死体損壊と、犯罪の損壊
「どうやら、いつも見ている夢ではないだろうか?」
と感じたのだ。
その夢というのは、
「思い出せそうで思い出せない」
つまりは、
「真剣に思い出そうとはしていない」
ということになるのだろう。
それを思うと、
「夢を見るということがどういうことなのか?」
分かっているようでわかっていないということなのかも知れない。
目が覚めて少しすると、食事の時間だった。食事を済ませると、最初に医者が、見回ってくれたのだが、それも、
「昨日の今日」
ということで、気にしてきてくれたのかと思ったが、それだけではないようだった。
一通りの診察が終わり、
「順調ですね」
といったかと思うと、先生が、
「実は、君に、警察の方がいろいろ聞きたいということなんだけど、医者とすれば、問題ない状態にはなっているんだけど、もし、きつかったり、辛いと思ったら、ナースコールを押してくださいね。一応、体調面では、大丈夫というところではあるんですが、だからと言って、絶対に大丈夫ということはないですからね。そこは遠慮はいらないですよ」
ということであった。
「刑事さんに入ってもらってもいいかい?」
というので、
「はい」
と答えた。
門脇としても、
「昨夜、自分に何が起こったのか?」
ということをしりたかった。
「何が起こって、どのようになったから、自分が病院に運ばれてきたのか?」
あるいは、
「なぜ、警察が事情を聴きたいというのか?」
ということであるが、想像がつくこととして、
「夕べ自分が交通事故に遭ったのか?」
それとも、
「誰かの暴行されたということで、ケガをしたということなのか?」
ということを考えると、本当は頭が痛くなるので、思い出したくはないが、何も知らないというのは、実に厄介なことであった。
それを思うと、
「警察の人が向こうからきてくれるというのはありがたい」
ということであったが、逆にいえば、
「警察が事情聴取をしなければいけないということは、交通事故のようなものというよりも、他の何かの事件に巻き込まれた」
という方がありえることではないかと感じたのだ。
家族は、息子を学校に出すということがあり、午前の家事の片付けというものもあるということだろうから、
「来るとしても、午前中は無理かも知れない」
と思っていた。
警察がやってきたのは、朝の9時過ぎくらいだった。
「警察というものが、どういうものなのか?」
ということは知らない。
車を持っているわけではないので、交通事故の取り調べを受けたこともなければ、事件に巻き込まれたこともない。
せめて、小学生の頃、社会見学で、警察署に行った時くらいだっただろうか?
ただ、当時は、連続刑事ドラマというものが流行っていて、当時の、
「根性ものの一つ」
といってもいいだろう。
警察の捜査は、
「足で稼ぐ」
という時代であり、
「足を棒にして目撃者探しであったり、証拠を探すという時代」
だった。
今では、科学捜査なども進んで、より、
「合理的な捜査を行うことが、検挙に繋がる」
ということで、縦割り社会というものに、不満を持っていながら、結局、自分も、
「長いものに、巻かれてしまう」
という時代に巻き込まれているというのが、警察というものだったのだ。
その日、刑事が二人、門脇を訪れていた。
「お怪我の具合はいかがですか?」
と、二人の刑事は、まずは、ケガの具合を労ってくれたので、門脇も少し安心した。
「おかげ様で、大丈夫です」
と落ち着いた様子で答えたが、実際には、何が起こったのか、知りたくて仕方がなかった。
何といっても、自分が、入院する羽目になるなど思ってもいなかったし、頭のこの痛さは、
「誰かに殴られた」
ということに間違いはないだろう。
「実に災難なことでした」
と一人の刑事がいうと、もう一人の刑事が、
「早速で申し訳ないのですが」
といって、声を掛けたが、
「門脇さんは、いつも、あのバスで、あの時間にご帰宅なんですか?」
ということを聞いてきたので、
「ええ、そうですよ」
と答えた。
門脇としては、
「話のとっかかりとしては、差しさわりはないのだが、何やら、ただの事故というわけではなさそうに思えたのだ」
「バスの運転手さんにも聞いたのですが、どうやら、普段は見たことがない乗客が、門脇さんより先にバスを降りたということだったんですが、間違いないですか?」
ということだったので、
「ええ、そうです。私も初見の人だったので、顔も正直ハッキリと覚えていないんですよ」
というと、
「門脇さんは、たぶんですが、その男にどうやら殴られたようなんですが、その時のことをできればお話いただきたいと思いまして」
というので、
「また思い出してみよう」
と考えたのだが、実際に思い出すことはできなかった。
やはり、昨日と同じ頭痛があり、その時のことだけを思い出すことができない。
「正直覚えていないんですよ。殴られたという記憶すらないですし、思い出そうとすると、頭が割れるように痛むんですよね」
というと、二人の刑事は目を合わせて、その様子は、まるで、
「やっぱり」
とでも、言いたげな、何やら諦め気分が漂っているのであった。
「実は、門脇さんは、瞬間的な記憶喪失になっているようで、事件のその瞬間だけ、記憶がないかも知れないということは、医者から聞いていたのですが、お医者さんから、何か言われていませんか?」
と刑事がいうので、
「いいえ」
と、なるべく平静を装うように答えた。
殺人事件
別に、ウソを言っているわけではないので、そこはどちらでもいいだろうと思っているのであったが、
「医者よりも先に、警察から聞くなんて」
というのは、意外だったのだ。
ひょっとすると医者は、
「警察からの尋問の時に何かを思い出すかも知れない」
ということで、わざと門脇に言わなかったのかも知れない。
下手にいうと、先入観が先に立ってしまって、潜在意識が薄れてくるのではないかと案が得たのだろう。
そう思うと、余計に、思い出せそうで思い出せない自分は、
「頭痛がひどくなるばかり」
ということで、刑事たちの前で、少し大げさに、傷んで見せたのだった。
「大丈夫ですか?」
とさすがに刑事もたじろいでいるようだった。
一応医者からくぎを刺されている以上、下手に患者を刺激してしまうと、
「今後の門脇に対しての捜査がやりにくくなる」
ということで、
「必要以上のことはしないようがいいだろう」
と考えているようだった。
刑事というものは、捜査のためなら、多少強引なことをするものだ」
と思っていたので、案外だったのは、自分でもびっくりだった。
「どうして、警察がそんなに困ったような顔をするんだろう?」
と思った門脇は、刑事の一人に、
「私を殴った人間が、まったくつかめないということでしょうか?」
と聞くと、またしても、二人は顔を見合わせて、
「あ、いや、実はあなたが殴られたことだけではないんです、今度の事件はですね」
というではないか。
何やら、
作品名:死体損壊と、犯罪の損壊 作家名:森本晃次