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限りなく完全に近い都合のいい犯罪

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 この場合、
「状況証拠は、推定有罪」
 ということなのだろうが、
「物的証拠」
 というのは、取り押さえた証人の証言だけということになる。
 証言なので、
「ウソを言っている」
 という場合もあれば、
「実際に見てもいないのに、あたかも見たかのように証言する」
 ということが、一番曖昧で、厄介なのだ。
 つまり、
「事実は、本人しか知らない」
 というわけで、
「真実を捻じ曲げられている」
 と言ってもいい。
 下手をすれば、証言をした人間が犯人であるという可能性もある。
「このままだと、いつ被害者である女性が、開き直って腕を掴んで、この人痴漢ですと叫ばないとも限らない」
 と思ったところで、
「別の犯人をでっちあげるか」
 ということにして、逃げるのが、犯人とすれば一番手っ取り早いわけである。
 そもそも、自分から、他人を犯人だと告発すれば、まわりの状況から、
「犯人は、自分が指摘した人になる」
 ということは、ほぼ決定している。
 そもそも、これが殺人事件などであれば、
「第一発見者を疑え」
 というミステリーの公式のようなものがあることから、ここまで効果的ではないだろうが、現行犯というのは、証言だけでも、推定有罪になるということで、犯人に仕立て上げられやすいという意味でも、冤罪の問題をもっとハッキリさせなければいけないだろう。
 実際に、痴漢犯罪であったり、現行犯の犯罪の中で、本当の冤罪というものがどれだけあるのかということは分からないが、自分でも、ミステリー小説を書いている河合刑事とすれば、どうしても冤罪事件を無視できない気持ちになり、その憤りは、他の誰よりも強いと言ってもいいだろう。
 清水刑事は、そこまで考えてはいないようだが、河合刑事は、今回のひき逃げを、
「単純なひき逃げではないかも知れない」
 という思いを抱いているのであった。

                 敵の敵は味方

 だから、清水刑事は、
「ひき逃げをした犯人を捕まえる」
 ということを最優先に考えていた。
「犯人さえ捕まえれば、それで事件は解決だ」
 と思っていたわけで、そこが、河合刑事と考えかたが最初から違っていたと言ってもいいだろう。
 清水刑事と、河合刑事は、被害者の父親である久保田氏から話を聞いたのだが、最初おから、事件に対しての見方が違っていた二人だったので、事件に対しての思いが、久保田氏の話を聞いたところでどのように変わったのかというのは興味深いところであっただろう。
「ところで、今回奥さんは見えられませんでしたが?」
 と、清水刑事が訊ねると、
「はあ、家内は、どちらかというと、すぐに気が動転するタイプですので、息子のこのような姿を見せるのは忍びないと思いまして、連絡を受けた時、私の方で、警察への出頭は止めました。私が海外から帰国してから、出頭するからと言ってですね」
 といい、そこには、後ろめたさのようなものがあった。
 それを、清水刑事は、
「警察に対しての捜査上、迷惑をかけることに対してのうしろめたさだ」
 と感じていたのだが、河合刑事は少し違った。
「実際には分からないけど、警察とかはどうでもよく、家庭の事情を優先したという風にしか感じないのだが」
 と思っていたのだった。
 そもそも、小さいとはいえ、会社社長が、母親の精神状態などを考慮しての行動なのだから、もっと、毅然としていていいはずだ。それを、
「警察に対してのうしろめたさ」
 ということであれば、もう少し態度が違うのではないかと、河合刑事は思ったのだ。
 清水刑事は、普段から、
「殺人事件」
 などの捜査をしているので、実際に犯人であったり、その関係者の精神的に追い詰められていたり、切羽詰まった状況においての精神状態をずっと見てきたことで、犯罪というものを区別してはいけないのだろうが、心のどこかで、
「ひき逃げ」
 というのは、卑劣な犯罪ではあるが、凶悪犯罪というわけではないということから、どこかで、
「甘く見ている」
 ということもあるであろう。
 だから、清水刑事も、いきなり、デリケートな部分から質問をぶつけてきたのかも知れない。
 もし、これが河合刑事であっても、最初は同じ質問をしたかも知れない。
 これは、清水刑事の場合と違って、
「このひき逃げには何かありそうな気がするな」
 という、
「考えすぎ」
 とも思えるところなので、まず、最初に相手の反応を見るという意味で、
「核心をつく」
 という質問をしたとしても、無理もないことだと本人は思った。
 だから、最初は、
「清水刑事も、自分と同じように、事件の裏を感じたのかな?」
 とも感じたが、この話は、ただの導入部という感じで、それ以上の深堀はなかったことから、清水刑事が、あまり深くは考えていないと思い、正直、がっかりしたのであった。
 だから、今度は、河合刑事が、自分なりに、話を切り込んだ。
「何か、ご家庭で複雑な事情がおありなのでは?」
 と、またしても、切り込む形の質問をした。
 それを聴いて、一番びっくりしたのが清水刑事で、反射的に、河合刑事の顔を見た。
 その顔は、苦み走ったかのようであったが、それを河合刑事だけが感じることができたようで、実際の久保田氏は、さらに、さっきのうしろめたさが深まったかのようで、苦み走った顔にはなったが、これも一瞬だったのだ。
「別に言わなくてもいいことを」
 という清水刑事の表情であったが、久保田氏からすれば、
「刑事が何かを感じている」
 と感じたのか、それとも、
「どうせ、あとで調べればわかること」
 ということで、
「それなら、最初から話す方がいいだろう」
 と、開き直ったのかも知れない。
「実は」
 ということで、ゆっくりと、久保田氏は口を開き始めた。
「信二というのは、家内が生んだ子ではないんですよ」
 ということであった。
「ほう」
 と、清水刑事は、疑問がその言葉で解けた気がしたので、自分の中ではある程度、スッキリとしているようだった。
「今の家内は、後添いでして、最初に結婚した女房というのは、まだ会社を立ち上げてすぐくらいの頃に結婚しまして、というのも、実は、できちゃった婚だったこともあって、むげにはできないということから、そそくさと結婚式を挙げて、バタバタした毎日だったんです」
「会社は、久保田さんが創業者ですか?」
「いいえ、祖父が創業者ということで、私は三代目ということになります。祖父が創設した時は、まだバブル前くらいだったので、経済成長も結構あり、日本経済がピークになっていく時だったこともあって、いい時代だったですね。でも、父の時代になってから、バブルの崩壊などもあり、会社は、どんどん規模を縮小し、途中、大手に吸収される形になったんですが、今度はそこから、父の代に、独立することになったんです。どうやら、親会社の目論見で仕方なくということでした」
「なるほど」