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臭いのらせん階段

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「ただですね。彼女は被害者と面識があるわけでしょう? 会社で一緒に仕事をしている仲であり、相手が考えていることもある程度くらいまで分かるくらいの関係性だとすると、そんな彼女を共犯者に引き入れるというのは、普通に考えて難しいのではないでしょうか?」
 と、柏木刑事がいうと、
「じゃあ、彼女は何のためにあそこで記憶を失ってまで、気絶させられていたというのかな? 犯人にとってのアリバイ作りなのか、それとも、彼女でないといけなかった何かの理由があったということだろうか?」
 と、桜井刑事は独り言のように呟いた。
「じゃあ、彼女は共犯者などではなく、犯人にただ利用されただけと考えるのはどうなんでしょうね? 記憶を失うくらいにショッキングなことがあったということであれば、彼女を共犯者だと考えるよりも、むしろ、彼女も被害者の一人だったと考える方が自然だし、犯罪を犯していれば、彼女が何を喋るか分からないわけなので、気を失わせたのであれば、そのまま拉致する方がいいのではないかと思うんですよ」
 と、柏木刑事が言った。
「今度の事件において、今までの登場人物の中に、犯人っているのだろうか?」
 と、柏木刑事が言った。
「事件って、進んでいくうちに、容疑者が増えてきて、出来ったところから誰が犯人かをふるいにかけているわけで、今回は、まだそのふるいを使う全然前の状態ではないかと思ってですね」
 と、隅田刑事が言った。
「確かにまだまだ分からない部分が多いから、これから犯人と思える人が何人も登場するということになるんだろうね」
 と桜井刑事が言った。
「私だって刑事の端くれ。それくらいのことは分かっているつもりだったのに、きっと、脇の部分が少しずつ埋まってきていることで、ある程度のところで事件の輪郭が見えてきたような錯覚を帯びてきたから、そんな風に思ったのかも知れない」
 と、柏木刑事も反省するかのようにそう呟いた。
「被害者と一緒に発見された、白鳥さんという女性は、どうなりました?」
 と桜井刑事が聞くと、
「彼女は、あれから救急車を呼んで、私が一緒に病院に付き添いました。外傷としては、目立ったものはなかったんですが、何しろ、死体の近くにいたということもあって、犯人に何かされていないかということで、一応精密検査を受けて、少し入院してもらうことにしているということです」
 と、隅田刑事が言った。
「入院に越したことはないと思うけど、そんなに容体が悪かったのかな?」
 と桜井刑事が聞くと、
「そんなことはないんですが、何しろ一部とはいえ、記憶を失っているわけですから、医者とすれば、精神的なショックがあったのではないかということで、このまま帰すのは危険だと考えたようですね」
 と、隅田刑事は言った。
 隅田刑事も、以前、捜査の途中で犯人に頭を殴られて、一時的な記憶喪失に至ったことがあった。
 その時、記憶を取り戻そうと頭を使った時、強烈な頭痛がしたのを思い出した。
「あの時、このまま、何かを少しでも考えようとすると、ずっと頭痛に苛まれてしまうんじゃないかと思い、記憶を失くしたことよりも、そっちの方が怖くて、このまま刑事を続けられなくなればどうしようって思ったくらいなんです」
 と言っていたのを、柏木刑事は思い出した。
 警察官の仕事は、犯人が誰だか分かって、犯人の身柄を確保するところまでは一つの仕事である、そのためには、必死で逃げようとしている死に物狂いの犯人との格闘も、当然ありうることであり、その際に負傷することも、最悪、死んでしまうこともないとは言えない。自分ではなかったが、一緒に捜査をしていた隅田刑事に、自分がいるにも関わらず助けられなかったことを、今でも柏木刑事は後悔している。
 それだけ、柏木刑事は部下に対して義理堅く、自分の中では勧善懲悪の精神が燃え滾っていると言ってもいいだろう。
「それにしても、今度の殺人事件に、被害者が絡んでいたという詐欺集団が、何か関わっているのか、関わっているのだとすれば、どこで繋がってくるというのか? さらに、被害者ともう一人の被害者と言ってもいい、白鳥さんとの間に、会社の同僚という以外で何か関係があるというのか? そのあたりから事件を見ていく必要はあるんじゃないかな?」
 と、桜井刑事は言った。
「そうですね。そして今のところカギになるのではないかと思われるのが、白鳥さんの失ってしまった記憶ですよね。その記憶が、犯人に殴られた時のショックで失った記憶なのか、それとも自分が見た光景にショックを受けたか何かで、自分から記憶を失ってしまったということなのかによって、思い出す記憶も違ってくるのではないかと思うんですお。どこまで回復できているか、それもカギになると思いますね」
 と、柏木刑事が言った。
 確かに、記憶というのは、失うにはそれなりの理由があるのだが、失った経緯によって、思い出せる部分も変わってくる。
 実際にある程度思い出したとして、それが途中経過なのか、それとも、思い出せるのが、そこで限界なのかということは、きっと本人にも分からないだろう。
 本人に分からないことをまわりの人に分かるはずもない。その時の本人としては。
――もうこれ以上思い出すことなんかできない――
 と感じているのだろうか?
 そのあたりにあるのは、個人差なのか、それとも、皆共通したものなのだろうか?
 柏木刑事はそれを個人差だと思っているようだが、桜井刑事は、逆に皆共通したもののように感じているのだった。
 二人ともとても優秀な刑事なのだが、柏木刑事がどうしても桜井刑事に追いつけない理由がそのあたりに隠されているような気がする。
 とにかく、勧善懲悪というれっきとしたビジョンが見えていて、そこに対して自分の見解を広げて行こうとする柏木刑事に、全体的にまわりを見ることで、自分が警察機構の一部であることを理解し、さらに高みを目指そうとしているのが、桜井刑事である。
 出世することと、警察官としての意識をしっかり持っているということとは、両立できないような気がしていた。
 出世できていないが、柏木刑事のような考え方は、部下から慕われ、上司からは、うまく利用されがちになるだろう。
 実際に、
「自分たちが目標とする上司は誰ですか?」
 と聞かれた時に、
「柏木刑事です」
 と答える部下が圧倒的に多い。
 もちろん、桜井刑事を推す人もいるのだが、彼らが推す理由としては、
「いつも冷静沈着で、論理に基づいた捜査のできる人であり、全体を見渡して、まわりをまとめることにかけては、唯一無二の存在だと思うんです。事件の解決には、桜井刑事のような人がいなければダメだと思うからですね」
 という意見が多かった。
「今回の事件に関わっているかどうか分からないが、例の詐欺集団が殺人の動機になる何かを知っているかも知れない。そのあたりを中心に、捜査することも必要な気がするんだよな」
 と、柏木刑事は言った。
 さすがに勧善懲悪の精神からか、柏木刑事は、このような非人道的なくせに、なかなか撲滅に至らない連中に対して怒りを覚えている。それは、ヤクザに対して感じている思いと変わらないくらいだった。
 特に最近では、
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次