのだ。
そういう意味では、
「お母さん、ずるいよ」
という気持ちが、まどかにないわけではないのだが、それよりも、
「自分までパニックになってしまっては、どうしようもない」
と思ったのだった。
「警察に連絡した方がいいのかしら?」
と、ただ怯える母を見ていると、まどかの方は、却って早く冷静になれるというものであった。
「いいや、もう少し様子を見た方がいい」
とまどかは言ったが、不安であることには間違いない。
これが、誰かによる誘拐なのか、それとも、何かの事件や事故に巻き込まれてしまったのかということを考えると、
「確かに警察に連絡をしないといけないかも?」
と思ったが、それも微妙な気がしたのだ。
「そういえば、お父さん、何かあった時に、この人に連絡すればいい」
ということで、父親の部屋にある机の上に、その連絡先も一緒に入った、
「連絡帳」
のようなものが置かれていた。
そこには、
「研究所の人がほとんどであるが、それ以外にも、知人や取引先と思えるようなところの責任者と思えるような人の名前があった」
その中に、
「探偵:遠藤氏」
というのがあった。
電話だけではなく、住所も書かれていて、そこにまどかは、連絡してみることにした。
「お父さんの知り合いだったら、大丈夫」
と考えたからだ。
まどかは、
「さすがにこの時間は」
ということで、正直流行る気持ちを抑えて、その日は眠ることにした。
「眠れるかしら?」
と思いながらも、ベッドに入ると、不思議と眠れたのだった。
「お母さんは大丈夫かしら?」
作品名:数学博士の失踪(前編) 作家名:森本晃次