小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

意識と記憶のボタンと少年

INDEX|13ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

 その日の刑事との話では、別に新しいことは何もなかった。
 しかし、刑事が帰ってから一人になって、いろいろなことを考えていると、妄想がどんどん膨れ上がってくるような感じがしたのだ。
 一つ気になったのが、
「教授は、記憶を失ったのではないか?」
 ということであった。
 天才教授が、ある日突然、記憶を失って、失踪してしまったというような話を聞いたことがあった。別に何があったというわけではなく、普段とずっと変わらずに接してきたにも関わらず、いきなり、記憶が喪失してしまうのだ。
 普通の記憶喪失は、自分が誰なのか分からなくても、記憶の一部は残っているものらしいのだが、その教授の場合は、意識に繋がるような記憶も、喪失していたという。
 まるで、麻薬患者のように、意識が朦朧としていて、何をどうすればいいのか分からずに、まわりの人のいうことをすべて信じてしまうというところまで言っているようだという。
 そういう意味では、教授が楽観的だったのは、そういう記憶喪失の兆候があったからではないだろうか。
 楽観的な教授を今までに見たことがなかった学生は、完全に戸惑ってしまっていたようだ。
「教授、一体どうしてしまったんだろう? まるでラリっているようにさえ見えているくらいだ」
 と他の学生は舌を巻いてしまうだろう。
「教授というのは、一触即発で、急に何かがキレてしまうと、そこから先は、まるで記憶を失ってしまったかのように、精神疾患を感じさせる言動であったり、行動に出たりするんじゃないだろうか?」
 という人もいた。
「それだけ、日頃から緊張が張り詰めた中にいるんだろうか」
 と言ったが、
「一般の社会でも一緒のことなのだけど、専門的過ぎるので、余計に意識が飛んでしまうことになるんだろうな」
 と、いうのであった。
 ただ、警察の方としては、
「教授が何かの手がかりを握っている」
 ということを考えているようだ。
 何と言っても、失踪したのが、事件が起こってからなので、疑われるのは、当然のことである。
 だが、警察もさすがに直接的な犯人だとは思っていない。教授が秘密を持ち出すことのメリットが考えられないからだ。
 犯罪を犯すにはそれなりの理由が存在するはずだ。その理由として一番考えられることとしては、
「一番誰が得をするのか?」
 ということである。
 そういう意味では、教授の立場とすれば、研究を大学の方から発表してもらって、その開発者として教授の名前が世間に知れ渡れば、それが大いなる名誉になり、お金となって入ってくるのだ。黙っていても地位と名声、さらにお金が入ってくるのに、何も危険を冒す一つはないtpいうことである。
 ただ、教授が脅迫されているとすればどうだろう?
 身近な誰かを誘拐されて、身代金の代わりに研究を盗み出す実行犯として、犯人に操られるということである。
「教授であれば、疑いが掛かることはないだろう」
 と思われるが、それはあくまでも、教授が、
「黙っていれば」
 というのが前提である。
 別に疑われたわけでもないのに、いきなり行方不明になるというのは、その時点で関与が疑われる。黙っていればよかったはずだ。
 しかし、これも逆が考えられる。
「犯行が露呈しなければ、何も動かなければいいんだ」
 ということである。
 あくまでも、現物を盗み出すわけではなく、写メに撮ってくるだけなので、犯行時代が露呈しないという可能性もあった。
 だが、これは実に、可能性としては薄い。防犯カメラくらいはいくら何でも設置してあるだろうから、写らないはずはないのだ。それを見越しての教授に実行犯として動いてもらうことにしたのだろうが、今度は、
「教授であれば、犯人である可能性は低い」
 という意味で、教授にやらせたという考えもできるだろう。
 だが、ここまでは計算通りだったのかも知れないが、教授が行方不明になったのが、仮に実行犯を教授だとすれば、どういうことになるのか、教授にとっては、自分から姿を晦ませることと、組織の手によって、姿を晦ませることのどちらが考えられるかということである。
 もちろん、実行犯が教授で、その後ろに何らの組織が暗躍をしていると考えた時のことであるが、実行犯が教授かどうかということよりも、何らかの組織が裏で暗躍していると考える方が信憑性はあるだろう。
 その組織がなぜ教授に白羽の矢を立てたというのか? やはり一番疑われにくいからだと思ったのだろうか。もし、そう考えたのだとすれば、教授の失踪は組織側からすれば、計算外だったと考える方が普通ではないか。
 となると、教授の失踪は大きく分けて二つあるわけだが、
「教授に失踪するように組織が命じた」
 ということ、そして、
「教授が自ら失踪を企てた」
 ということの二つである。
 普通に考えると、後者の方なのだろうが、もし前者の方だとするならば、こちらも、二つの可能性が考えられる。
 まずは、
「最初からの計画通りのことなのか?」
 ということと、
「途中から、計画を変えなければならず、やむ負えず計画を変更した」
 という考え方だ。
 この場合も、前者は、信憑性に欠ける気がする。最初から計算ずくであれば、何も教授を使う必要はないだろう。これではまるで、教授g犯人だと言っているようなものではないか。そして、教授が犯人だと考えれば、教授には盗みに入るリスクを犯すような直接的な動機は見当たらない。そう考えれば、教授を犯人に仕立てるということは最初はなかったはずである。つまりは、自分たち組織が裏にいることも分かってしまうというリスクがあるからだ。
 しかし、計画が途中で変わったのだとすれば、考えられることとしては、
「我々組織の関与が、バレてはいけないということが、さらに深くかかわってきたという事情ができたとすれば、組織として何を考えるだろう。
「事件が露呈してしまった以上、誰か犯人を仕立てて、その人物にすべての責任をおっかぶせるということが一番ではないか」
 と思わせることである。
 そうなると、実行犯である教授にすべての責任を押し付けるのが、一番の解決方法ではないか。
「最初からの計画だったのではないか?」
 ということは可能性として低いということを言ったが、逆に考えれば、この方法も、いくつかある方法の一つではなかったか。
 犯行を企てる時というのは、犯行方法は一つだけではない。。一つの筋が決まると、犯行を実行し、それが成功すれば、そこで終わりではないのだ。むしろここからが本番で、自分たちがいかに捕まらないようにすればいいのかという事後処理の問題が発生する。
 相手は警察だ。警察の捜査や推理をかいくぐって、最後には迷宮入りにしてしまうまでが、犯罪計画なのだ。
 そのためには、いかに犯行をカモフラージュするかというのが大きな問題で、いくつもの計画を立てておいて、
「A案が失敗すれば、B案でいく」
 などという、警察の捜査、あるいは、推理に沿った形で、どちらに転んでもいいように、前もって想像しておくことが必要だ。
 警察の捜査もスピードが必要なのと同じで、こちらは逃げる方なので、追いかける方よりもさらにスピードがなければ、簡単に追いつかれてしまう。