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意識と記憶のボタンと少年

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                 大団円

 友達の証言は、桜井刑事にとって、少し衝撃的な感覚だった。その証言を、捜査本部で話をしてみると、その話にやけに突っ込んでくるのが、白石刑事だった。
「その話、何となく分かる気がします」
 と言った。
「何が分かるというんだい?」
 と桜井刑事に聞かれて、
「被害者の康子さんのことはハッキリとは分かりませんが、その友達がどういう目線で、康子さんのことを見ていたのかということが分かる気がするんです。そのうえで、彼女の証言には、高い信憑性を感じるんです。なぜかというと、自分にもそういうところがあり、彼女の話を自分の身に置き換えて考えてみると、彼女の言葉の一言一言がまるで自分を代弁してくれているのではないかという感覚にさせられるんですよ。そういう意味でいくと、彼女のその証言のどこかに、必ず真実が隠されていると思うんです。これは僕の自論なんですが、事実は一つなんですけど、その事実から結び付いてくる真実は必ずしも一つではないと感じることなんです。SF的にいえば、パラレルワールドのように、次の瞬間に広がっているのは、無限の可能性だということなんですよね」
 と白石刑事は言った。
「その無限の可能性の中に、、いくつかの真実があるということだね?」
 と桜井刑事に言われて、
「ええ、そうです。真実が一つではないということは、論理的に話を進めていくと、どうしても、間違った道に進まないとも限らないんですよ。間違った道であっても、真実の場合がありますからね。だから、事実ではないことを誰かが話しても、それが真実ではないと、どうして言い切れるのかということなんですよね」
 と、白石刑事は言った。
 最後の方では、自分でも何を言っているのかということが分からなくなっているようだったが、桜井刑事には何となく分かる気がした。
「そういう意味で、少し気になったのが、鶴崎玲子が、康子に対して、彼女は一種の記憶喪失に罹っているようなことを言っていたよね? あれって、本当の親友でなければ分からないことではないかと思うんだけど、それを記憶喪失のように感じたというのは、何か我々に暗示を与えているように思えるんだけど、考えすぎなのかな?」
 と、桜井刑事は言った。
「どちらともいえない気がします。逆に親友ではない方が、相手のことを深く見ることができるかも知れないですよね。親友となると、きっと自分と同じところを中心に見ようとするからですね。その証拠にその友達も言っていたんでしょう? 彼女が自分にはないものを持っていることが分かったから、友達になれたのだとね。そしてそれを僕は真実だと思うんです。だからこそ、二人は親友になれたのではないかと思うですよね」
 と、白石刑事は言った。
 白石刑事の考え方は、今まで刑事をやってきて、いろいろな相棒と仕事をしてきたが、どうも、自分の知っているタイプの刑事の中にはいないタイプのようだった。
 冷静に見えていて、それだけではない何かを彼は持っている。論理的であり、自分で論理的な裏付けがなければ、決して口にすることはないような気がしたので、
「彼の言葉にこそ、信憑性というものはあるのではないか?」
 と感じるようになってきた。
 いつの間にか、相棒としても彼を、本当は立ち直らせる立場であったはずなのに、自分の方がリスペクトしているようになるなど、想像もしていなかった。
 一緒にいることでどう感じればいいのか、桜井は、いまさらながらに白石刑事という人間の大きさを感じているのであった。
 白石刑事の考え方を聞いていると、
「まさか、それを逆手に取る人もいるのではないか?」
 とも感じた。
 つまり、
「玲子と、康子は、本当は親友ではなかったのではないか?」
 という思いである。
 二人が親友であるということをまわりに信じ込ませるために、一度疑惑を持たせることで、それが逆手になるのではないかと思うと、
「なぜ、そのような発想が生まれてくるのだろう?」
 ということに考えが移ってくる。
 そうなると、
「じゃあ、どっちの方が親友である方が都合がよかったのだろう?」
 と思った時、死んだのが康子の方だということになれば、玲子の方が企んだということも考えられる、
 そんな企てを康子が気付き、
「親友でもないのに、どうして親友のように振る舞わなければいけないの?」
 とその理由というよりも、体質的に、そういう人を欺くことが自分を騙しているようで気持ち悪いと思っているのであると考えているのであれば、絶対に、康子は、玲子に詰め寄ったり、詰ったりしたのではないだろうか。
「ひょっとすると、殺害の理由はそんな些細なことだったのかも知れない?」
 とも思った。
 若い女性二人の微妙な精神的な考えであれば、それが捻じれてしまうと、衝動的な行動を起こさないとも言えないのではないだろうか?
 あくまでも、桜井刑事が、白石刑事を見ていて感じたことなので、桜井刑事の考えであるが、そうなると、同じ大学の中で起こった窃盗事件とは関係のないということになるのだろうか?
 何か、それも出来すぎている気がする。
 となると、秘密の漏洩というのも、本当のことなのか?
 ということを考えてしまう。
 これが本当の国家機密のようなことであれば、もっと何かの組織が暗躍しているような気がする。
「警察などあてになるものか」
 ということで、公安が動いていたり、警察でも分からない大きな組織が暗躍していて、警察の捜査を隠れ蓑にして、何かを探っているのだとすれば、まさかとは思うが、盗難事件というものが、
「フェイクではないか?」
 ということになるかも知れない。
 疑い出せば、一つの疑惑が細胞分裂を起こしていき、まったく違った光景を見せてくれているのかも知れない。
 しかし、桜井刑事のように、すべてを逆に考えてしまうと、下手をすると、
「逆も真なり」
 ということで、百八十度のつもりが三百六十度だったのかも知れないということになる。どんでん返しを二回繰り返せば、元に戻るのと同じだ。
 百八十度の感覚は、見えている部分だけであって、実はニアミスをしているけれど、まったく近づくことのない、
「交わることのない平行線」
 ではないかと思うのだった。
 以前、何かの小説で、不思議な星が存在しているという話を見たことがあった。
 その星は、自分のすぐそばにいるのだが、誰にも見ることができない。可視できないのだ。
 つまりは、星というものが、光って見えるのは、自分から光を発しているか、他の星の光を反射することで、光っているように見えるので、その存在を示すことができる。
 しかし、宇宙には、自分で光を発するわけでもなく、光を反射させる力もまったくないという星が存在している星があると言われている。
 その星は、近くに来てもその存在を認識することはできない。しかも、光を貫通する星なので、その様子は気配すら感じることができないというものだ。
 人間でいえば、
「透明人間」
 という発想であろうか?