限りなく完全に近い都合のいい犯罪
「フルモデルチェンジ」
することもあれば、数年で、
「マイナーチェンジ」
をするものもある。
だから、警察に入り、交通課に赴任したことで、今の時代の車を覚えても、
「チェンジ前の車」
ということになると、なかなか分からないことが多かった。
先輩からは、
「車の種類も分からないのに、よく交通課を申し出たものだな」
と言われたものだった。
実際に、刑事にあるのだから、花形として刑事課への希望は多かったが、交通課はそれほどいない。だから、
「交通課志望」
ということであったので、
「二つ返事で交通課」
ということになったのだ。
警察というものが実際には刑事課だけではなく、他にもあるということで、特にミステリーを書いていた河合刑事にとっては、
「警察のウラというのは、小説やドラマで分かっている」
と思っていた。
実際に警察にいると、
「やっぱり、その通りだったんだ」
ということになるだろう。
河合刑事は、その日、清水刑事から、事件の話を聞いて、目撃者捜しを始めた。刑事課も忙しいということで、刑事課と一緒に捜査を行った。刑事課の方としては、
「故意ではないか?」
ということも視野に入れて捜査をするということだったからだ。
清水刑事は、とりあえず、被害者の身元を調べ、故意かどうかの捜査を行っていた。
まず、判明していることとして、被害者は、事故に遭ってから病院に運ばれ、治療を受けていたが、その甲斐もなく、そのまま死亡したということだった。
つまり、これが交通事故ということであれば、業務上過失致死ということであるが、最初から本人を狙っての、事故を装った事件であれば、
「殺人事件」
ということになる。
しかも、
「事故を偽装した」
ということで、悪質だともいえるだろう。
そのあたりを警察が捜査で明らかにしていかなければいけないという状態で、その後の捜査が重要であった。
被害者は、名前を、
「久保田信二」
という名前であった。
家族に連絡を取ったが、家族とは連絡が最初は取れなかったのだが、少しして父親という人から連絡があり、警察に出頭してもらった。
「私は、信二の父親で、久保田義信といいます。市内で、小さな食品工場を営んでいるんですが、おかげさまでやっと、手広く取引してもらえるだけの会社となり、その継続に今忙しくしているところです」
ということであった。
父親の久保田氏が出頭してきたのは、事故が起こって三日後のことであった。話を聞くと、仕事で海外に言っていたということだった。
「原材料の仕入れ先との取引の話」
ということであったが、帰国後息子の交通事故を知って、出頭してきたということであった。
被害者の所持品などから、被害者が誰なのかということは、すぐに判明した。もし、被害者を故意にひき殺したとした場合、犯人は身元がバレたとしても、そこは関係ないということであろうか。
実際に、母親に連絡を取ると、母親はびっくりしていたようだが、
「主人がとにかく海外に行っているので、連絡を取ってみます」
というだけだった。
警察としては、なるべく早く、被害者を特定したいということではあったが、相手がそういうのを、無理に連れてくるわけにもいかず、
「主人は明後日帰国しますので、それから出頭するようにいたします」
という返事があっただけだった。
おそらく、久保田氏が、
「警察には私が赴く」
とでもいったのだろう。
そうでなければ、本来なら飛んできてもいいくらいだからである。
その証拠に、警察に出頭してきたのは、主人の久保田氏だけだった。母親は来ることはなかったのだが、その状況だけで、
「この家族は、なんとなく異常な家族なのではないか?」
と、清水刑事は感じていた。
実際に話を聞いてみると、
「それも致し方がないか?」
と思えるところが、ちらほら散見された。
まずは、所持品からは、
「久保田信二本人に間違いない」
ということは分かっていた。
何といっても、運転免許証に写真がついているので、その写真と被害者を見比べれば、一目瞭然というものだった。
だが、本人と確定するには、やはり、人の目というものを重視するというのか、とにかく、親族の証言であれば、間違いないというものだ。
ただ、母親が来なかったというのは、分からなくもない。
「女性一人に、この状況を見せるのは酷だ」
と旦那が感じたのかも知れない。
特に自分が海外に出張中で留守にしている間に起こったことだ。それを、奥さんに押し付けるわけにはいかないと思ったとしても、それは無理もないと思えた。
しかも、霊安室という独特の雰囲気は、
「男の私でも、感極まる気持ちになりそうだ」
と、久保田氏が言っていただけに、奥さん一人は気の毒に思ったに違いない。
ただ、
「旦那と一緒に来ないというのはどういうことなのだろう?」
という思いはあった。
確かに、一人は厳しいだろうが、旦那と一緒だったら、少しは違うはず。今までに、殺人事件であったり、事故によって死んだ人と霊安室で対面した母親も多数いて、その時は、どの刑事もいたたまれない気分に苛まれたであろうが、それでも、
「通らなければいけない道」
ということで、母親も覚悟の上ということであったのだ。
特に、最初は、
「息子に会いたい」
という気持ちなのか、それとも、この期に及んでも、
「何かの間違い」
ということで、
「息子であってほしくない」
という一縷の望みをかけていたといってもいいだろう。
しかし、結局その望みもむなしく、
「やっぱり、息子だった」
ということで、
「絵に描いたような悲劇の対面」
というものを目の当たりにしなければならない。
そのたびに、刑事はいつも、やりきれない気持ちになり、
「事件解決への新たな決意が芽生える」
というところでもあったのだ。
今回は、その母親が出向いてくることはなく、父親の出頭だった。警察とすれば、
「どちらでも構わない」
ということなので、
「変な家族だな」
と思いはするが、母親が来ていないことに対して、改めて言及するということはしなかった。
「間違いなく息子です」
ということで、最初顔の上の布を取った状態の死に顔をじっと見つめていた久保田氏であったが、その顔は、恐怖に歪んでいた。
そのうちに、情けない顔になってきて、その時に、
「自分の息子に間違いない」
と確信したことで、一気に悲しみがこみあげてきたということになるのだろう。
今までの経験から、清水刑事も、予想がついた。それだけに、いつもの憤りが襲ってくるのであった。
死体検分ということで、父親に確認してもらってから、その場を離れた二人は、刑事課の応接室に戻り、話を聞くことになった。
「ところで、息子さんはどういう青年だったんですか?」
と清水刑事は訊ねた。
もちろん、警察でも調査できるところは捜査できたのだが、それはあくまでも、形式的なことで、
「書類上」
といってもいいだろう。
大学を卒業してから、一般企業に入ったのだが、どうやら、半年もしない間に辞めているということであった。
つまりは、
作品名:限りなく完全に近い都合のいい犯罪 作家名:森本晃次