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意識と記憶のボタンと少年

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 しかし、どんなに小さな星でも、星なのだから、地球にぶつかれば、地球も無事ではいられない。まったく見えない星にいきなりぶつかられて、気が付けば、消滅していたということになりかねないということである。
 実に恐ろしいことである。
 そんな星を、暗黒の星として小説に書いていたのだが、それを読んだ時に感じたのは、
「まるで路傍の石だ」
 ということであった。
 目の前に見えているのに、その存在を意識することができない。見えているが意識にならないのだ。
 それを思い出した時、
「最近、似たようなことを感じたような気がしたな」
 と桜井刑事は考えたが、少ししてから、それが何なのか思い出した。
「そうだ、玲子が康子が以前から記憶喪失だったような気がすると言った時に感じたことだった」
 それは、記憶喪失について考えた時、
「意識としては理解できているが、それを記憶というものに格納しようとした時、記憶の奥という格納庫が見えなくなってしまうような気がする」
 ということだった。
 この暗黒の星の場合は、記憶どころか、意識すらできていないものだった。
 さらに、もう一つ、気になることを思い出そうとしていた。
「そうだ、確か、五億年のボタンという話ではなかっただろうか?」
 というものだった。
 さすがに、この、
「五億年のボタン」
 という話にまで話が至ると、話が脇道に逸れすぎてしまう気もしたが、今は、たくさんの情報を頭の中から引きだして、それをいずれ纏めるまで、忘れないようにすることが一番ではないだろうか?
 メモを取りながら、思い出していこうと考えているが、もちろん、事件にどこまで関係があるか、分かったものではない。
 この、「五億年のボタン」という話は、以前呑みに行った時、近くで呑んでいた二人組のサラリーマンが話しているのを聞いて、
「面白いな」
 と感じたことだった。
 そのお話というのは、一種のなぞかけであったり、頓智のような話だと言ってもいいのだろうが、最初に男がその話を始めた時、その理から始まった。
「そのボタンを押すことで、百万円をあげるが、ボタンを押した人は、五億年という時を、何もできずにただ、そこで彷徨っているだけだという話なんだ。そして、その五億年の間の時間をまっとうできれば、時間が元に戻って、自分はその世界に戻ってくることができる」
 ということのようだった。
 それを聞いた友達が、
「そんな恐ろしいボタン、押す人はいないだろう?」
 というと、
「いや、五億年の話をしないでただ、百万円という話だけしかしていなかったら、中には押す人もいるんじゃないか?」
「俺なら怖くて絶対に押さないけどね」
 というと、
「普通の人はそうだよ。でも、興味本位の人はいるだろう?」
「確かにそうだけど、五億年なんて想像もつかないよ」
「だけどさ、夢の世界だってそうだよな? 何十年も夢の中で見たと思っても、実際には目が覚める数秒間だってことじゃないか? ひょっとすると五億年と言ったって、夢の中の世界では、あっという間のことであって、戻ってくれば、まるで夢を見ていただけじゃないかという感覚になり、五億年が吹っ飛んでしまった感覚になるかも知れない。ひょっとすると覚えていないだけで、俺たちは五億年を過ごして、戻ってきているだけなのかも知れないぞ。その辻褄合わせが、夢を見るという感覚なんじゃないかな?」
 というのだった。
 なるほど、夢だと思ってしまえば、いくら五億年と言っても、意識に残らないし、記憶に封印されることもない。つまり夢というのは、
「意識していない、五億年のボタンなのかも知れないな」
 と、その話を聞いて、桜井刑事はまるで目からうろこが落ちたような気がしたのだ。
 五億年のボタンの話はあまりにも、抽象的過ぎる。
「五億年なんて、人間生きていけないじゃないか?」
 という思いであったり、そんなに長い間、じっとしていられるわけはない。一時間だって無理だと思っている人もたくさんいるはずだ。
「本当にそんなボタンを押す人がいるのか?」
 という問題でもあるが、逆にいえば、そのボタンを押さない方が不思議に感じる人がいるのではないかと思うと、自分たちがいる世界と正反対の世界も、一種の正ではないかと思うのも、無理もないことだろう。
 その話と、暗黒の星の話、さらに、そこから派生するかのような、路傍の石の感覚、それぞれがまったく違う発想のような気がするが、まったく別ではないと考えられる。
 今度の事件をそう思って考えてみると、
「この二つの事件は、それぞれ単独のもので、近くにあって、見ることができないように感じるからこそ、余計にかかわりを感じさせるのであって、そのため、まったく関係のないことを結び付けて考えようとするから、暗黒の星のように見えなくなるのかも知れない」
 と感じる。
 さらに、暗黒の星を創造していると、そこには、五億年のボタンという夢物語が展開され、
「ありえないということは、すべて夢なのだ」
 と考えてしまうと、感覚がマヒしてしまったとしても、自分で納得できるだけに、疑問が疑問ではなくなってくるのであった。
 そんなことを考えていると、今度はまた別の意識が頭に浮かんできた。
 それは、子供の頃に見た、妖怪アニメの話だったと思うが、確か、いわゆる笠化けという妖怪だったのではないかと思ったが、案山子のように、一本足で吊ったテイル少年がいた。
 少年を見つけた大人は、その異様な光景を目の当たりにしたが、怖さは不思議となかった。話を聞いてみると、
「自分はここに五百年ずっといる。誰か助けを待ちながらね」
 と言っていた。
 しかし、少年は、
「もう五百年もいると、もう元の世界に戻りたいなんて思わないよ。悟りを開いたようなものだからね」
 というではないか。
 そして、少年を見つけた男がそこから立ち去ろうとした時、少年が、
「後生だから、この水晶を覗いて見てくれないか?」
 と言ってくるので、男は何の疑いもなく、その水晶を見つめると、あっという間に水晶に飲み込まれてしまった。
 何が起こったのか分からないでいると、水晶の外から少年が覗き込んでいて、
「ありがとう。これで俺は自由の身だ」
 と言って、その場を立ち去った。
 すると、急に水晶からはじき出されたと思うと、今度は自分が先ほどの少年のように、案山子のように突っ立っていいた。
「ああ、騙された」
 と思っても、後の祭りだ。誰かが通りかかってもらって、その人に同じように水晶を見せなければいけない。
 果たして何年後のことだろう? 五百年は超えそうな気がするな……。
 というようなお話だったのだ。
 五億年のボタンと話は似ているが、どれだけここにいても、ミッションをこなさなければ自分はそこから逃れることはできない。しかも、世界は何百年も経っていると、果たして自由になることが幸福なのだろうか?
 先ほどの少年が自由になれたと言って喜んでいたが、その男にとっては、すぐに、
「幸せなんて、ありっこないんだ」
 と感じたのを思い出した。
 この話にしても、五億円のボタンの話にしても、一体何を教訓としているのか分からない。