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臭いのらせん階段

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「国のトップの政治家」
 がやることであろうか?
 それを考えると、
「これほど姑息な首相もいない」
 と感じ、次第に疑心暗鬼がこみあげてくる。
 平時であれば、何も知らなくてもよかったのだろうが、パンデミックなどの全国的な混乱に陥ると、完全に有事ということになり、政治手法が試されるのだろうが、実際に行った政府の対応は最低で、
「こんな政府の元、自分たちはしたがってきたのか」
 ということで、政府に対して、不満しかないのだった。
 まあ、もっとも、その首相は、病気を理由に雲隠れして、新しい首相になったのだが、これが輪をかけたやる気のない首相で、
「やる気はあるが、限りなく真っ黒に近いグレーの男がいいか、とにかくやる気がないトップとしての破棄のない男がいいかという、国民にとっては、究極の選択に近いのが、現在の日本の状況だった。
 特に総務などの仕事をしていると、確かに営業などはいろいろなところから深い情報が入ってくるだろうか、ある程度範囲としては狭いものだ。
 総務の場合の情報は。
「広く浅い」
 という情報で、総務としてはちょうどいいだろう。
 深い情報を知りたければ、営業部やサポート部にそれとなく聞いてみるということもできるからだ。それだけの話ができるほどの根回しはできてるつもりだった。
 山岸という男が以前いた会社は、結構大手の商社だった。本人曰く、
「商社マンとしての成績は悪くはなかったと思うのですが、急に中華料理屋をやってみたくなったんです。それまで、中華料理が好きというわけでもなかったんですが、ある時、同僚と餃子を食べて、その餃子の味が忘れられなくなったんです。しばらく、餃子の美味しい中華料理屋を探し歩くのが趣味のようになったんですが、そのうちに、自分で作ってみたくなったんですね。子供の頃から、自分が好きなものは、自分で作るというのが、モットーのようになったので、その時の気持ちを大人になって、急に思い出したんだと思います。だから、会社を辞める時は、そんなに迷いませんでした。勢いだったと言ってもいいかも知れないですね」
 と、いうことだったが、敏子が気になったのは、
「それで、店を始めたけど、運悪く、パンデミックに引っかかってしまった。経営が立ち行かなくなって、早々と店を諦めたということですが、後悔はなかったですか?」
 と聞かれて、
「それは、店を始めたことですか? それとも店を閉めたこと?」
 と、山岸が答えたが、少し考えてから、
「そのどちらもですね」
 と敏子が聞くので、今度はさらに敏子の数倍考えた山岸は、
「いいえ、どちらも後悔はなかったですね。どちらかが後悔していれば、どちらも後悔することになったでしょう。どちらかだけというのは、考えられないと私は思っています」
 と、答えた。
「潔いという感じですね」
 と聞かれたので、
「私が総務に向いている性格だと白鳥さんが感じたのは、きっと私が後悔していないということを分かったうえで、総務配属を決めたんだって思いました。でも、どちらかが後悔していれば、もう片方も後悔するだろうという考えは、たぶん普通の人にはないと思うんですよ。私はそれを潔いとは思わない気がするので、私が後悔することがあると言ったとしても、白鳥さんは、それを本気で聴かないような気がするんですよ」
 と、山岸は言った。
「ものは考え方だと思うのですが。山岸さんと話をしていると、絶えず何かを計算しているような気がするんです。だから、片方が後悔すれば、もう片方も後悔するだろうと思い込んでいると感じたんです。つまり山岸さんは私のことを、きっと、後悔などしたことのない人ではないかと私が感じていると思っているんでしょうね」
 という分析を披露した。
「なかなかの洞察力ですね。きっとそうなんじゃないかと思います。でも、後悔したことがないわけではないと思うんですけどね」
 と山岸がいうと、
「でも、あなたが後悔する時というのは、必ず悔しさを伴っているのではないかと思うので、後悔から悔しさを伴うという感覚があなたを見ていて想像できないんです。だから、あなたが後悔をしたとは思っていないと感じたんですよ」
 というのが、敏子の考え方だった。
 その考え方は、間違っていないような気がした。
 それは、敏子であっても、山岸であっても同じことだ。
「今の話は、白鳥さんにも当てはまるのではないかと思ったんですが?」
 と聞くと、
「私は確かにそうなんですよ。でも、私はそういう意味の後悔をしたことは何度もあります。逆に後悔とは悔しさを伴うものだと信じてきたんですが、違うんでしょうかね?」
 と、敏子は答えた。
「でも、後悔をしたくないという思いがあるから、失敗をしないという気持ちにもなれる。でも、失敗を恐れることで、却って予期していない方向に向かってしまっているということも結構あるもので、後悔が先か、悔しさが先かという問題にもなりそうな気がします。後悔するから、悔しいのか、それとも悔しいから後悔するのか、それこそ、ニワトリが先か、タマゴが先かという禅問答を地で行っているようなものではないかと思うんですよ」
 と、山岸はいう。
 二人は結構気が合うのか、よく呑みに行ったりすることが多かった。今の話も、ある日呑みに行った時の会話で、敏子の中で気になって、記憶に残っている会話だった。
 元々山岸がいた商社というのは、以前エコモプライズも取引をしていた会社だったが、ある日突然に、取引を切られたのであった。
 地域の本部がこの近くにあったので、支社という形で。それなりの事務所を構えていた。この界隈で地元大手でもない限り、大きなビルのワンフロアを事務所にできるところなどなかなかないと思われていたので、かなりの売り上げがあった。
 普通の会社であれば、炊事場に一つか、応接セットの近くに一つくらいの多くても二つがいいところであろうが、この商社は四か所にも置いてくれていた。
 しかも、水の供給量が一つでも多く、他の会社の五倍くらいの消耗だったのだ。これは本当に大口であっただけに、切られてしまった時は、さすがに会社でもショックが大きかった。
 しかし、考えてみれば、それも当たり前といえば当たり前のことで、これだけの消耗品は、会社の経費節減ということでは、最初にやり玉に挙がってしかるべきであろう。
 そう思うと案の定、その商社は、今までのビルから引っ越して、かなり手狭な事務所へと移転した。
 しかも、それぞれの部署が別のビルにしか入れないということで、分散してしまったことでの経費も節減しなければならなくなっていた。
 それでも、前の一極集中のビルよりもマシなようで、いきなりの契約解除は、やむ負えないほどの経費節減を迫られてのことだったようだ。
 それだけ、今までが経費の無駄遣いとしていたということで、経費を垂れ流していることが分かってくると、大改革をするしかないということになったようだ。
 エコモプライズだけでなく、今までの主要取引先であった会社であっても、容赦はしなかったようだ。
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次