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臭いのらせん階段

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 防犯カメラという音声のないものなので、無音のままから想像していることなので、それをすべて正しいとして認識することは危険であった。
 したがって、その場で起こったと思われること、そして防犯カメラに残っている状況、どこまでをどう解釈していいのか、却って理解できないところもあるようで、何をどう解釈していいのか、難しいところであった。
 そんな状況を考えてみると、やはり、敏子の意識が回復して、彼女の供述を得ることは必須ではないかと思えた。
 どこまで意識できていたのかも、怪しいとは思う。何しろ一度は記憶を喪失しているのだから、もし、記憶が戻ったとしても、どこまで正しくその状況を理解できているのかが問題だった。
「それにしても、犯人はどうして彼女を利用したのだろう?」
 本来であれば、被害者である人物が一人で殺されていれば済むのに、なぜその場所に彼女が放置されたのか?
 普通に考えれば、一人が殺されていて、すぐそばに別人がいれば、その人が犯人ではないかという思いに至るのが普通なのだろうが、彼女は記憶喪失になっていて、その証言に信憑性は今のところない。
 防犯カメラに気づかなかったなどということはありえない。何しろ、シートを掛けて、細工を施している以上、犯人は明らかに防犯カメラの存在を知っていた。
 しかも、知っていて利用しようとしているという意味で確信犯である。一体我々に何を見せようというのだろうか?
 さらに、この犯行には、共犯者がいたのではないかということも十分に考えられることであった。
 となると、敏子が犯人のうちのどちらかではないかということも考えられる
 そして一番の発想は、彼女が主犯ではなく、共犯の方ではないかということであった。彼女もある意味、共犯だったとしても、
「主犯に利用されただけ」
 という共犯である。
 もし、彼女が共犯だったとして、そこに脅迫があったのか、それとも、彼女の意志で、共犯に甘んじたのかは分からない。
 しかも、彼女が共犯に及んだとして、犯人とはどういう関係だったのか、共犯となりうる何かの理由があるとするならば、
「お互いの利害関係が一致している」
 ということであろう。
 犯行を行う上で。しかも殺人事件ともなると、共犯との利害関係の一致というのは、どういうことになるのだろう?
 金銭的に人が死ぬことで、お互いに利益を得るという考え、あるいは、共通の恨みを持っていて、それを果たすために、共犯となったという考え。
 少なくとも共犯者を作るということは、一長一短あるに違いない。
「共犯者がいなければ、いくら恨みを持っていたり、金銭欲があったとしても、一人では精神的にも、行動を起こして、捕まらないようにしようという意識があったとしても、さすがに躊躇するだろうが、誰かと一緒であれば、勇気が急に湧いてくるということもあるだろう」
 と思うのだった。
 そういう意味で、事件の犯人を、共犯者(共犯者から見れば主犯)に対して、
「あわやくば、自分が危なくなったら、この共犯にすべての罪を擦り付けて、自分だけは助かろう」
 という思いを抱いているやつもいるかも知れない。
 犯行を思いついて、犯行計画を練っている時が一番犯行に対して前のめりなのではないだろうか。実際の犯行時に一番後悔の念というものは襲ってくるというもので、その後悔の念は、次第に時間が経過するにつれて、薄れていくものではないだろうか。
 実際に犯行に成功してしまうと、人情として、
「このまま捕まりたくない」
 という思いが芽生えてくるだろう。
 最初は目的完遂のために邁進していたので、
「俺なんか、どうなってもいい」
 と思っていたが、実際に目的を達成してしまうと、今度はさらに先の目的を失ってしまう。
 何と言っても、目的を果たしてしまったということは、
「自分は犯罪者になってしまったのだ」
 という思いを強く抱き、そこでやっと我に返ることができたのだろうが、そう思うと、
「取り返しのつかないことをしてしまった」
 としか考えられなくなってしまう。
 すると、それまで考えたこともなかった。
「助かりたい」
 という思いが芽生えてくるだろう。
 最初に前のめりになって組み立ててきた犯行計画は、犯行後のことは考えていない。目的である相手への恨みを晴らすことを犯行計画のすべてにおいていたので、自分が助かろうなどという思いは一ミリもなかったかも知れない。
「そんなことを考えていれば、そもそも目的を達成することなどできず、中途半端な形で最悪な場合、自分だけが何かの罪に問われることで終わってしまうということも考えられるだろう」
 とも言えるのだ。
 そうなると、自分が助かるという思いを抱かないということは、
「非情になれる」
 ということを意味していた。
 犯行において難しいところは、
「犯行計画を立てたとしても、達成までの間に最初のモチベーションを持ち続けることができるのか?」
 ということであった。
 いくら相手に恨みがあったとしても、モチベーションが少しでも下がれば、我に返ってしまう可能性は高いだろう。一度我に返ってしまうと、犯行計画が頭の中から飛んでしまう可能性がある。自分では、
「絶対に忘れることはない」
 と思っているのは当たり前のことで、我に返るなど思ってもいないので、忘れてしまうことは最初から計算にはない。
 当然、感情をメモに残すようなこともないだろう。
 もし、感情をメモに残していたとしても、そのメモを見て、自分のその時の感情がよみがえってくるかが分からないので、そうなると、メモの内容も分かるはずもなかった。
 何しろ残したメモには、箇条書きで何かの暗号のような形になっているからだろう。
 誰かに見られると困るという意識もあれば、考えたことをすぐに忘れてしまうという感情もあるようで、何をどう解釈すればいいのか、分からなくなるからだろう。
「彼女は一体どっちなのだろう?」
 と考えた。
 共犯だと考えると、彼女はどうして、こんな計画に加担することになったのか?
 何か脅迫を受けて協力する羽目になったのだとすると、あの時に彼女をなぜ殺さなかったのか? 殺しもせずにあそこに放置しておいたとはいえ、彼女が記憶を失っているということまで、犯行計画の中にあったなどということはありえない。
 だとすると、なぜ殺さなかったのか。意識を朦朧とさせたのであれば、それに乗じて、彼女をどこかに連れ去って、そこで人知れずに始末することもできただろう。
 そして自殺に見せかけ、彼女にすべての罪をなすりつけることもできたかも知れない。
 犯行計画をそれなりに練っているのであれば、彼女を共犯に使ったのであれば、そっちの方がしっくりくる。
「最初はそのつもりだったが、何かのアクシデントがあったりして、計画がとん挫してしまった?」
 とも考えられたが、それも無理があるような気がする。
 もしそうであるならば、さっきの防犯カメラに映ったあれはなんだったのだろう?
 ただ、あの場面でスマホに連絡があったようだ。着信履歴を見てかけなおしたが、欲見ると、公衆電話からだったので、かけなおすことができなかったというのが、真相だったのかも知れない。
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次