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意識と記憶のボタンと少年

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「いやあ、桜井君が来てくれたおかげで助かるよ。君にはぜひとも、面倒を見てもらいたい刑事がいるんだ」
 と言ってその相手の名前がやはり白石刑事だった。
「彼は、前途有望な男なんだけど、ちょっと以前の事件が尾を引いていてね。彼は別に悪いわけではないんだけど、世間の手前、彼には、しばらく謹慎をしてもらっていたんだ。本当に不本意であったけど、彼なら大丈夫だと思ってね。でも、思ったよりも、精神的なショックが大きかったようで、二年くらい経っているんだけど、まだ少しショックから立ち直っていなくてね。そこで、君を見込んで、白石君を立ち直らせてほしいんだ」
 ということだった。
 そもそも、桜井刑事は、部下の面倒見がよく、さらに、性格としては、勧善懲悪なところがあった。
「白石君も、君とまではいかないだろうが、負けず劣らずの勧善懲悪なところがあるので、君にはご苦労なことだとは思うが、なにとぞ一つ、面倒を見てはくれないだろうか?」
 ということだったのだ。
 それを聞いて、桜井も、
「私のようなものでもお役に立つことができれば、嬉しく思います」
 と言って、全面的に世話を見るという約束をした。
「それで君のこの転勤についての、本当の理由を明かさないようにしようと思っているんだけど、君はそれでもいいかね?」
 と聞かれて、
「ええ、大丈夫です。ここで言ってしまっては、本末転倒ですからね」
 と桜井刑事は言った。
 F警察署で、今回の事件で、殺人事件と窃盗事件を結び付ける要素が見つかったのは、殺人事件が起こってから、三日が経ってからのことだった。
 今回殺された、大隅康子に似た人間が、窃盗事件の犯人に似ているということが話題になった。
 カメラを見る限り、桜井刑事も、白石刑事も、
「何となく似てはいるんだけど、何とも言えないですね。我々も生きている時の彼女を見ているわけではないので、我々が見ても分からないですね」
 という話だったので、とりあえず大学の関係者に見てもらうことにした。
 さすがに、友達には、聞き込みはできても、この映像を見せるわけにはいかないと思ったので、教授に見てもらうことにした。まだゼミとかには入っていなかったので、見てもらえる教授は少なかったが、やはりその検証は芳しいものではなかった。
 とりあえず、第一発見者である鶴崎玲子に聞いてみたが、彼女の目から見ると、
「康子に見えないこともないけど、ただ、私は康子のこんな目つきは見たことがないですね」
 ということであった。
 彼女の場合は、第一発見者ということもあり、この事件に最初から関わっているので、検証を手伝ってくれるとすれば、彼女以外にはいなかった。
「ところで、鶴崎さんは、F大学の薬学部で、難病克服の特効薬を作っているということは知っていたんですか?」
 と聞かれた玲子は、
「ええ、私は知っていました。湯浅先生の研究室で研究しているということも知っていました。大学の方も別に隠しているわけではなく、ウワサだけは流れてきましたからね。だから、余計に今回の事件は腑に落ちないんですよ」
 と言った。
 それを聞いた桜井刑事は、
「腑に落ちないというのは?」
 と聞き返すと、
「だって、まわりに秘密にしていないのであれば、もっとセキュリティを厳重にしておけばいいわけですよね? それなのに、こんなに簡単に破られるだけのセキュリティだったなんて、お粗末というか、何かウラがあるんじゃないかって思えるくらいですよね?」
 と玲子は言った。
「確かに、そうかも知れませんね」
 と桜井刑事がいうと、
「そうですよ。しかも、現物が盗まれていないで、荒らされているということは、写メを撮ったということですよね? しかもその様子が防犯カメラに写っている。まるで最初から計画されているかのようじゃないですか? そう考えると、康子に似ている人が映っていたというのも、そして、その写っていた康子が、同じ日に殺されたというのも、何か出来すぎているように思えてくるんですよ」
 と玲子は言った。
「なるほど、鶴崎さんはなかなか推理をするのがお好きなようだ。言われてみれば、そういう推理にも信憑性が感じられますね」
 と、桜井刑事は言ったが。実際には、それくらいのことは桜井刑事にも前から想像ができていた。
――そもそも、同じ大学関係で、かたや気密生類の盗難事件、かたや、女子大生が殺された事件、ほとんど同じタイミングだということが、何かを暗示させる――
 ということであった。
 死亡推定時刻は、発見時間から結構経っていたので、幅が広かったのだが、もしここに映っている窃盗犯が、殺された女性だったということになれば、死亡推定時刻は少し絞られてくることになる。
 しかも、それが分かってくると、今のところ、唯一の容疑者であった鶴崎玲子のアリバイも証明されるということになるのだと、まだその時は、警察側にも分かっていなかった。もちろん、玲子自身にも分からなかっただろう。
 事件の計画を自分で立てたのであれば、当然、分かっていたであろうが、彼女がこの事件に関係ないのだとすれば、知る由もないはずだからである。
 ただ、法学部在学中で、薬学部とはまったく関係のない。しいていえば、友達である玲子が薬学部だというくらいだが、湯浅教授とも関係は皆無に近いのだから、玲子は、第一発見者というだけで、この事件とは関わり合いがないと言ってもいいだろう。
 そう思うと、桜井刑事は玲子と康子の関係がどのようなものだったのかということが一番気になるところだった。
 玲子の話を聞いたうえで、今度は二人のまわりの人に、康子のことについての聞き込みを行った。康子はそれほど友達がたくさんいるわけではなく。一定の友達としか仲良くしていないようだった。しかも、その友達は皆単独であり、
「友達同士が友達だ」
 という関係でもなさそうだった。
 だから、訊く相手も数人しかおらず、康子のことをどう思っているのかというのは、人それぞれで違っていた。
 そういう意味では、決して口裏を合わせるようなことはないとも言える。康子に対しての意見が三人三様だったら、本当に三人とも違う意見を持っているに違いない。
 最初に聞いた友達は、同じ学部の同級生であった。
「康子ですか? 私は大学に入学した時からの友達なんですけどね。そうですね、どんな人かと言われると、一口でいえば、変わり者だったかも知れないですね。行動パターンが読めないというのか、だから、興味を持ったんですけどね。自分にないものを彼女が持っていると思うと、仲良くなっていて損はないと感じたというか、でも、彼女は打算的で、冷静な性格だったですかね。自分にないものを持っているとはいえ、決して無理なことはしようとはしなかった。すべてが、計算から成り立っているというような感じですかね?」
 と、その友達は言っていた。
「友達を長く続けるというのは、そういうところに秘訣があるんでしょうかね?」
 と、桜井刑事が聞くと、