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意識と記憶のボタンと少年

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「康子は時々、急におかしなことを言い出すことがあったんです」
 というではないか。
「というと?」
 と白石刑事が聞き返した。
「初めて見るはずの光景なのに、前にも見たことがあるというのを、しょっちゅう言っていましたね」
 と玲子がいうので、
「それってデジャブというやつですよね。私なんかもたまにありますけど、それが珍しいということでしょうか?」
 と白石刑事がいうので、
「そういうわけではなく、彼女もデジャブという言葉や、それがどういうことなのかというのは知っているはずなんです。それなのに、わざわざ口に出していうというのは、少しおかしい気がするんですよね。それもしょっちゅうのことなんですよ」
 と言われて、白石刑事も、
「うーん、確かに、デジャブを感じた時、それを自分から口に出すことって、私にはないような気がしますね」
 と白石刑事がいって、隣にいる桜井刑事を見ると、桜井刑事も無言でその言葉に頷いていた。
 意見は一緒だということであろう。
「その時、私は何か違和感を感じていたんです。それがどこから来るものなのか分かっていなかったんですが、最近になって気になってきたことがあっやんです」
 と玲子の言葉を聞いて、
「どういうことなんですか?」
 と今度は桜井刑事が聞いた。
「それはですね。康子が自分の口に出して言ったのは、よほど、前に見たという記憶がリアルだったからなのか、それとも、前に見たという意識はあるんだけど、思い出そうとすると思い出せないという思うとの両極端ではないかと思ったんですよ」
 と、玲子は言った。
「あなたは、どちらだと思います?」
 と桜井刑事に聞かれて、
「私は最初、前者だと思っていたんですが、途中から、後者ではないかと思うようになったんです。その理由は、自分も同じようなところがあるからで、しかも、その時には、同じシチュエーションの時に、また同じことを口にするんです。つまり、前にも見た記憶があるってですね。それは、デジャブというよりも、本当に記憶にあることを引っ張り出しているのかどうかが疑わしい気がしてですね。言い方は変なんですが、まるで痴呆症の症状に近いような気がして、それを考えた時、ゾッとしてしまうんですよ」
 と玲子は言った。
「なるほど、確かに、過去のことを思い出す時って、何か同じことを前にも言っていたかのような、それこそデジャブではないかと思うような感覚になることもありますからね。それを思うと、私は何か怖いものを感じるですよ」
 と桜井は言った。
 そして、
「あっ」
 と玲子が急に叫んで、すぐに黙ったが、
「どうしました?」
 と白石刑事が声を掛けた時、玲子の顔が少し血の気が引いているかのように見えたのは気のせいであろうか?
「実は、康子が一度、前に感じた光景と同じ光景を思い浮かべたということを言っていたんですよ。それは、実際に見たことではないようで、本で読んだものだったらしいんですが、話を聞いてみると、私もゾッとしましたね」
 という玲子に、
「小説のお話ですか?」
 と桜井刑事に聞かれて、
「ええ、そうです。小説のお話ですね。それも探偵小説の話だったらしいんですが、犯人が、復讐を企てて、相手の家族を根絶やしにしようという計画の小説なんですが、相手の当主と息子を拉致してきて、地下室の壁に腕と足を、枷をつけて括りつけているらしいんです。そこで復讐者がいうには、ここにこれから水を流していくので、お前たちはここでおぼれ死んでもらうことになるんだ。というのだそうです。そこで、被害者がよく見ると、自分は子供たちよりも高い位置に括りつけられていることに気づいて、犯人の意図を思い知って、愕然となったというのです。それは、先に子供がのたうちまわって死んでいくのを目の当たりにしながら、その数分後には、自分も確実に同じ目に遭わされるというものだったようです。その恐ろしさを思い出して、彼女はこういったんです。これは、数年前に流行った伝染病で医療崩壊が起きた時、自宅療養者が多かった時に、子供が最初に病気に罹って、親が看病することになったとして、子供の容態が悪くなって、救急車を呼んだとしても、受け入れてくれる人がいないから、結局、苦しみながら死んでいくのを目の当たりにすることになったというんですね。そして自分も子供から伝染し、同じように苦しみながら死んでいく。そして誰を恨んでいいのか分からずに、苦しみの中で思い出したのが、この小説であり、さらには、伝染病に子供は罹らないと言って、平気でマスクもせずに、表で遊ばせていた自分が一番悪いということだというんです。つまり、一番悪いのは自分であり、自分の命は自分で守るということを真剣に考えてこなかったことを後悔したというんですね。それをデジャブのようだと感じたようです、その時はすでに学校も休校になっていたので、本当なら家で大人しくさせておかなければいけないものを。休校になったのだから、これ幸いと言って、子供を平気で表で遊ばせていたという、他の人がみれば、誰が見ても、自業自得にしか見えないんですよ。結局、あの当時は、そんな人ばかりだったら、伝染病の猛威が消えることはなかった。収束したのだって、運が良かったからではないかと思うのですが、政府がそれを本当に検証しているのかどうかもよく分からない。それを思うと、やり切れない気持ちになったとしても、無理もないことだと思うんですよ」
 と玲子はいう。
「じゃあ、あなたは、あの時の流行は、子供も悪かったと言っているんですか?」
 と聞かれた玲子は。
「ええ、もちろん、子供だけとは言いませんけど、子供のために何をすべきかということを甘い考えに浸っていた親が一番悪いのかも知れませんね。子供は親を見て行動するものだからですね。今は子供でも、自分の身は自分で守るという時代に入っていると私は思っています」
 と、玲子は言った。
「よく分かりました。でも、康子さんは、何か思い入れのようなものをいつも持っていたんでしょうかね?」
 と言われた玲子は、それを聞いて、少し考え込んでいるようだった。
「そうですね。ただ、私は少し別の見方を康子にはしていたんですよ」
 というではないか。
「それは、どういうことですか?」
 と聞かれて、
「実は気になっているのは、康子さんがデジャブのように言っていることが、関連性がないように思えて、どこかで繋がっているかのように思えることだったんです。ひょっとして、何かを悩んでいたのではないかってですね。つまり、何か一つのことを考えすぎるあまり、考えがまとまらずに、結局、時系列の感覚がマヒしてしまって、過去に見たこともないものを、初めてではないという意識になったのではないかという風に感じたんですけどね」
 というのだった。
「何とも的を得ないような言葉で、どこかモヤモヤしか感覚になります」
 と桜井刑事がいうと、
「そうでしょう? 実は私も、康子を見ていて、似たような感覚に陥ったんですよ」
 というではないか。
「ますます、分かりませんね」
 と桜井刑事がいうと、
「私が康子に感じたのは、彼女が一種の記憶喪失なのではないかということだったんです」
 という、いきなりの、
「記憶喪失」