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意識と記憶のボタンと少年

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 別に防音でなくとも、まわりに声が漏れることはないが、彼女が気にしたのは、
「他の部屋からの騒音を気にしなくてもいいから」
 ということだった。
 彼女の隣の部屋に住んでいるのは、同じ女子大生で、その女子大生は彼女とは違って、結構いつも誰かを数人連れてきていて、賑やかにしていた。
 それでも、ほとんど騒音を感じることはなかった。しかし、壁を叩いたり、走ったりする音は聞こえるもので、酒が入って賑やかになった時は、まったく静かでいられるということはなかったが、それでも、バカみたいな笑い声が聞こえないだけマシだったのは確かである。
 その女性は、たまにそうやって宴会のような騒ぎを起こしているが、いつもということではない。
 普段は、誰か男の人を連れ込んでいるようだった。
 彼女は、おとなしくて控えめな性格であったが、その男性が恋人であるということくらいは想像がついた。そういう意味で、
「防音はありがたい」
 と感じたのだ。
「若い男女が、一つ部屋の中で一晩を過ごす」
 ということはどういうことか?
 もし、これが防音でなければ、自分がどれほど悶々とした夜を過ごさなければいけないかということを、彼女には分かっていたのだ。
 だから、この時ほど、
「ここが防音設備が整っているところでよかった」
 と感じるのであった。
 だが、この防音設備、いいことばかりではなかった。最後の最後に、自分が殺されることになった時、その犯行時の異変に誰も気付かなかったということで、
「ひょっとすると、防音でなければ、誰かが気付いて、殺されずに済んでいたかも知れない」
 という話も出たくらいだった。
 実際はどうだったのかは分からないが、あくまでも結果論として、そういう話も出たということである。
 この女子大生が死体で発見されたのは、F大学に窃盗犯が入ったのとどっちが先だったのか。ハッキリと分からないくらいであったのだ。
 ただ、死体が発見されたのは、翌朝になってからのことであり、窃盗が判明したのは、夕方警報ブザーが鳴って、警備会社に通報された時だったので、ほぼ犯行時間に判明したと言ってもいい、
 殺人事件の方は、F警察署から桜井刑事がやってきた。桜井刑事とその相棒である、白石刑事が捜査に当たることになった。
 二人は、F大学で窃盗事件があったことは知らなかったので、殺人事件の犯人を特定するのに、初動の時点で遅れてしまったと言ってもいい。
 この二つの事件が、繋がっているのではないかということが分かったのは、だいぶ経ってからのことだった。
 通報者は、第一発見者であり、被害者の親友の女の子であった。
 親友ということもあり、合鍵は預かっていた。殺された女の子も、発見者の女の子の合鍵を持っているということで、お互いに信頼していたということだろう。
 しかも、
「私も彼女も、事前に遊びに行くという予告をするか、急に行くことになっても、メールなどで予告しておくのが礼儀としての暗黙の了解なのよ」
 と言っていた。
 その日は、朝から一緒に朝食を食べて、学校に行くつもりだった。
 殺害された女の子は法学部なのだが、友達は薬学部だった。
 湯浅研究室には入っていなかったが、もし、彼女がそのまま大学に行っていれば、窃盗事件があったことを知って、それはそれでショックを感じたに違いない。
 薬学部の彼女は三年生であるので、お姉さん的な存在だった。
 殺害された女の子の方は、彼女のことを、
「お姉さん」
 と思っていたが、彼女の方では、
「お姉さんと呼ばれる筋合いはない」
 と言って、笑っていたのが印象的だった。
 実際には、二人の年齢を知らなければ、同級生にしか見えないが、友達の方が年上だと分かると、
「友達の方が年上にしか見えない」
 というほどに感じてしまうのは、角度によって、二人の関係性が変わってくるという証拠ではないだろうか。
 ということは、角度によって、二人の立ち位置が変わって見えて、それは、時間帯でも証明されているかのようだった。
 つまりは、午前中と午後とでは、立ち位置が違っていて、どちらが主導権を握るのかが二人の間では暗黙の了解だった。
 ただ、次第にまわりも分かってきたようで、二人が自覚しているよりも、下手をすると、まわりの方が分かっているのではないかというほどに思えたことがあったくらいだった。
 殺された女の子は、名前を大隅康子と言った。田舎はそれほど遠いわけではなく、
「無理をすれば、通えないこともないけど、女の子なので、無理もさせられない」
 ということであった。
 しかも、本人が、
「アルバイトして、部屋代くらいは自分で何とかする」
 ということだったので、親も許したという次第だった。
 第一発見者の女の子の名前は、鶴崎玲子という。彼女も一人暮らしなのだが、彼女は遠くの県が実家なので、一人暮らしをするのは、必然だったのだ。
 死体を発見した時、警察には言わなかったのだが、玲子には何か虫の知らせのようなものがあった。
「何か、ぞわぞわしたものがあった」
 と感じていたのだが、それがどこから来るものなのか自分でも分からず、当然刑事に説明できるものではないだけに、何も言わなかったのだ。
「もし、その時に何か言っていれば少しは違ったかも知れない」
 と後で感じたが、それが玲子の中で後悔として残っていたのだ。
 玲子が発見してから、一瞬、どうしていいのか分からなかったが、すぐに平静を取りもどし、警察に連絡した。
 連絡してから、十五分くらいで、警官がやってきたが、すぐそのあとで、刑事が二人入ってきたのだ。
 それが、桜井刑事と白石刑事だった。二人は、実に冷静で、玲子は、
「本当に刑事ドラマを見ているような感じだわ」
 と感じたのだ。
 部屋に入ってくるなり、警官と敬礼で、
「お疲れ様です」
 と、低い声であいさつをした。
 挨拶をしてすぐに、現状を見ながら、さりげなく取り出した白い手袋を手にはめて、指紋が残らないようにしていた。
――何で、白い手袋なんだろう?
 と、漠然とした疑問だったが、それも、無意識のうちの疑問だったので、それ以上は何も言わなかった。
 二人の刑事は無言で現状を見つめていた。たまにしゃがみこんで、あたりを見渡していたのは、何かの証拠物が落ちていないかということを探っているからに違いない。
 そのうちに鑑識が到着して鑑識作業が始まるようになれば、いろいろなことも分かってくるだろう。二人の刑事はそれまでに、一つでも何かを発見できればいいというくらいだったに違いない。
 しかし、鑑識がやってきたのはそれからすぐくらいだった。十分ほどの時間しかなかったのだが、玲子にとっては、結構長かったような気がする。
 それだけ、二人の刑事が捜査をしているのを見るのは、緊張を感じさせ、どうしていいのか分からない時間を形成していた。
 鑑識が入ってくると、二人が単独で各々調べていたのとは反対に、鑑識はチームになっていて、しかも、鑑識にはルールがあるようで、決まったいつもの動きをしているのが分かるのか、実にスピーディに感じられた。