死体損壊と、犯罪の損壊
「腐乱死体も、故意に特徴のある部分を傷つけられていて、まさに、顔のない死体の様相を呈している」
ということになるのであり、要するに、
「何も分かっていない」
ということになるのだ。
どれか一つでも分かれば、事件も進展するのだろうが、今のところは、
「関係者として表に出てきている死体を含む3人のうち、2人までが、その身元が分からない」
という事件であった。
「まだまだ捜査はこれからだ」
ということであるが、
果たしてそうなのだろうか?
これが、もし、
「関係のある事件であり、発見されたことも偶然ではなく、すべてが、何かの目的をもって計画された事件ということであれば、誰も口にはしないが、この事件は、顔のない死体のトリックというものが、どこかでかかわってくるのではないか?」
と考えられるのであった。
そのことを感じているのは、少なくとも、八木刑事と、下瀬刑事は、同じことを感じていたようだ。
そのことについて、二人で話をすることはなかった。
何といっても、
「身元も分かっていない人と、記憶喪失という人だけしか登場していないこの事件なので、それを口にするのは、時期尚早」
ということであった。
そして、二人が感じているのは、
「まだ今は出てきていない、隠れた人物が、裏に潜んでいる」
ということであった。
「その人物が、この事件の本質にかかわっていることになるだろうということは、間違いないだろう」
と思っていたのであった。
だから、
「今度の事件において、その隠れていて、表に出てきていない人物をあぶりだすことが、先決である」
ということになるので、そのためには、殴打事件の二人の証言が、必須であるということ。
そして、もう一つは、
「腐乱死体」
ということで、
「顔のない死体」
というのが、果たして誰なのか?
ということの追求が必要だ。
死体の身元
とりあえず、
「殺人事件」
ということは間違いないので、
「本来であれば、犯罪に、軽い重いというのがあるというのはおかしなことである」
のだが、
「凶悪犯」
ということであり、しかも、そこに、
「偽装工作めいたもの」
つまり、
「死体損壊」
という事実がある以上、それが、
「何かの隠蔽なのか?」
あるいは、
「事件の動機が復讐であり、その恨みが高じての死体損壊なのか?」
ということも分からない。
とにかく、どちらにしても、
「死体を損壊させる」
ということは、それだけでも、
「刑は重くなる」
というものだ。
そんなリスクを犯してまで死体を損壊させるだけの何かの理由があるということは、
「それだけ、計画された犯罪なのか、それとも、心理的に許せない何か、動機という意味で、尋常な犯罪ではない」
ということになるであろう。
それを考えると、
「殺人事件の方が、最重要解決事件だ」
といってもいいだろう。
まずは、捜査員総出で、付近の聞き込み捜査が行われた。
さらに、それと同時に、
「行方不明者」
ということで、
「ここ半年前蔵から少しさかのぼったところで、捜索願が出ていないかどうかの捜査も並行して行われていた」
ちなみに、鑑識から分かったこととして、
「死体は、腐乱状態から言って、約半年くらいまでに殺されたのだろうという見解であった」
そして、
「死因は、刺殺。肋骨のあたりに、鋭利な刃物で正面から心臓をえぐられたのではないか?」
ということで、
「即死だったと思われる」
ということであった。
さらに、死体は男であるということも分かっている。腐乱はしていたが、ギリギリ男性器の跡が残っているということで、そちらは判明したのだった。
「これで被害者は、男性に絞ることができる」
ということであった。
そして、身長も太太170cm前後ということで、それだけでも、男性だといえるだろう
しかも、靴を履いたまま埋められており、そのサイズは、25cmと、
「男性と考えるのが妥当である」
ということであった。
捜査本部の人員としては、今のところ、どちらの事件も、同じくらいの人員配置であったが、基本は、
「殺人事件の方が最優先」
ということで、
警察も、威信をかけてということで、科学捜査にも必死になっているのであった。
頭蓋骨が残っているということで、
「復顔」
というのも行われた。
しかし、当時の技術では、まだまだハッキリと顔が判明するだけのものはなく、今の時代のような、
「グラフィック技術もほとんどない時代だったので、大学の研究所で、石膏像による、復顔というものが行われる程度だった」
これが、もっとハッキリとした状態であれば、公開捜査ということで、全国のマスゴミを使うこともできたであろうが、
実際にはそこまでの捜査ができるわけもなく、とりあえずは、
「行方不明者との照合」
というものを、地道に行っていくしかなかったのだ。
それも、身元がハッキリ分からないということで、まるで、
「砂漠で砂金を探すようなものだ」
といってもいいだろう。
ただ、一つ考えられるということで、この事件が、
「保険金詐欺」
というようなものではないということは分かり切っているといってもいい。
なぜなら、保険金詐欺を行うのであれば、
「本人が死んだ」
という事実をでっちあげなければいけない。
「本人は本当は生きていて、まるで死んだかのように装うことで、保険金をだまし取る」
というのが、
「保険金詐欺である。
この場合は、そもそも、
「被害者が誰か分からない」
という時点で、詐欺になるものではないということだろう。
しかも、
「顔のない死体のトリック」
を利用するというのであれば、
「被害者と、加害者が入れ替わる」
という公式がある。
というものが、
「顔のない死体」
というものを、犯罪とリックに使うというメリットがここにあるということであった。
つまり、
「死んだ人を本当は加害者なのに、死んだことにして完全犯罪をもくろむ」
ということであっただろう。
しかし、時効がまだあった時代ではあるが、
「死んだことになったとしても、15年間、誰にも正体がバレてはいけない」
ということになる。
これは、下手をすると、
「死ぬよりもつらいことなのかも知れない」
といえるだろう。
基本的に、
「死んだことにする」
ということは、
「人権も何もない」
ということになるので、
「半年でも、普通ならできるはずのないことである」
といえるだろう。
戸籍もないわけで、死んだことになっているわけだから、下手をすれば、
「お金を持っていたとしても、使えない場合が多い」
ということになる。
特に、高価な買い物などは絶対にできない。
「生きていくための必需品を持つことができない」
といってもいいだろう。
何といっても、
「住む家を借りることができない」
死んだ人間に、
「不動産契約ができるわけもないわけだ」
ただ、この場合は、不動産契約をする人間が別にいれば、その人が契約だけをして、自分が住むこともできるだろう。
作品名:死体損壊と、犯罪の損壊 作家名:森本晃次