意識と記憶のボタンと少年
きっと教訓などというのは何もなくて、話の辻褄を合わせることで、面白い話を作ったというだけのことなのかも知れない。
それを考えると、犯罪事件というのも、探偵小説とどこが違うのかとも思えてきた。
「事実は小説よりも奇なり」
とは言われるが、本当にそうなのだろうか?
事実も小説も同じなのかも知れない。なぜなら、事実であっても、小説であっても、犯人であったり、作者が作りだしたものであり、それを本にするか、実際に実行するかの違いでしかないのだ。
「そんな単純なものではない」
というだろう。
だが、それを考えるのであれば、五億円のボタンであったり、案山子の少年の話であったりは、話を聞いているだけで感覚がマヒしてきて、意識が戻った時には、マヒする前の感覚は夢でしかないと思うのであろう。
それを思うと、今回の事件、
「まるでどちらかが夢だったのではないか?」
と思うと、盗難事件というのが、狂言ではなかったかと思えたのだ。
康子を殺したのは、やはり玲子で、玲子は康子を抹殺することで、自分の夢から逃れようと考えていたようだ。
どのようにしたのかは、これから先の捜査で明らかになっていくのだろうが、ここまでくれば、桜井も、白石も、お互いに事件に対しての興味はなくなってしまった。
「まるで夢を見ていたようだ」
と感じているのは、どこかにやるせなさを感じるからで、
「これって、いつも感じている感覚だけど、このやるせなさが、まるで夢の世界への入り口のような感覚になっているのだとは、それこそ、夢にも思わなかったというものだろうな」
と感じているのだった。
このお話は、最初はミステリーの様相を呈していたが、途中から、ちょっとした矛盾から思い出した、
「五億円のボタン」
や、
「案山子の少年妖怪」
の話のように、夢に繋がることで、感覚がマヒしたり、マヒした感覚が戻ってくる状態を思い起こさせるものだということを感じさせる。
やはり、このお話は、
「ミステリーではなく、オカルトなのだろう」
と感じるのだった……。
( 完 )
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作品名:意識と記憶のボタンと少年 作家名:森本晃次