小説の書かれる時(後編)
ただ、佐久間はその状況を自分で考えてみると、
「俺にとっては、このままではまずい」
と思えることだったのだ。
「いや、待てよ?」
と、佐久間は考えた。
そもそも、佐久間にとって死んでほしい相手が死んだというのは、元々の計画にあった、
「交換殺人」
というものの、シナリオだったのだ。
そのシナリオは、完全に出来上がったわけでもなく、急に途中でその計画がとちぎれにになった。
というのも、
「佐久間の方から、怖気づいた」
ということからであった。
佐久間は、とちきれになったことで、
「これじゃあ、俺とすれば、結局時間の無駄だっただけだ」
としか思えないのだが、
「それでも、あのまま計画に乗っていれば、俺は、破滅していたことだろう」
と思うことから、安易に、相手の計画に乗って、
「交換殺人」
などというものに絡んでしまうことがなかったということで、
「喜ぶことべきことだったんだ」
と考えればいい。
と思っていた。
なぜなら、
「計画に乗ってしまうと、こっちの負け」
だと思っていた。
計画はあっちが考えるのだから、必ず、自分が有利になるようにすることは分かっていた。
それを思うと、
「交換殺人」
というものを考えた時の、
「メリット、デメリット」
それぞれを考えてみると、
「俺にとっては、不利なことの方が多いんだろうな」
と思うのだった。
大団円
佐久間は、自分の代わりに、人を殺してくれた人が誰だか分かっていた。
そう、あれは、以前、少し話をしたことがある、
「足柄であった」
彼も確か彫刻家だったか、それとも小説家だったか? それすら覚えていない。
しかも、いつのことだったのかということも分かっていないが、少なくとも、借金をしてから、利息が払えずに困っていたのは分かっていたので、今年の最初の頃か、去年のどこかだったのだろう。
しかも、その話というのは、相手が、ほとんど話をしていたような気がする。
なぜか相手が、
「こちらが借金をしている」
ということを分かっていて、近づいてきたかのようだったのだ。
そこで、
「これから、あなたの人生はうまく行くようになる」
というような、まるで占いのようなことを言って、近づいてきたのだ。
正直、胡散臭いと思っていた。
元々借金をしたことも、自分の愚かな行動からのことだっただけに、変な話には、もう乗っかることはしないと思っているのだ。
だから、その男から、
「完全犯罪をやろうと思うと、交換殺人をすればいいんだ」
と簡単に言ってきた。
しかし、こちらも、犯罪に関しては、小説を書いていたこともあって、知識はあるつもりだった。
当然、
「先に犯行を犯した方が、圧倒的に不利なんだ」
ということも分かり切っていることであって、しかも、現在であれば、昔のようなこともなく、
「殺人を犯せば、時効というものは存在しないんだ」
とばかりに、昔であれば、
「15年隠れていれば、罪はなかったことになる」
ということであるので、お互いに、交換殺人をするとすれば、
「その間、まったく連絡が取れない。取ってはいけない」
ということになるのも当たり前のことだった。
昔の時効があった時期、
「15年の期間、隠れていれば」
ということであったのだが、実は、その期間が延長されるということがあった、
というのは、
「海外にいる間は、その時効の進行が停止する」
ということになっていたのだ。
つまり、
「10年間。日本にいて、延べでそれ以外の5年間を他の国にいた」
ということであれば、その期間は、15年というものに加算しないのであった。
なぜなら、海外に逃亡されれば、日本の警察の力が及ばないからだった。
捜査することはできても、まだ発行されていない、
「捜査令状」
であったり、
「逮捕令状」
を申請することはできない。
発行された後でも、
「犯人引き渡し条約」
「代理処罰」
などというのは、どうしても、海外の法律に従うことになったりするので、難しいところもあるが、今では、
「逃げ得は許さない」
ということになっているようだ。
それを思えば、
「今のように、殺人などの凶悪犯に、時効はなくなった」
ということになるのである。
そんな時、彼が言いだしたのが、
「とにかく、お互いに殺してほしい相手がいるわけで、そのために、まずは、お互いに、犯行の証拠を残すわけにはいかない。そして何よりも、俺たち二人が、知り合いだということを知られてはいけない。電話や、メールなどは、もっての他、だから、何か分かるものを送るようにすればいいのでは?」
ということになった。
そこで、やつは、また続けた。
「私はデスマスクを作っているので、そのデスマスクの顔で、どうすればいいかを決めてもらおう」
という。
「デスマスクのデザインが、信長だったら、こちらが先に犯行を行うので、お前も頼む」
ということ、
「デザイが、秀吉であれば、お前が先にやってくれ」
というもの。その間、自分は、アリバイを作っておくということだ。
「そして、デザインが家康だったら、計画は再度練り直しとなるので、交換殺人という考え方は、ご破算となる」
ということである。
というものだった、
これは、あくまでも、デスマスクによっての暗号である、計画がまったくなくなる家康であれば、本来なら、デスマスクを使う必要もないのだろうがと思うのだった。
送ってきたのは、
「信長」
だったのだ。
やつは、
「犯行を犯したので、お前も頼む」
ということであった。
もちろん、佐久間は、その状況を自分でも掴んでいないと、犯行に及ぶことはできない。
ただ、佐久間としては、この足柄の計画には、懐疑的であった。
「交換殺人などというのは、そんな簡単なものではない」
とうことのはずだった。
しかも、足柄の計画には、その時々での計画が、一度思いとどまるということで、信憑性に欠けるように思われた。
ただ、彼は、
「石橋を叩いても渡らない」
というような計画のようだった。
それをどのように、うまく組みたてていくか?
おいうことが問題であり、
「本当に事件をいかに成功させるか?」
と考えるのだ。
そうなると、一番大切なことは、
「お互いが知り合いである」
ということを、まわりに絶対に知られてはいけない、
ん二人の関係がバレさえしなければ、警察に疑われることはない。
つまり、
「二つの事件は、まったくの単独だ」
と思わせておくことだった。
ただ、
「一番動機があって、死んでほしいと思っている本人に、完璧なアリバイがあってしまうと、犯罪は、迷宮入りしなければ、犯人は捕まらないということで、そこが問題だった」
そのため、実行犯をでっち上げるということも視野にいれて考えていたようだ。
それが、実は、足柄の計画の第二段階のようだった。
つまり、足柄という男は、
「密室殺人」
ということとの比較を考えているようで、
「密室殺人」
というのは、
作品名:小説の書かれる時(後編) 作家名:森本晃次