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臭いのらせん階段

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 いや、国民が平和ボケで世界がどうなっているのかを知らないだけである。
「いい加減にしてくれよ」
 と、全国民が心の中で言っているのが聞こえてくるくらいである。

             人事権の掌握

 前章において記したように、ここ最近は街中に、アルコールの臭いが充満していて、それが慣れになってしまっていることで、嫌な臭いと感じなくなっていた。
 アルコールというのは、独特の臭いがある。しかし、考えてみれば、酒好きの人であれば、アルコールの臭いが嫌いだというのは、どこか矛盾しているのではないだろうか。もし、アルコール臭が嫌だというのであれば、お酒も飲めないということになるだろうからである。
 嫌いなのかも知れないが、アルコールの臭いで、
「どこか懐かしさを感じる」
 と思うのも無理もないことのように思うが、いかがであろうか。
 アルコールの臭いだけではなく、マスクにしても、店によっては、今も予防策を徹底しているところもある。ソーシャルディスタンスを取っている店、検温を実施している店、換気を徹底している店、どれk一つだけを実施しているという店は却って少ない。徹底しているなら、そのすべてに関して徹底していて、ひょっとすると、以前感染者を出したり、クラスターを発生させたりしたことのある店だったのかも知れない。その時の影響が大きくて忘れられないのではないだろうか。
 そもそも、今では当たり前のように使っているが、ソーシャルディスタンス、クラスターなどという言葉。さらには、最初に記したパンデミックという言葉でさえ、数年前まではまったく使ったことのない言葉ではなかったか。
 かくいう作者も簡単に使っているが、本当に言葉として正しいのか、少し疑問だった。特に、
「パンデミック」
 という言葉の使用法がこれでいいのか、それが気になっていたのだ。
 最初にパンデミックが起こってから、数年が経っていたのだが、今から思えば、最初に騒がれ出した時がついこの間のように感じるのに、それ以前の世界が、遥か昔のことだったように思える。
 それだけ世界の光景が一変してしまったということなのだろう。
 そんな世の中にあって、あの世界的なパンデミックは、
「自然界が人類のもたらした試練だ」
 と、真剣に考えている女性がいた。
 彼女は、名前を白鳥敏子という。
「悪は何であっても許せない」
 という勧善懲悪の考え方を、かなり極端に信じ込んでいる人だった。
 ただ、それだけにまわりに合わせることができず。次第に一人でいる機会が増えてきて、二十六歳になった最近は、友達と言っても、挨拶をするくらいのものであり、ほぼ、知り合いというのと変わらなくなっていた。
 可愛らしい顔立ちをしているので、幼く見られ、甘えん坊に感じられるのだが、実際には冷静で甘えなど逆に許さないというくらいの性格になっていたのだった。
 会社では、総務課に勤めていて、寺務的な仕事のように、一人でコツコツとこなすことは彼女にとっての本望でもあった。自他ともに認める、
「天職だ」
 と言ってもいいかも知れない。
 実際に、誰かと仕事をしているよりも、一人でこなしている方が仕事も早い。彼女の場合は適材適所ということだったのだろう。
 総務部においての仕事は、結構いろいろであった。備品管理、社内ネットワークの管理、人事の業務、社内規則の立案など、さまざまである。
 もちろん、部内会議や、プロジェクトができれば、プロジェクト内での定例会議などがあるだろうが、基本的に決まったことを進めていくのは、ほとんど一人であった。
 ここ数年は、伝染病関係の業務もあり、結構忙しかった。
 自粛やテレワーク推進などにより、協力した場合は、国から協力金が貰えるということで、その手続きであったり。リモートワークをするための、ネットワークの設定、さらに、テレワークの際の社員規定であったり、推進に関しての決め事など、結構行うことはたくさんあった。
 さらに社員が感染した場合の対応や、自治体に対しての報告、指示伝達なども総務の仕事だ。普段の業務だけではなく、それらのことまでが絡んでくるので、結構大変なことなのだろう。
 彼女は、地元の短大を経て、この会社に入ってきた。
 入ったこの会社は、エコモプライズという名前で、浄水器を販売、あるいはレンタルしている会社だった。
 販売の場合も、レンタルの場合も、相手の会社の消耗品をサポートする仕事も請け負っていた。
 つまり、大きく分けると、販売、レンタル関係の営業を行う営業部と、消耗品のサポートを行う、サポート部と、事務経理一般を取り扱う総務部の三部門で構成されている。
 社員は、五十名くらいであろうか。それほど大きな会社ではないが、地道に地元でコツコツと営業を行い、幸いなことに、同業他社がいないことで、あまり大きな波もなくやってこれた。
 それでも、昨年までのパンデミックによる社会全体の業績不振に巻き込まれる形で、業績を減らしてしまってはいたが、浄水器の機械は、却ってこういう時代だからこそ、重宝されたりしたのだろう。痛手としては、テレワーク促進にての、出社が少なかったり、店舗であれば、自粛による一時的な閉店であったりした影響で、売り上げはかなり落ち込んだが、それでも、出社を余儀なくされている会社では、却って浄水器を使う機会が多いようで、結構使ってもらっている。どうやら、水として使う場合以外にも、コーヒーやスープなどにして飲んでいる人が多いようで、その分、普段よりも、一斗単位で例月よりも多いような気がする。
 敏子は、会社では、どちらかというと嫌われていた。総務という部署というのも、まわりから疎まれることが多い。
 何かの承認を得る場合も、部署長の承認以外で、総務部の承認を必要とすることが、この会社には往々にしてある。
 営業というと、必要経費などがあり、例えば営業に際して、クライアントのために、営業を掛けるうえで必要ないわゆる接待費であったり、接待が深夜まで及んで、終電がなくなった場合のタクシー代や、ビジネスホテルなどへの宿泊費などがその分の経費として認められたりするのだが、最終的な判断は総務に任せられる。
 総務は経理も兼ねているので、どこまでが必要経費として認められるかということを判断する必要がある。もちろん、総務部のトップの判断になるのだが、総務部のトップが、部員に実際に相談しているというウワサがあった。
 その部員というのが、敏子だというのだ。
 実際に、総務部長からよく相談を受けるのは、敏子だった。
 彼女の場合は、受けた相談に対して、いかなる理由で、その是非を答えているのかも、しっかり理由をつけて説明してくれるのだという。
 敏子の理由説明は、まるで演説のようであり、それだけでも説得力は絶大なものであるのだろうが、
「白鳥さんの考え方を聞いていると、まるで、営業部長から、訊かされているかのようないかにも正論ともいうべき回答を、淡々と話されると、もう異論を唱える余地あないというほどに思えてくる」
 というものであった。
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次