小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

臭いのらせん階段

INDEX|16ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

「今の世の中一体どうなってるんだっていうんだ」」
 と愚痴をこぼすことが多くなった柏木刑事だが、そんな柏木刑事を見ながら、
―ー柏木さんがあれだけ愚痴をこぼしている世の中なんだから、本当にどうしようもない連中が蔓延っている時代なんだろうな――
 と、漠然と考えているのが、隅田刑事だった。
 特に最近の柏木刑事は、犯罪を犯した相手であれば、自分たちが解決に向けて動くことができるが、明らかに悪だと分かっていても手を出すことができない大きな組織に対して憤りを感じているようだ。
 もっとも、これは柏木刑事に限ったことではなく、今は国民のほとんどが感じていることではないだろうか。
 というのは、相手が政治家であり、その組織が政府であったり、国会であったりする。とても太刀打ちできる相手ではない。
 今までであれば、指示できない連中がたくさんいても、指示する連中が盾になって、政府を守るというような構図もあったのだが、今の政府を支持しているのは、国民ではない。昔からの与党の、「信者」と呼ばれるような連中で、彼らをとても、一般国民と一緒にしてはいけない。
 信者という言葉のとおり、政府というカルト教団に身も心も捧げたような連中で、そこには闇しかない。
 だから、政府を擁護する一般国民は存在しない。しかしそれでも、やつらが、政府としてのさばっているのは、
「他にマシな人がいない」
 というだけのことである。
 他の人にやらせるのが怖い」
 というだけのプラス思考がまったくないこの世情において、悪くなるという事態を少しでも遅らせるという応急処置的な政治しかできないような世の中に、一体いつからなったというのだろうか?
 政府が方針を示す時でもそうだ。方針を書いた原稿を淡々と首相が読み上げるだけで、しかも、原稿を読むのだから、下手くそな代弁であり、しかも、心が籠っていない棒読みになってしまう。当然読み間違いや、読み飛ばしなども頻繁で、その内容には、方針に対しての理由や決定に際しての過程がまったく記されていないのだ。
 そんな状態で、誰が首相のいうことなど訊くというのだろう。同じ答弁に終始するだけで、説得力などあったものではない。勧善懲悪の柏木刑事には、とても承服できるものではない。
 口に出すことは絶対にできないが、
「あんなやつ、くたばってしまえばいいんだ」
 というくらいの怒りに震えているのではないだろうか。
 そういう意味で、反政府組織のような連中も許せない。それは政府を擁護しているわけではなく、反政府というほど、政府が強いわけではなく、目標を失った組織が次に目をつけるのが、何の罪もない一般市民である。
 そのような事態にしてしまったのは、弱体化した政府にも責任がある。そう思うと、愚痴をこぼしたくなる連中が爆発的に増えたというのも分からなくもない。
 柏木刑事の愚痴が少しでも少なくなるような、豪圧ではない国民のためになる、強い政府は、今後できるのだろうか?

             防犯カメラの映像

、K警察の方で、現場検証が行われたのが、それから三日してのことだった。被害者であり、生き残りはしたが、記憶を失っているということで、本来は現場検証に立ち会わせるのは難しいところなのだろうが、被害者の敏子自身が、
「現場検証をすることで少しでも思い出せることがあるとすれば、協力したいと思います。でも、いつ頭が痛くなるか分かりませんので、その時はすみませんが、私抜きで続けてもらえるということがお約束できるのであれば、協力させていただきたいと思います」
 というので、この現場検証が成立したのだった。
 担当医も一緒に待機しているということで、ドクターストップという事態も起こりうるということであった。
 さすがに部屋の中には元々あったシンナーの臭いを充満させるわけにはいかないので、シンナーの臭いは封印していた。
 そして、少しずつ記憶を取り戻しながら、調書とを比較して、その時の様子を再現していく。
 まず、この部屋、つまり、廃墟に近い埃が充満しているようなこんなところであったが、なぜか中央に長机が二つ置かれていた。
「これがあるのに、どうして、犯人はここで簡単に刺殺さなかったのだろう?」
 という思いがあったが、その後の状況を見て、
「犯人は、被害者を磔のようにして公開処刑を行ったのではないか?」
 という考えから、この長机が殺害に利用されなかったわけが分かった気がしたのだ。
 そして、もう一つ疑問だったのが、この部屋には、防犯カメラが一つだけ設置されていた。
 管理人に聞けば、
「この場所は、廃墟ではあるが、これから改装予定が入っているので、何かあってはいけないということで、防犯カメラを一台だけ残しておいたんですよ」
 ということだった。
 防犯カメラの映像も見てみたが、犯行が行われた場所は死角になっていて、写っていない。元々ここには、四台の防犯カメラが設置してあって、四台も本当はいらないのだが、途中途中で被って写っている場所があり、
「角度によって見え方が違うので、窃盗や損壊などの被害にあった時、犯人を特定するのに役立つだろうと思って、設置しています」
 と言っていたが、それだけの意識があれば、この場所を再度作り替えてマンションにしても、防犯に関しては問題ないだろうと、柏木刑事は感じていた。
 防犯カメラを見ていると、最初は、途中、どうやら目隠しをされていたようで、それが見えるようになると、そこには敏子が仰向けになって眠っていた。そして、その時は麻酔を嗅がされて眠っているようだった。
 どうやら、目隠しをしていたということは、防犯カメラの存在には気づいていて壊さなかったということは、途中から写る光景を、わざと残して、我々に見せつけようという魂胆なのに違いない。
 その横の長机には、誰もおらず。そこには、スマホが一つ放置されていた。
 それを見た桜井刑事が、
「あれ? あんなところにスマホなんかあったかな?」
 と呟いて、死体発見当時のことを思い出していたが、
――確か、スマホがあったのは、気を失っている女性の頭の上にあったんじゃなかっただろうか?
 ということであった。
 そのスマホは、今ここに置かれているが、スマホの解析では、誰のスマホなのか分からず、発着信履歴を見ると、ちょうど、防犯カメラが回り始めてから少しして、スマホに着信があったことになっている。
 何も知らずに気を失っている敏子だったが、音声を拾っていない防犯カメラには、何も動いていない静止画でしかなかったのだ。
 そのあとしばらくは、早送りで済ませていた。実際に何も起こっておらず、敏子はずっと眠っていた。もうその時は目隠しはしていなかった。縛られてるわけでもなく。ただ気を失った、そこに眠っているだけだった。
 それからどれくらいがたったのだろうか? スマホに着信があったと思われる時間から、十五分くらい経ってからだっただろうか。敏子が目を覚ましていた。ただ、麻酔薬による眠りだっただけに、目が覚めた時は自然な目覚めではなく。頭を押さえているのが分かる。よく見ると、顔をしかめているようだ。
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次