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洗脳の果てに

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「軍人らしく、いや、帝国民らしく、潔く死ぬ」
 という方を選ぶことだろう。
 そんな時代においての、法度というものは、実に厳しいものだというのは当たり前のことである。
 それと同じくらいに、手島家においての法度も厳しかった。
 特に、参謀として、伊集院家に尽くしているという立場で、
「中途半端なことはできない」
 ということである。
 それを考えると、
「法度は、鉄則」
 というものであり、守られることを大前提として、できなかった場合の罰則も、かなりのものにしておく必要がある。
 ということになるのだった。
 もちろん、日本は戦争状態という有事ではないが、あくまでも、
「命のやり取り」
 というものはないが、
「生きていくうえでの厳しさ」
 というものは存在するのであって、それも、かなり厳しいものである。
「明日は食べるものもない」
 という状態にいつならないとも限らないということで、
「人は一人では生きていけない」
 とも言われている。
 だから、組織に所属して、生活できている以上、その組織の結束は守らなければいけないということになるのだ。
「今の、命のやり取りがない状態で、ギリギリの暮らしを余儀なくされることもある」
 ということで、せめて、
「命を奪うということを鉄則にしているのは、当たり前だ」
 ということであろう。
 基本的には、
「無益な殺生」
 ということであるが、それを拡大解釈をすると、
「人の命を奪わないといけないのであれば、他に解決方法もあるのではないか?」
 ということからきているのであろう。
 それも、
「戦地に兵隊として出ていけば、いつどこで命を落とすか分からない」
 という状況であり、
「銃後」
 ということで、兵にいかずに国内にとどまっていても、都市部においての、毎日のような空襲においては、
「いつ、頭の上に爆弾が降ってくるか分からない」
 という状態では、普通の精神状態でいられるわけもない。
 下手をすると、命を軽んじてしまうことが、当たり前で、命に対しての感覚がマヒしてしまっているということになると、当然のことながら、
「究極の精神状態」
 といってもいいだろう。
 だから、せめて、
「平時においては、命を奪う必要などない」
 という発想から、このような法度ができたのであった。
 今の日本国においての、
「お花畑的な平和ボケ」
 ともいえる頭では、
「人間を殺害するということに対して。しょうがない」
 と思っている人も多いかも知れない。
 それは、自分の肉親を殺した人がいるとすれば、その人間に対しての、
「収まることのない復讐心」
 というものを抑えてしまうと、
「自分が自分ではなくなってしまう」
 という考えを持っている人がいるからであろう。
 ただ、それも無理もないことで、今の日本では、仇討ちは許されていないが、人情的には、
「許されても仕方がない」
 ということになるに違いない。
 そんな状態において、起こった殺人事件であったが、犯人は、覚悟していたのだろう。
 まったく偽装工作をすることもなく、相手を殺害することだけが目的で、その場から一度逃げたのだが、すぐに出頭してきた。
 ほぼ、自首に近かったのだが、一度逃走しているだけに、自首とは認められないということであった。
 それでも、情状酌量の余地はあるということで、執行猶予がついた。
 というのも、被害者は即死ではなく、一度息を吹き返し、数日後に亡くなっていることから、適用されたのは、殺人罪ではなく、
「傷害致死」
 ということであった。
 そのため、判決は、執行猶予付きになったのだが、組織からは、懲戒免職扱いになり、職を追われることになった。
 そして、その人にさらに不幸が襲ってきて、それから1年後にまた、犯罪に手を染めてしまった。
 正当防衛に近かったのだが、その時は、自分が殺そうとしたのではなく、付き合っていた女が、どうやらその相手の男にストーキングを受けていて、悩んでいたので、彼女を助けたいという一心から、彼女のための犯罪だったのだ。
 それを何とかしなければいけないと思い、彼女を黙って見はっているところで、男が不審な行動をしていたという。
 そこで、尋問してみると、相手は面倒くさそうに逃げようとしたので、彼が怒って、その男と殴り合いになった。
 相手は、近くにあった空瓶をたたき割ると、それを凶器にして襲い掛かってきた。
 そこから先は、加害者である彼も、自分で覚えていないというほどに、精神的に錯乱していた。
 相手の男はその場で死んだのだ。
 彼はその時、伊集院グループの手島一族で、
「詐欺の片棒」
 を担いでいたのだ。
 いくら執行猶予がついたからといって、他の会社は、なかなかとってはくれない。
 それも仕方のないことであり、伊集院グループの手島一族は、そんな彼が、
「傷害致死」
 を犯したことは分かっていた。
 本来なら、
「殺人は御法度」
 なのだが、それは以前のことで、
「会社で業務中に犯した罪であれば、追放ということになるが、前の事件なら問題ない」
 ということで、
「むしろ、うちの仕事をする覚悟があるのであれば、歓迎しよう」
 といってくれたことで、
「では、お世話になります」
 と言ったのだった。
 罪の意識があって、なかなか社会が受け入れてくれないのも、仕方がないとは思っていたが、
「ここまでひどいとは」
 という思いも次第に出てきた。
 今では、
「罪の意識」
 というよりも、自分に対しての酷さを考えると、社会に対しての不満や怒りの方が強くなっていた。
「詐欺? そんなもの、騙される方が悪いんだ」
 というくらいに考えたのだ。
 まだまだ、犯罪に染まっていない彼だったが、そんなことは彼にも分かっていた。だが、世間というものの理不尽さだけは、
「味わった者でなければ分からない」
 と、いまさらのように感じていた。
 だから、手島一族への入社を決めたのだった。
 彼は名前を桜井という。
 桜井は、そもそも、自分がどうして、
「こんな不幸な星の元に生まれたのか?」
 ということをずっと考えていたが、その理由が最近分かっていた気がした。
 それは、自分でもずっと知らないことであったが、彼の母親が、不治の病に罹り、医者からは、余命宣告を受けていた、
 その時に、死の少し前くらいに聞かされたことが、彼には衝撃的であったが、彼には、
「言われてみれば」
 という気持ちがあったのだ。
 というのは、彼の今までの境遇を考えると、不思議だと思っていたことが、分かってきたからだ。
 それはほとんど家族関係のことで、
「小学生の高学年くらいの頃から、父親となかなかうまくいかなくなっていた」
 ということから始まった。
 考え方が、合わないのだ。
 性格的にも、
「受け入れられない」
 というものがあり、何度、
「本当に自分の父親なのか?」
 ということを思うようになってきたのであった。
 確かに、そんなことを考えていると、
「そういえば、父親との確執の前から、いつも両親は喧嘩していたな」
 と思うようになっていた。
 今では、そんなことは日常茶飯事で、むしろ、
「それは当たり前のことだ」
作品名:洗脳の果てに 作家名:森本晃次