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臭いのらせん階段

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「ということは、どう解釈すればいいんだい?」
 と柏木刑事が聞くと、
「ハッキリとは分かりませんが、彼らの中に、警察に通報しているような人がいるのは確かだろうと思うんです。でも、それは別に警察に協力しようとか、犯行グループを欺いてやろうとかいうそういう思惑ではないような気がするんですよ」
「じゃあ、どういう思惑だと?」
 と柏木刑事が聞いた。
「僕の考えでは、犯罪グループに入ってはいるけど、その人は他の連中とは違う目的で入っていると思うんです。何かを探るためなのかなのでしょうが、そうなると、密かに行動している連中にとって、決して余計な犯行は困るはずなんですよね。だから、考えられることとしては、両極端な二つの考え方。つまり、これが彼らにとっての本当の目的であり、まだ序曲かも知れないと思うと、ここから本当の何かが始まるということですね。そして、これ以降何も起こらないのであれば、彼らの目的は別にあるとして、決して表に出ようとはしないと思うんですよ。そういう意味で、想像を巡らせても、正解が出るには、場面が一歩でも二歩でも進まないと出てこないと思えるんです」
 と、隅田刑事は言った。
「ところで、やつらの詐欺の理念というか、理想とするものって何なんだろうね? 昔であれば、スリをするような連中にはそれなりにモラルがあったりしたものだけど、詐欺グループのように組織化してしまうと、よほど統制が取れていないと、うまくいくものもうまくいかないですよね。殺人などの犯罪だって、計画的にやろうと思えば、共犯者が多い方が実行には移しやすいが、発覚する可能性もそれだけ増えることになる。共犯者を増やすというのは、リスクを伴うということにも繋がると言ってもいいのではないでしょうか?」
 と、柏木刑事が言った。
「そもそも詐欺というのは、単独で行うということは難しい犯罪だと思います。不可能と言ってもいいかも知れない。詐欺というのは、基本的に、騙している相手に対して、自分をいかに信じ込ませるかということが大切だと思うんですよ。そうじゃないと、相手が騙されてはくれませんからね。詐欺というのは、相手に自分を信用させるところから始まります。誰かを信じさせるのに一番有効な方法は、自分たち以外の利害関係のない、第三者に認めてもらえれば、一番効果があるわけですよね? だから、そのさくらになるような誰かを仲間に引き入れる必要がある。そういう意味で、単独犯というのはあり得ないということなんですよ」
 と、隅田刑事が言った。
「隅田くんは、やけに詐欺犯罪に対して詳しいじゃないか」
 と、柏木刑事に皮肉っぽく言われた。
「私の警察学校時代からの友達が、詐欺グループの捜査を結構しているので、よく話を聞いていたんです。だから、気持ちはよく分かっているつもりなんですよ」
 と言った。
「なるほど、それで納得したよ。君が真っ先にこの犯罪グループのことを調べたのも、指紋から割り出された前科を見て、すぐに考えたことだったんだね?」
 と柏木刑事に言われて、
「ええ、まあ、そんなところです」
 と、照れ臭そうに言った。
 ただ、柏木刑事としては、これを隅田の手柄だとは思っていない。むしろ、隅田刑事がどうしてここまで詐欺グループに対して前のめりというか、積極的なのかが不思議であった。
「ところで桜井刑事。この事件の発覚は、通報があったからの出動ということですよね?」
 と柏木刑事に聞かれて、
「ああ、そうだよ」
 と答えた桜井刑事に対して、
「その通報って、どうしてなんでしょうね? 鑑識の話では、犯行から三時間後くらいだったというわけですよね。その空白の三時間というのは何なのでしょうね? 通報者が何も知らずにやってきたというのが、ちょうどその時間だったということでしょうか? だとして、本人に何か後ろめたいことでもなければ、通報者はその場にとどまるはずですよね? しかも、こんな普段誰もこないようなところではないですか。もし、通報者に時間がないのだとすれば、通報を断念してもいいわけですよね。わざわざ通報していなくなれば、犯人としての第一容疑者になってしまうということが分からなかったんですかね?」
 と言われ、
「電話をしたのが、公衆電話ということが気になるんだ。逆探知されないだとか、ケイタイだと番号から位置情報が分かるようなことを警察にされてしまうと、厄介ですからね。でも、警察がそんな個人情報の保護に真っ向から歯向かうようなことをするとは思えないので、わざわざ公衆電話にしたということは、身元がバレないということだけを意識したからではないですかね」
 と、桜井刑事は答えた。
「でも、もう一つ気になるのは、そばに倒れている女性がいるのだから、そのまま放っておくというのもおかしな気がするんですよ。生きているのが分かっていたのだったら、救急車も一緒に呼ぶはずだと思うんですよね。それをしなかったということは、彼が通報した時には、彼女はあの場所に放置されていたわけではないということなんでしょうね」
 今度は、隅田刑事がそういった。
 隅田刑事は時々、結構的を得たような話をすることがある。今回も、
「通報があった時、その場に女性が倒れていたわけではないのではないか?」
 という考えは、柏木刑事も桜井刑事もおぼろげながらに持っていた。
 しかし、決定的な意見が通っているわけでもないので、頭の片隅に置いておく程度しかないのかと思っていたが、隅田刑事の助言ということもあり、その発想はかなりの信憑性を孕んでいるように思えてならかかったのだ。
「じゃあ、彼女があの場所で気を失って倒れていたということはどういうことになるんでしょうか? 犯人にまずいことを見られたということであれば、一人殺しているんだから、彼女を生かしておくというのは命取りになるはず。すでに犯人が目的を達成していて。、自分はもうどうなってもいいという考えでいるのか、それとも、他の犯罪とは別に、彼女に対しては恨みも何もないので、殺すに忍びないというのか、それとも彼女のことが好きで、殺してしまうなど、どうしてもできないという考えがあるからなのか、この三つのうちのとれかではないかんでしょうかね?」
 と、柏木刑事が言った。
「ということは、柏木刑事の考えとして、白鳥さんが犯人であるということは、百パーセントないと言いたいようだね」
 と桜井刑事に言われて、
「いえいえ、そこまでは言っていないです。ただ、可能性としては、限りなくゼロに近いと思っています。ただ、主犯ではないという意味で、さっき共犯者の存在を示唆したではないですか。共犯者という意味では、彼女こそ一番怪しいと言えるのではないでしょうか?」
 と、柏木刑事は答えた。
「なるほど、共犯者だから、主犯に誘導されて犯罪に加担したが、先ほども言ったように、共犯者の存在がリスクになることがあるわけなので、共犯者をいかに処分するかということが問題になる。そういう意味で、彼女が共犯者ではないという視点を警察に植え付けておいた上で、共犯者を再度どうするかということを見極めることができるのではないかと言えるのではないですかね」
 と、桜井刑事が言った。
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次