死体損壊と、犯罪の損壊
しかし、その契約をするという人間がどこにいるというのだろう。
そんなことをして、その人には、
「百害あって一利なし」
ということで、
何といっても、死んだはずの人間のかわりに契約をするというだけでも、犯罪であるが、それが、他の、殺人事件などの凶悪事件が絡んでいるとすれば、
「誰がそんな事件の片棒を担ぐ」
というものであろうか。
よほどの弱みを握られているか何かでもない限り、ありえることではないだろう。
そして、もう一つ、
「これは、住居問題よりも、もっと大きな問題であるが、住居問題であれば、最悪、ホームレスになる」
という手もあるだろう。
それこそ、幕末の京都で命を狙われていた長州藩士の桂小五郎が、
「諜報活動を兼ねて、ホームレスのような恰好をして、橋の下などで、他のホームレス連中と暮らしていた」
という話の現代版ともいえるだろう。
だから、本当に切羽詰まれば、できなくもないだろう。
しかし、もっと切実なのは、
「健康保険」
という問題である。
というよりも、
「保険が利かない」
というだけであれば、
「金さえあれば切り抜けられるであろうが、普通の病院であれば、当然身元を明かさないと、治療は受けられない」
ということになる。
身元が分からない場合は、警察が捜査するのは当たり前で、
「何かの事件が絡んでいるかも?」
ということになるからだ。
しかも、健康保険がないともなると、さらに深刻で、普通の病院の医者であれば、警察への通報事案ということになるだろう。
しかし、いつの時代も、
「法の抜け道」
というのはあるもので、そういう
「訳アリ患者」
というものを専門で治療する、
「闇世界の医者」
というのも存在する。
まるで、やくざの顧問弁護士のようだが、この医者は、たとえば、
「やくざの抗争において、銃で撃たれたり、包丁で刺されたりした時に、大っぴらにできない状態の患者を運びこむという
「闇医者」
というものである。
昔であれば、
「落とし前をつける」
ということで、やくざなどがよくやることとして、
「小指をつめる」
という、儀式があったが、当然、
「指を飛ばす」
というわけだから、激痛が走り、すぐに治療をしないと、破傷風になったりして、
「命の危険」
というものがあるというのも無理もないことであろう。
そうなった時、治療する医者の存在があるからこそ、
「死んだことにする」
ということが可能なのかも知れない。
ただ、それを考えた時、
「バックにやくざの組織が絡んでいる」
ということになるだろう。
死んだことにした当人が、
「やくざと関係があるのか?」
それとも、
「金だけのつながり」
ということで、犯人との
「契約」
ということなのかということで、死体損壊が行われた場合、
「死んだことにする」
ということを企んでいるということであれば、
「やくざのような組織がバックで暗躍している」
あるいは、
「闇医者の存在」
ということが、かかわってきている可能性があることから、そちら側から、捜査をするということも考えられる。
ただ、そうなると、
「近いうちに、被害者が誰であるか?」
ということが、ある程度特定されなければいけない。
逆にある程度特定されるということになると、その裏には、
「何かのトリックが存在している」
ということになるであろう。
それを考えると、
「殺人事件というものは、進展すればするほど、解決に近づいているとは一概には言えないのかも知れない」
ともいえるのではないだろうか?
「そこに、計画された犯罪が蠢いているとすれば、捜査員も、それなりの考えを持って捜査に当たらないといけないだろう」
ということになるのであった。
そこで、
「腐乱死体殺人事件」
の捜査に当たっている、伊集院刑事は、捜査本部の、桜井警部の指示によって、
「やくざ関係」
と、
「裏の闇医者」
の捜索を行うことにした。
「まるぼー関係の課」
の人にも相談しながら、捜査を行うことにしたが、あまりいい顔はされなかった。
どうしても、いろいろ内偵行動を行っている関係上、いくら同じ警察組織とはいえ、
「いや、同じ警察だからこそ、横のつながりが嫌だった」
といってもいいだろう。
これが別の所轄であれば、いわゆる、
「縄張り争い」
ということだ。
特に、内偵捜査中に、他の部署の連中が、いくら殺人事件の捜査だとは言っても、自分たちが、危険を犯してまで行っている捜査が水泡に帰してしまうと、たまったものではないだろう。
それを考えると、
「そりゃあ、なかなか教えてくれないよな」
ということも、伊集院刑事には分かっていたが、それも仕方がないということになるであろう。
それでも、障害がありながら、何とか捜査を続けていたが、どうも、それらの関係から、被害者が誰なのか、浮かんでくるということはなかったのだ。
並行して行っていた、
「捜索願」
というものに関しても、上がっているものはなかった。
いろいろ調べてみたが、調査する中で浮かび上がってきたものとして、これと言ったものはなかった。
年齢や背格好などから、該当者はいなくもなかったが、どれも、
「殺される」
というようなことはないようで、ただ、それでも、
「失踪する」
ということは、表には見えていない何かがあっての失踪であるから、まったく無視することもできないというものだ。
何といっても、警察というところは、
「何か事件が起こらなければ、動こうとはしない」
今の時代であれば、
「ストーカー問題」
などで、よく言われているが、この時代は、まだ、
「ストーカー問題」
であったり、
「個人情報保護」
などという問題もなかったのだが、
「警察が何もしてくれない」
ということは、今に始まったことではなかったということである。
特に、
「失踪届」
といわれる、
「捜索願」
というのは、
「読んで字のごとく」
といえばいいのか、本当に、
「願い」
でしかなく。実際に警察は、
「事件性がない限り、捜査はしない」
ということだ。
たぶん、届出人が、失踪した人に対して、
「自殺する可能性があるから、急いで探してくれ」
といったとしても、一応警察も、
「できるだけのことはしましょう」
と口ではいっても、全国の警察に協力を促す程度で、それ以上のことはしないだろう。
自分の署で起こった、
「失踪事件」
であっても、その程度のことである。
それを、
「自分たちには関係がない」
と思っている別の署の失踪事件を、誰が真剣に捜査するというのか、それこそ、派出所の掲示板に写真を飾る程度のことであろう。
だから、捜索願から捜査するというのは、なかなか難しい。
数が多いわりには、真剣に捜査もしていないので、それこそ、すべてを、一から捜査し直すということになり、まったくもって、信憑性があるとは限らないものに、どこまで時間を掛けられるかということである。
殴打事件の方にも人員を割かれている以上、捜査員にも限りがある。
作品名:死体損壊と、犯罪の損壊 作家名:森本晃次