限りなく完全に近い都合のいい犯罪
「ええ、そういうことになります。この間結婚20年をやりましたから」
「じゃあ、結婚されたのは、前の奥さんが、子供を育てられないと言ってきた後だったんですか?」
と言われ、
「いいえ、結婚した時は、子供は前の奥さんのところで普通に育っていると思っていた時でした。そうでないと、さすがの私も、状況が変わったところで、結婚するという選択肢はなかったかも知れないですね」
というのであった。
「じゃあ、二度目の結婚というのは、最初の結婚のように、できちゃった婚のような、やむを得ない事情というのはなかったんですか?」
と聞かれ、
「ええ、さすがの私も、そんな二度も同じ失敗を繰り返したりはしませんよ。普通に好きになって、相手からっも同じように好きになられて、本当に普通の恋愛結婚でしたね」
「今の奥さんは、あなたに前妻があって、子供もいたということをご存じの上で結婚されたんですか?」
「ええ、もちろんです。私はこう見えても、隠し事は嫌いですから、何もかも分かったうえでなければ、結婚相手に選ばないということは思っていましたからね。特に、最初の女房が、隠し事を嫌う女でしたからね」
と言いながら、また苦虫を噛み潰していた。
それを、違和感を持って聞いていたその態度に、久保田氏は気づいたのか、
「ああ、あの女は、人が隠しごとをしていると、責めてくるくせに、自分だって簡単に隠し事をする。しかも、それが天才的にうまかったので、自分の場合はバレルことはないと思ったのか、それとも、開き直ったような態度を取ることで、相手に疑われることはないという悪知恵からなのか、確かに、悪知恵の働く女でしたね」
ということであった。
ということは、
「悪知恵が働くくせに、ホストのような変な男に引っかかり、結局は。ろくでもない女になったということなのかな?」
と清水刑事は思ったが、
「この女、最初から腐っていて、変な男に引っかかったというのも、引っかかるべくして引っかかったと言ってもいいほどの悪女だったんだ」
と思うのだった。
「結局、悪女だ」
という結論には変わりないが、それを、清水刑事は、
「育った環境などからで天性のものではない」
と思っていたが、河合刑事は、
「生まれながらにそのような性格でなければ、あんなひどい人間にはならないだろう」
と感じていた。
どちらが正しくて、どちらが間違っているかということを論議することはしないが、二人の間に、
「決定的な結界のような考え方の違いがある」
と言ってもいいだろう。
それを、お互いに、まだその時は分かっていなかった。
「元奥さんのことを悪くいうのは忍びないですが、その奥さんにしても、ホストの男にしても、いわゆる人間のクズのような人だったということなんでしょうね」
と清水刑事がいうと、久保田氏は、黙って頷くだけだった。
ここまで話を聞いてきたうえで、さらに話を続けるのは、少し躊躇した気分になっていた清水刑事とは別に、河合刑事は、質問に対して、貪欲になっていたような気がする。
清水刑事が、
「質問をするのを躊躇している」
ということを知ってか知らずか、河合刑事本人としては、すでに、清水刑事の考えは、眼中にないと思っていたようだった。
久保田氏の方も、このようなことを、
「いくら警察だからと言って」
とは思っても、必要以上に、逆らう気にはならなかった。
むしろ、
「この場で、ハッキリと言っておかないと、後になってから、このことを言おうとすると、精神状態が不安定になるだけで、それらら、まだ今の方がいい」
と思っていたようだった。
「今の奥さんとすれば、子供がいるのは分かっていたけど、その子を引き取らなければいけないという状況になったのだとすれば、普通であれば、そう簡単に納得できるわけはないと思うんですが?」
と河合刑事が聞くと、
「ええ、それはもちろんです。私も先代も、そのことを一番気にしていました。子供を引き取る分には、父親とすれば、跡取りができるということで、よかったと思っていると思います。しかも、子育てをするのに都合よく、私には後妻がいますからね。先代は、私や、妻の気持ちなどはあまり考えているわけではなく、会社のことと、世間体などしか考えていない人で、だからこそ、昭和の考え方をした人だったということなんだと思います」
「なるほど」
と河合刑事は相槌を打ったが、
「世の中で、初代が偉大であればあるだけ、二代目というのは、影が薄いということを歴史が証明している気がする」
と思った。そして。
「二代目は、初代の真似をするから、自分が目立たないと思えば、なるべく先代に逆らおうとすることだろう、しかし、そのつど、事態が悪い方に行ってしまうと、結局、先代のやり方に立ち返るということになるだろう。それが、久保田氏の父親だったのではないか?」
ということを感じ、
「そのために、当事者である三代目である久保田氏はその影響を真正面から受けているので、昭和の考えと思うのだろうが、まわりの人からみれば、その存在感は、先代の影に隠れていると思うので、あまり評判はよくないといえるかも知れない」
そう思うと、
「親父のやり方は、俺に対してあんなにひどい仕打ちなのに、世間ではろくなことを言われていない。もっと、まわりに自分を出せればいいのに」
と感じるようになったのだ。
そのせいもあってか、久保田氏は、先代に頭が上がらないと思うようになっていたのだった。
その話を思い出しながら、
「俺が悪いのかな?」
と、久保田氏は考えるようになった。
「ところで、息子さんなんですが、そんな複雑な親子関係だったことで、普通にお話とかできましたか?」
と、
「立ち入ったことを聴いてしまった」
と思った河合刑事だったが、ここまで分かっている以上、聞かないわけにはいかない。
実は、久保田氏の方でも、少し警察の立ち入った話方に、違和感を覚えているようだった。
何となくソワソワしたような雰囲気に、
「次には何を聞かれるんだろう?」
という雰囲気が漂ているのだが、それを聴いてこないようにしているのは、
「下手なことを言って、相手を刺激したくない」
という感情が現れているからではないだろうか?
それを考えると、久保田氏は、自分が子供時代を思い出していた。
「ちょうど、いじめ問題というものが起こってくるくらいの時代だったかな?」
という覚えがあった。
だから、
「絶対に余計なことをしてはいけない」
という思いが強く、そのくせ、父親の
「昭和の頑固さ」
というものには、余計についていけなかった。
学校での苛めの対象になることはなくて、事なきをえたのだが、
「あいつは、いつも友達を犠牲にする」
というウワサを立てられたことがあった。
実際には、そんなことをした覚えはないのに、なぜなのか自分でも分からなかった。
一つには、
「いつも逃げてばかり」
ということを言われるようになったからではないだろうか。
実際に友達を犠牲にしたわけでhないのに、そんなことを言われると、いつの間にか、
「まわりに味方がいなくなった」
という状態になった。
そうなると、
作品名:限りなく完全に近い都合のいい犯罪 作家名:森本晃次