限りなく完全に近い都合のいい犯罪
「研修期間中に退職した」
といってもいいだろう。
その会社は、食品の問屋で、父親の仕事を考えれば、
「一種のコネ入社」
ということだったのかも知れない。
だが、コネ入社であれば、
「実際に会社を辞めようと思う人っているのだろうか?」
とも思える。
「せっかく、就職先を世話してくれたのに」
と思うのは、まわりから見ているからであり、実際には、
「人の紹介だから辞めるというわけには簡単にはいかない」
ということで、プレッシャーから、我慢できなくなり、衝動的に辞めてしまうという人もいるだろう。
また、本人には、辞めたいという気持ちはなくても、精神的な圧力から、身体を壊して辞めざるを得ないということになることもあるだろう。
それを考えると、
「コネ入社であろうがなかろうが、辞める人は辞めていく」
としか、まわりからは見えないのだろう。
会社としても、本人が辞めたいということで、退職願をもってきたのであれば、それを断るわけにもいかない。
特に、今のような、
「終身雇用」
などというものがない時代、実際に退職者もかなりいたりするのだ。
せめて、辞めていく人から、
「こんなブラック企業。こっちから辞めてやる」
ということでないだけ、よかったと思えばいいのかもしれない。
実際に、世の中には、
「ブラック企業」
と呼ばれる、誰が見ても理不尽な会社もある。
実際には、そんな会社もあるが、社員の立場からは、大っぴらに言えない人も多く、泣き寝入りするという人も少なくないだろう。
逆に、
「ブラックでもないのに、社員がそう思い込むことで、ブラック認定される」
という会社もないわけでもない。
それこそ、痴漢犯罪の冤罪のように、
「被害者の立場が強い場合」
ということである。
痴漢の冤罪などというと、今までが、
「ほとんど、女性側の泣き寝入り」
ということであったが、昨今の、
「男女平等」
という観点から、逆に女性の立場が強くなったことで、女性が、
「触られた」
などといって声を挙げれば、ほとんどその瞬間、冤罪であろうが、
「推定有罪」
ということにされてしまう。
まわりの人も、その状況から、まず間違いなく、女性の味方をする。特に男性はそうかも知れない。
「下手をすれば、自分が冤罪の被害者になっていたかも知れない」
という状況で、中には、
「俺が被害を受けていないのだから、いくらでもいえる」
と考えている輩もいるだろう。
もちろん中には、
「自分が、一歩間違えれば冤罪で加害者にされたかも知れない」
ということで、
「恐ろしくて、その加害者認定された人を攻撃できない」
という人もいるだろう。
本当は、そっちが当たり前のはずなのに、それでも。男がまるで自分が、
「正義のヒーロー」
にでもなったかのように振舞うのは、
「男の中での、どこかうしろめたさを隠そう」
と考える人が多いからではないか?
そう考えるのは、おかしな発想であろうか?
ただ、警察としては、建前上は、
「まわりの人が女性の味方というのは、女性としては、心強い」
ということで、彼らの行動を、
「勇気ある」
ということでほめたたえるかも知れないが、本音としては、
「自分がその立場になったらどうするんだ?」
ということで、何ともいえない苛立ちが心の奥にくすぶっているといってもいいだろう。
特に、
「こいつ痴漢だ」
といって、被害者を助けるかのように、被害者が何も言えない状況で、一人の男性を告発する形になる。
それは、
「まわりの人が全員自分の味方になってくれる」
ということを計算ずくでのことだろう。
そうでなければ、できるはずがない。
実際に、声を挙げた男は、
「正義のヒーロー」
に祭り上げられる。
しかし、他の連中が、その男を正義のヒーローに祭り上げるという行動を、
「よく分からない」
と思っている人もいる。
それが、実は、河合刑事だったのだ。
彼は、別に警察官をやっているからといって、勧善懲悪というわけではない。実際に勧善懲悪だから、警察官になったというのであれば、最初から、
「刑事課勤務」
と要望したことだろう。
しかしそうではないのだから、勧善懲悪ではないといってもいいだろう。
河合刑事は、
「痴漢犯罪に対して、犯人を指摘するという行為を、偽善者だ」
とまで感じている。
実際に、口に出すことはないが、偽善者というのか、承認欲求というものが強すぎると思っているのであった。
なぜなら、
「もし、その人が冤罪であれば、いずれ、復讐の対象になるのではないか?」
ということを、どうして考えないのか? と思うのだった。
というのは、
「人を告発するということは、勇気がいることだ」
という意識が強い。
実際に、刑事ドラマなどで、告発されたことで、家族がバラバラになったりして、その家族の人間が、告発した人に、復讐するということは実際にあるような話もあるではないか。
ドラマとしては、
「冤罪を受けた人は、会社をクビになり、奥さんからは離婚され、子供も将来がめちゃくちゃになってしまった」
という話から、数年経って、その子供が、復讐のために、その告発者を、同じように冤罪の罪に着せようとたくらむということもあったりする。
警察に突き出すくらいならまだいいが、協力者が悪いやつだったりすると、
「美人局」
として、脅迫されることになり、
「一生脅される」
という恐怖を味わうことになるだろう。
それこそ、
「ミイラ取りがミイラになる」
というたとえではないが、脅迫があだとなって、
「もう、殺すしか脅迫から逃れることはできない」
ということで、相手に殺意を抱かせることになり、
「殺人事件に発展する」
ということになるだろう。
そうなると、
「復讐の連鎖」
というものが巻き起こり、
「結局、誰が被害者なのか?」
ということになってしまう。
「永遠に続く、果てしない負のスパイラル」
といってもいいだろう。
だから、河合刑事は。
「安易に、自分の承認欲求というものを満たしたいがために、正義のヒーローになろうとする人間を、俺は許せない」
と思うのであった。
実際に、交番勤務の時、交番に、
「痴漢の現行犯」
ということで、連行してきた一般市民である、数人の大学生がいたが、彼らの態度が、あまりにも、
「俺たちがいたから、警察は検挙できたんだ」
というような、
「上から目線」
だった。
そして、
「あんなやつは、ちゃんと処断してくれ」
と、勝手なことも言っていた。
あたかも、
「俺たちが捕まえたんだから、俺たちが言うことには従え」
とでも言わんばかりだった。
警察官としては、ある意味、そういう輩に憤りを感じる人も少なくはないだろう。
なぜかというと、
「他人事のように、好きなように言っても、それでも、正義のヒーローとして祭り上げられるからだ」
ということであった。
警察は、そんなわけにはいかない。
もちろん、
「冤罪」
ということもあるわけで、ちゃんとした証拠、それも、状況書庫だけでなく、物的証拠も必要になる。
作品名:限りなく完全に近い都合のいい犯罪 作家名:森本晃次