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数学博士の失踪(前編)

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 相手を煙に巻くかのような態度を取り、相手が油断している隙に、相手の心の中に飛び込むというやり方だった。
 まどかは、そんな父を好きにはなれなかった。ただ、
「数学の先生というのは、そんなものなんだろうな」
 と思っていたので納得していたのだ。
 しかし、目の前にいる遠藤探偵というのは、そういうわけではない。
「どこをどう見ても、インテリなどという雰囲気ではない。どちらかというと、風来坊のような雰囲気だ」
 と感じた。
 そして、
「あれ?」
 とも思った。 
 というのは、遠藤に対して、センスのいいファッションモデルのような垢ぬけた男だと感じたではないか。
 それなのに、一瞬にして、風来坊というのもおかしな感覚になってきた。
 もし、彼が、相手によって態度を変えるということであれば、最初にマウントを取ろうと考えるなら、相手が創造していたのとまったく違うイメージで現れることで、ペースを引っ掻き回すというのであれば、作戦としては、一応の成功ということで、ワンポイント遠藤探偵がリードと言ったところだろうか。
 しかし、まどかという女の子は、
「リードされた」
 ということに、プライドが傷つけられるような女の子だった。
 このまま引き下がるというわけにはいかないだろう。
 だから、遠藤に対して、睨みを利かせているのだが、遠藤は、それを笑顔でかわそうともくろんでいるようだ。
 まどかは、
「自分が、いかに相手に優位に立てるか?」
 というのを考えたことはあまりない。
 今までは、そんなことを考えるまでもなく、相手に優位に立っていたのだ。
 だから、今回のようなことは初めてだった。
 実際に、親であったり、学校の先生でもないと、大人と接するということなどないまどかなのだから、
「大人の男性」
 という雰囲気やオーラを発散させる男性に、本当は惹かれてもいいはずなのに、それがないということは、それだけ、
「遠藤探偵という男は奥が深い男で、その分、最初から手の内というものを見せることのない人間だ」
 ということが言えるだろう。
「遠藤さんは、探偵でいらっしゃるということは、数々の事件を解決された?」
 と、当たり前のことを、当たり前のように聞くと、
「まあ、まどかちゃんがどれほどの事件の数を、数々という表現になっているのかというのは分からないけど、私の感覚からいえば、それなりということだね」
 というのだった。
 それを聞いて、まどかは少し憤慨した。
 まずは、
「まどかちゃん」
 と呼ばれたことだ。
 親からも、ちゃん付けされたことはない。それを思えば、馴れ馴れしさだけが印象に残り、実際には、冷めた気持ちになっているのであった。
 そして、もう一つは、
「それなり」
 という言葉だ。
 まどかとしてみれば、この、
「それなり」
 という言葉は、言い訳のようなものにしか聞こえない。
 しかも、その曖昧さというものが、相手をして、何を信じろというのか?
 このような曖昧な言葉を吐く人間を父親が、なぜ娘に頼りなさいと言い含めることになったのだろう?
 と考える。
 ただ、これも、
「遠藤探偵の人たらしとしての一つの技だ」
 ということであれば、さらに癪に障るというものだ。
 本来なら、
「もう一時もあなたと一緒にいたくない」
 といって、中座するのだろうが、問題は、
「父親が行方不明」
 ということで、さらには、その父親が、
「頼りなさい」
 と言った相手ではないか。
 それを考えると、またしても、
「お父さんはなんで?」
 と勘がるに至るのであった。
 そもそも、父親は、数学の先生ではないか?
 ということで、
「このような曖昧で、いい加減に見える男を、答えは一つしかないという数学の先生が信用するなんて」
 と思えてならないのだ。
 それこそ、
「お父さんは、数学というものを、もっと曖昧なものだ」
 と考えているのではないかと感じていた。
 この思いは、実は最近になってのものではなく、それこそ、まどかが、まだ中学時代くらいからではないかと感じたのだ。
「それにしても、お父さんは、どこに行ったのだろう?」
 とまどかが考えたその瞬間、
「そうだね。お父さんが心配だよね」
 と言われて、まどかはドキッとした。
「いったい、私のどこから、私の考えていることが分かったのだろう?」
 とまどかは考えた。
「お父さんが心配とは?」
 と聞くと、別に驚くこともなく、普通に、
「お父さんが帰ってこないんでしょう?」
 というのだ。
 家族も、何が起こったか分かっていない状態で、父がいなくなったのを、まるで判を押したようにタイミングよく表れた遠藤探偵なので、それこそ、
「何か知っているのでは?」
 と疑いたくなるのも無理もないことだろう。
 そして、それでも自分の前に現れるのだから、それなりの度胸と覚悟を持ってのことであろう。
 もし何かを知っているのであれば、そう簡単には白状しないに違いない。
 そんなことを考えていると、
「この男は海千山千で、油断のならない人だ。あまり深入りしたり、必要以上に信用したりしないようにしないといけない」
 と、まどかは感じた。
 ただ、探偵というものをしているだけあって、これまでにも、幾多の山のようなものを乗り越えてきたのかも知れない。そんな相手に余計なことを話したりすれば、それこそこっちの手の内がすべて分かってしまうということになる。
「どうして、お父さんがいなくなったということを知っているの?」
 とわざと聞くと、相手は、にんまりとして、それ以上は答えなかった。
 それを見て、
「この人、気持ち悪い」
 とまどかは思った。
 最初こそ、自分の手に負えるくらいの人だということを感じていたが、時間が経てば経つほど、この人の行動パターンがまったく読めないと感じたのだ。
 それこそ、
「敵か味方か?」
 ということで、簡単には信用できないということに変わりはないだろう。
 そんな遠藤探偵が、口を開いた時、話題が急に変わってしまった。
「私がね。筒井先生と初めて会ったのが、とある場末のバーだったんですよ」
 という。
 そもそも。
「場末のバー」
 と言われても、なんとなく想像はつくが、まだ高校生のまどかに分かるわけはない。
 それでも、遠藤探偵は、お構いなしにわが道を行くという感じで話してくるのであった。
 探偵は話を続ける。
「お父さんは、同僚と来ていたようで、その話が、探偵である私にも興味が持てるような話だったんですがね。なんといっても数学者の話でしょう? バーのようなところでも、なかなか踏み込める話題ではない。だから、先生は仲間の人と、隅の方でこそこそと話をしていたということだったんだよ」
 という。
「お父さんが、仲間の人といたんですね?」
 とまどかがいうと、
「ええ、お父さんは結構饒舌でしたよ。確かにアルコールが入ると、饒舌になるという人も結構いるけど、先生は、そもそもが饒舌なんじゃないかな? 娘さんから見て、どうだったんですか?」
 と次第に話がそれてくるのは分かったが、とりあえず、様子を見ることにした。