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記憶の原点

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 というものであり、
「他人の記憶。それは、自分以外という意味で、どんなに近しい人であっても他人として考えるということだが、そんな人間の記憶というのは、まわりの人から見れば、これほど曖昧なものではない」
 と思えるのは、無理もないことなのかも知れない。
 といえるのではないだろうか?
 前述にもあるが、
「以前どこかで見たことがある。来たことがある」
 などという、いわゆる
「デジャブ現象」
 であるが、それを一種の、
「辻褄合わせ」
 と考える考え方があるという話を聴いたことがあったが、それは、
「都合のいいことへの言い訳」
 という意識だとするならば、
「記憶を失う」
 という発想と、
「デジャブ現象」
 というのは、同じだと言えないだろうか。
 ショックを受けて、自分のキャパシティで支えきれない状態になった時、記憶を消すことで、自分を苦しみから救おうというような、
「自己防衛能力」
 のようなものが備わっているということになるのであろう。
 そんな記憶喪失のような状態は、まるで、
「保護色」
 のようなものかも知れない。
「自分は何も知らない」
 という意識は、正直、
「目の前に起こった、自分で受け入れられない、信じられないという出来事を、否定したい」
 という思いから来ているといってもいいだろう。
 そんな感覚を感じていると、
「記憶が戻ってくる時というのは、事件が解決した後なのかも知れない」
 とも思えるだろう。
 本人が必死になって、
「なかったことにしたい」
 と思っているものを、さらに引きもどそうというのは、ある意味、
「被害者の身を、危険に晒す」
 ということになるのではないだろうか。
 自分が被害者ということで、
「本当に犯人の顔を見た」
 ということであったり、班員側が、
「見られた」
 と思い込んでいたとすれば、被害者は、この世に生きている以上、記憶がなかったとしても、
「いつかは思い出す」
 そして、それが、犯人にとっての命取りになる」
 と思ってしまえば、
「もう、被害者を、殺してしまうしか、自分が助かる道はない」
 と思い込んでしまう場合だってあるだろう。
 当然、病院には、
「大切な証人」
 を守るという意味で、刑事がたくさん張り込んでいることだろう。
 昔の刑事もののドラマのように、
「組織の人間が、医者や看護婦に化けて、被害者を殺しに来る」
 というような、物騒な話にならないとも限らないだろう。
「被害者は、別の部屋にいて、組織の人間が、秘密裡に殺害しようと、ベッドに近づいた時、ベッドの中から刑事が出てくる」
 などという、今から思えば、ベタなドラマというのも、昔はサスペンスものとして見ていたのだろう。
 可憐のそばに、実際に記憶喪失になった人がいた。
 その人は、可憐が、学校からの帰り道、偶然、倒れているのを見つけたからだった。
 身動き一つしていないように見えたので、
「気持ち悪い」
 という気持ちが強いからなのか、冷静に見ることができたが、さすがに、中学生の女の子、
「どうしていいのか分からない」
 というのが、本音であろう。
 可憐が最初に考えたのが、
「救急車を呼ばないと」
 ということであった。
 女子中学生が一人で、その場でどうしていいのか分からない。まわりに、人はいるのだが、皆無視して、足早に通り過ぎる。ほとんどの人がチラッと目を向けはしたが、
「相手に悟られたくない」
 という思いが、そのままだったのだ。
「すみません」
 と、まわりの人誰かに、少し小さな声で助けを求めたが、皆、
「俺に言ってるわけじゃない」
 ということで、皆、無視して足早にいくのだ。
 そんな時間がどれほど経っただろう。自分が声を掛けているにも関わらず、まるで、
「面倒臭いものを見てしまった」
 と言わんばかりの通行人を、思わずにらみたくなるというのも、無理もないことなのであろう。
 そのうちに、一人が反応してくれて、まわりの何もしない連中を一瞥して、
「どうしたんだい? 早く救急車を呼ばないと」
 ということで、スマホを取り出し、的確に、119番に連絡し、冷静に話をしているのだ。
 たぶん、相手が、場所を確認したのだろう。男の人は、すっくと立ちあがり、電信柱に書いてある地名を読み上げたのだ。最初は小さな声しか聞こえなかったが、
「大至急、来てください」
 ということを言って、電話を切ったのだ。
 男の人は、とりあえずそのあと、倒れている人のところに向かった。
 さすがに怖くて近寄れなかった可憐と違い、さすが、
「大人の男の人」
 というのが、目の前にいることで、
「何とも、頼もしい」
 と考えたのだ。
 ただ、不思議なことに、そこに倒れている人が、
「気の毒だ」
 とか、
「可愛そうだ」
 という気持ちになっているわけではないのだった。
 ただ、
「気持ち悪い」
 という思いなのだ。
「臭いが、鉄分を含んだもの」
 であり、
「嘔吐を感じさせる」
 という思いは、
「他の人に比べて、高いのではないだろうか?」
 ということを感じさせるのであった。
 可憐は最初から、
「この人は刺されたんだわ」
 ということが分かっていた。
 それは、この鉄分を含んだ気持ち悪い臭いが、
「血液によるものだ」
 ということを分かっていたからだった。
 気持ち悪さは、
「過去の記憶から来ているのかも知れない」
 と思うようになると、
「そんな気持ちは、デジャブなのかも知れない」
 と思ったのだ。
 以前にも、
「似たような事故現場に遭遇したことがある」
 という思いから、
「これは、デジャブではないか?」
 と感じさせるのだった。
 その時も、確か同じような臭いを感じた時がある。
 あの時は、小さい子供だったので、一緒に誰かがいた。確か、父親だったような気がする。
 父親は、実にさばさばしていて、てきぱきと対応をしていたのは、間違いのないことで、すぐに、救急車がやってきた。
 確かあの時は、車がぐしゃぐしゃいなっていたので、交通事故だったという意識だけは、子供にでもあった。
 だから、救急車の後から、パトカーが来ていたのだ。
 救急車には、身内の人だろうか、その人はかすり傷だったようだが、一緒に救急車に乗って、病院へ向かったようだが、
 父親と、可憐は、その場での警察の尋問を受けるのだった。
 父親が、状況を説明していたが、実際に、目の前で車がぶち当たるというようなシーンを見たわけではないので、必要以上な質問をされることはなかった。
 刑事として、マニュアルに沿ったような質問に対して、父親が冷静に答えていたのだということを、今になって思い出せば、その時のことが分かってきた気がした。
 その時、可憐は、別に怖いという思いはなかった。ただ、その惨状を、
「気持ち悪い」
 と感じただけのことだった。
 だが、なぜか、可憐には、
「私は、そんな危険な目には絶対に遭わない」
 という、根拠のない自信のようなものがあったのだ。
 父親も、臭いに関しては、顔をしかめていたので、嫌だったのだろうが、冷静な処置からすれば、
作品名:記憶の原点 作家名:森本晃次