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意識と記憶のボタンと少年

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「それは俺も思ったよ。第一、そうでもないと、親友の女友達に合鍵を渡したりなんかしないだろうからね。まずは、第一発見者の彼女に話を聞いてみることにしようか? 第一発見者は?」
 と桜井刑事に聞かれた白石刑事は、
「今、警官の人が一通りのことを聞いてくれています」
 ということをいうので、
「よし、じゃあ、合流してみよう」
 と言って、桜井刑事は鑑識官に後はお願いして、白石刑事と一緒に、警官が第一発見者に事情を聴いている隣の部屋に向かった。
 ちょうど話をしていたので、その様子を見ていると、第一発見者の女の子は、だいぶ落ち着きを取り戻しているようだった。
 最初見た時は、完全に血の気が引いたような顔色の悪さだったが、それでも、警察にキチンと通報できたあたり、
「芯はしっかりとしているのだろう」
 と思わせた。
 今では声もしっかりと出ていて、別にどもるようすもなく、ハッキリと答えているのを見て、桜井刑事は安心していた。
 警官は二人の刑事に気づいて、話の途中で振り返ると、背筋を伸ばして敬礼した。しっかりとした性格なのだろう。
 二人もつられるように敬礼を返したが、
「いや、いいんだ。遠慮することなく、聞き取りの方を続けてくれたまえ」
 と桜井刑事は言ったので、警官も恐縮し、
「はっ」
 と言って、聞き取りを始めた。
 その様子があまりにも真面目だったので、思わず吹き出しそうになった白石刑事だったが、それは、自分の交番勤務だった頃のことを思い出していたからだろう。
――俺もあんな感じだったのかな?
 と、どこかぎこちなく見える今の警官を見て、噴き出しそうになったのは彼のことではなく、昔の自分のことだということを感じると、今度は恥ずかしくなって、顔を赤らめるのだった。
 警官が今の質問を終えると、
「こちら、桜井刑事に白石刑事。今度はこちらの刑事さんの方の質問に答えてあげてくださいね」
 と言って、警官は二人の刑事を制するようにして、自分は後ろに下がっていた。
 それではということで、
「さっそくですが、今のおまわりさんと質問が重複することもあると思いますが、我々の質問に答えていただければ幸いです」
 と言って、白石刑事は、先頭に立って、声を掛けた。
 こういう時の聞き取りの主導権は白石刑事に任せて、よほど気になったことや、話が核心に入ってきて、確認を要する場合以外は、自分が出しゃばることのない桜井刑事と白石刑事の立ち位置は、いつものことなのだろう。
 白石刑事はさっそく、
「お名前と年齢、お住まいとご職業をお願いします」
 と言われた玲子は。
「はい、私は鶴崎玲子と言います。二十歳です。住まいはここから徒歩で十分くらいのところのマンションに住んでいます。職業はF大学の学生です」
 というので、
「被害者は確か、大隅康子さんと言われるんですよね? 同じ大学に在学中ということでよろしいのかな?」
 と聞かれた玲子は、
「ええ、同じ大学なんですが、学部は違うんですよ。私は薬学部なんですが、彼女はほう学部なんです」
「学部が違うのにお友達に?」
「ええ、彼女はどちらかというと学部が違う普段ならなかなか会うことのないような人を友達に持ちたいと思っていたようだったんです。数人いれば、一人くらいはそういう人だっていると思うんですよね」
 と、玲子は言った。

                 記憶喪失

「それは、少し変わっていますね」
 と苦笑しながら白石刑事が聞くと、
「ええ、彼女は変わっているんです。だから私も友達になったような次第で、だから私も変わり者なんです」
 と言って、玲子は、白石刑事を見つめた。
 今の苦笑を嘲笑だと捉えたのか、皮肉たっぷりに受けたのだった。
 さすがにそれを聞いて、白石刑事も閉口してしまった。
――少し、失礼だったかな?
 と感じたが、そのおかげで、
「玲子は、嘲笑に対しては敏感なんだ」
 と感じた。
 同時に感じたのは、玲子の気の強さで、敏感に感じた嘲笑に対して、断固として立ち向かうという姿勢を見せるところがあるということが分かった。
 だが、さすがにそんな緊張した気持ちもずっと持ち続けられるものではないようで、すぐに冷静さを取り戻したようだった。
「じゃあ、あなたが死体を発見した時の状況を説明願いますか?」
 と桜井刑事に言われて、いきなり冷静モードに戻った玲子は、それから淡々と話し始めた。
「朝、大学に行く時は、学部も違うし、授業の組み方も違うので、結構バラバラの時が多いんです。でも今日はちょうど同じ時間帯だったので、そういう時は、先ほど言ったように、いきなりではなく、気付いた方が連絡をして、康子の部屋に私が来るようにしているんです。だから、今日も私は朝起きて少ししてから、康子に連絡を取ってみたんですが、既読にもならなかったんですよ。少しの間待っていたんですが、十五分過ぎても既読にならなかった、こんなことは朝の時間ではなかったことだったので、どうしたんだろう? と思ってきてみたんですよね」
 と、玲子がいうので、
「なるほど、それであなたは、合鍵を使って中に入ったわけですね?」
 と、桜井刑事がいうと、
「ええ、そうです。この部屋のことは私g一番知っていますからね。カギを開けて、すぐに康子の名前を呼びながらリビングに行ってみると、そこに、先ほど見られた感じで、康子が倒れていたんです。俯せだったので、一瞬、何かの発作でも起こしたのかな? と思ったんですが、倒れている旨のあたりに黒いシミのようなものが見えたので、すぐに血ではないかと思ったんです。それで、すぐに手首を握って脈を取ってみたり、首筋の動脈を触ってみたりしたんですが、とにかく触った瞬間が冷たくなっていたので、すぐに、これはダメだと思い、すぐに警察に連絡したわけなんです」
 と、冷静に、玲子は話しをした。
――何て気丈な娘なんだ――
 と思うところであったが、最初に警官から、
「彼女は、私が最初に来た時、震えが止まらなかったくらいに動揺していました」
 という話を聞いていて、最初に見た時のあの顔色の悪さを思い出すと、決して最初から気丈だったわけではないことがよく分かった。
 だが、逆にいうと、警官がやってきて、少し気分が楽になり、刑事がやってくると、完全に冷静さを取り戻したということであろう。
 普通であれば、怒涛の如く、押し寄せてきた警察に対して、この場の雰囲気にのまれてしまって、なかなか対応できないというのが普通であろうに、彼女の場合は、それだけ雰囲気に呑まれる前に自分の冷静さを取り戻すことができるという、一種の才能のようなものを持っているのかも知れない。
 今までにも、そんな第一発見者をたくさん見てきた桜井刑事だったが、そんな中には、真犯人もいたというのを思い出していた。
 逆にいえば、捜査のイロハとして、
「第一発見者を疑え」
 という言葉もあるくらいではないか。
 もちろん、それは探偵小説のイロハと言ってもいいのだろうが、実際の事件の捜査は、すべてがそうだとは言えるものではない。