死体損壊と、犯罪の損壊
ということから悟っているので、犯罪者のつもりになって、覚悟と計画性を交わるように考えようということになるのである。
それを考えると、どうしても、犯人に近づこうとするが、犯人の中には、
「逆も真なり」
ということで、そんな警察の考えの裏をいこうと考える人も多いような話を聞いたことがあった。
しかし、昭和のこの時代に、そこまで考える警察はいなかっただろう。
犯人側はそういう意味では、
「警察の裏をかこう」
ということはできないわけではないのだった。
今回の犯人も同じような発想であり、意外と、
「灯台下暗しなのではないか?」
ということだったのだ。
「実際に、この白骨死体は、この時の犯人ではないか?」
ということは、白骨死体と一緒に埋まっていたカバンの中の札束と、盗まれた現金の束とから、番号で割れたのだ。
実はこの狙われた銀行の場合、
「銀行強盗にあった時に、差し出す札束をどれにするか?」
ということは決めていた。
登録番号を最初から控えておいて、その番号が使われると、そこから指紋などが採取できれば、強盗の身元を知ることができるだろうし、
「盗まれた金も返ってくるかも知れない」
ということで、最初からこの銀行は計画していたのだ。
ということであった。
それが、まさか、
「腐乱死体の身元発見に貢献する」
とは思ってもいなかっただろう。
それでも、
「その男が、銀行強盗かも知れない」
ということは分かったが、だからと言って、
「誰なのか?」
ということが分からない。
強盗があった時、指紋は出てはきたが、前がないということで、特定には至らなかった。しかし、登録番号が一致したことで、銀行強盗だということは分かったのだ。
ということは、
「殺人犯としては、銀行強盗だということは、分かってほしいが、それでも、この男が誰なのか?」
ということの、限定は避けたかったということになるのであろう。
それが何を意味するということになるのか、それが警察には分からなかったのだ。
この事件を一連の事件として考えると、
「ある程度までヒントはあるのだが、肝心なところでは、煙に巻かれてしまう」
ということになる。
「犯人の意図はどこにあるというのだろう?」
それが、問題だったのだ。
数日すると、門脇を襲った男が意識をとりも度した。彼は、どうやら、頭の打ち所が悪かったのか、話が支離滅裂であった。警察も、
「これは、事情聴取どころではないな」
ということで、どういえばいいのか、頭が混乱しているようだった。それは、八木刑事としても、下瀬刑事としても、同じことであった。
「それにしても、かたや、記憶喪失。かたや、話が支離滅裂って、どういうことなんだ?」
としか考えられないではないか。
と八木刑事はいったが、
「そうですかね? これは僕の勘でしかないんですけど、支離滅裂なことを言っているのかも知れないけど、ひょっとすると、彼は彼なりに、話の脈絡は立っているのかも知れないですよね? それはあくまでも、あの男の中でだけのことであり、彼が、何か悪いことをしていたとすると、我々には分からない理屈で頭の中ができている可能性だってあるわけですよね。それがこの事件の本質をつかんでいるとすれば、私は、彼がすべての意味で、支離滅裂だとは思わないんですよ。つまり、2択のテストにおいて、0点だったとすれば、それは、逆にいえば、100点だったといってもいいという理屈にはなりませんかね?」
と下瀬刑事が言った。
「なるほど、確かに、そうかも知れない」
と八木刑事がいうと、
「少なくとも、あの男は、門脇さんを殴りつけて逃げているわけですよね? 彼には、門脇さんを殴らなければいけない理由があった。警察に捕まるかも知れないというリスクを犯してですね? 何もなければ、そんな危険を犯す必要もないし、さらに、それがなければ、彼も殴られて、命に別状はないということだけど、一歩間違えれば命を落としていたかも知れない。というよりも、命があっただけ、儲けものといえないでしょうか? それを思えば、事件というものの見方を変えるというのも、一つなのではないかと思うんですよね」
と、下瀬刑事はいうのだった。
確かに、下瀬刑事の話には、一理あると、八木刑事は考えた。
しかし、刑事としては、一人の捜査員の勘にだけ頼るというのは、
「これ以上の危険はない」
といえるだろう。
今の時代では、それは、捜査の法度を破っているかのように思えるのであった。
それを考えると、
「とりあえず、一つ一つ潰していくしかない」
という思いと、
「下瀬君の話にも、一理あるわけなので、尊重はしないといけない。だが、だからと言って、その意見で突っ走ることはできない。できるだけ、彼の突っ走るのを止める役目を自分がおわなければいけない」
と、八木刑事は思った。
ただ、八木刑事というのも、
「警察組織の人間」
ということではあるが、
「自分も他の人と同じように、目立ちたいし、いくら下瀬刑事の、教育係とはいえ、みすみす手柄を持っていかれるというのは耐えられない」
とも思っている。
それを考えると、
「俺にだって、野心はあるんだ」
ということで、八木刑事は、
「下瀬刑事の意見は、やはり無視はできないが、自分オリジナルの発想をしないといけないんだ」
と思うのだった。
そう思っていると、いくら支離滅裂なことを言っていると思ってみても、無視はできない。というよりも、逆に、
「やつは、わざと支離滅裂な話をして、こちらを混乱させているのではないか?」
と思うと、
「彼が何か悪いことをして、それを隠そうとしているのではないか?」
と考えた下瀬刑事の意見と交わるところが出てくる気がした。
というよりも、
「これを下瀬刑事はいいたかったのではないだろうか?」
と考えると、今度は、
「自分が、下瀬刑事になった気持ちで考えてみよう」
と思ったのだ。
だが、そこまでくると、
「そっか」
と、自分でハッとした気分になった。
というのは、
「そっか、俺が下瀬刑事になったつもりになる必要なんかないんだ。それぞれの人間の思惑を考えてみて、それが今見えている現状にどうつながっていくのかということを、両面から、考えていくということで、分かってくるということもあるのではないだろうか?」
と考えてみたのだった。
そんなことを考えながら、捜査本部に戻ると、今度は、何やら、腐乱死体側の捜査本部に不思議な空気が流れていた。どうやら、
「例の銀行強盗事件で、捜査本部が考えていた、重要参考人として取り調べを行っていた人物が、冤罪だったのではないか?」
という疑惑であった。
それが、さらにクローズアップされたのが、今回の腐乱死体の発見であり、腐乱死体の身元が、刑事は皆一律に。
「あの時の重要容疑者だ」
と思っていたのに、
「実際にはそうではないようだ」
ということだけは、分かったということだったからだ。
どうやら、
「顔のない死体」
とは言っても、完全ではなかったという。
作品名:死体損壊と、犯罪の損壊 作家名:森本晃次