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臭いのらせん階段

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「そう考えると、倒れていた女性が殺されなかった理由も分かるというものですよね。ただそうなると、彼女に対しての復讐のようなものではなく、彼女に見せた理由とは別に、本当に脅迫したい人がいて、その人のために、想像しているような公開処刑のような写真を撮ったのだとすれば、その写真を送りつけて、恐怖のどん底に叩きつけるという復讐に似たものが考えられますね。その目的が金銭的な脅迫なのか、それとも、相手を殺そうという意志でも持っているのか。私には、ただの金銭的な要求には思えないんですよ。もしそうであるならば、今回の犯罪が明るみに出る必要があるかということですよね。写真さえ撮ってしまえば、自分たちが怪しまれないようにすればいいわけだから、どこかに埋めるとかして、犯行をごまかせばいい。そうすれば、警察にウロウロされることもないし。犯行がスムーズにできるというものですよね」
 と、柏木刑事が言った。
「じゃあ、柏木君は、この死体を発見させるのも、犯人あるいは犯人グループにとっては、計算ずくということだと言いたいのかな?」
 と桜井刑事は言った。
「そこまで断言はできませんが、死体を敢えて隠すことはないと思っていたんだと思いますよ」
 と、いって、柏木刑事は頷いた。
「ところで、被害者は、免許証の通り、山岸という男だったんですか?」
 と、柏木刑事が続けた。
「ああ、それは間違いないだろう。実際に隣で気絶していた白鳥敏子という女性が証言していたからね」
 というと、
「それなんですが、被害者の男の指紋を照合してみると、前科者の中にこの指紋と該当する人物が出てきて、やはり名前は山岸という男でした」
 と、隅田刑事が報告した。
「ん? この被害者には前科があったのかい?」
 とビックリしたように、柏木刑事が答えた。
「ええ、詐欺のようなことをしていたんです。受け子のような感じなんですが、何度かやっているので、前科になったようですね。その時の調書を見たんですが、内容としては、最近よくある詐欺の一種で、よく分かっていない老人に電話をかけて、お金を用意させて、それを受け取りにいく役目だったんですね。最初は、分からずに受け子をやっていたということでしたが、さすがに二度目は、許されることではなかったようです。だから、前科になったんでしょうが、でも、それから二度ほど捕まったようで、さすがに三度目は、ただの受け子ではないということで、マークされるようになったそうです」
 と隅田刑事は言った。

             詐欺事件

「確かに、そこまくれば、明らかに悪質だということだよな。でも、一度見つかったのに、そう何度も同じやつを受け子で使うというのも変だよな」
 と柏木刑事は言ったが、
「それはそうかも知れないが、ひょっとすると、やつは受け子というのがカモフラージュで、実は詐欺グルー王の中でもスタッフのような役割だったのかも知れないな」
 と、桜井刑事がいうと、
「なるほど、受け子の元締めのような感じだとすると、分からなくもないが、そう考えると、その組織というのは、それなりに大きな組織ではないかとも思えてくるんですよね。そういう意味では、詐欺グループの多様化であったり、いろいろな考え方として、やつらもいかに警察の目を逃れて、大きな仕事ができるかということを目論んでいるということになるんでしょうね」
 と、柏木刑事は、言いながら、頭を掻いていた。
「こうやって、被害者にならなければ、やつが詐欺グループに加担していたことも分からない。だが、そんなやつの死体を隠すことなく放置しておいたということは、やつの身元がバレて、それで、警察に干渉されてもそれでもいいと思ったということは、どういうことなんだろうね。死体を発見させる理由はさっき言っていたように、誰かに恐怖を与えるという意味で、脅迫が絡んでいるということでしょうかね?」
 と桜井刑事がいうと、
「すでに、今、誰かが脅迫を受けているのかも知れないし、死体が発見されて、ニュースになってから、脅迫を受けることになるのかも知れないが、犯人の動機は、やはり詐欺を受けたことへの復讐が一番考えられるのではないでしょうね? 少なくとも一人殺されているのは確かなんだ。殺人事件である以上。捜査に妥協はないのであって、警察はそう簡単にあきらめることなどないことを、犯人も分かっているんじゃないでしょうか?」
 と、柏木刑事は言った。
「なるほど、そういうことかも知れないな。ところで、被害者が売り子をやっていたという詐欺グループの最近の動向はどうなんだい?」
 と聞かれて答えたのは、隅田刑事だった。
「それが、今は結構大人しくしているということです。以前は振り込め詐欺のようなことをやっていたようなんですが、一度捕まってから、しばらく大人しくしていたんですが、性懲りもなく、またやって捕まっているんですよね。調書によると、しばらく何もアクションを起こしていなかった時期は、本当に大人しくしていたようで、彼らが関わっているような事件は、どこからも発生していないということでした」
 と、報告を入れた。
「うーん、そうなると、少し気になることがあるな」
 と、桜井刑事が言った。
「どういうことですか?」
「一度大きなヤマを踏んで、それに失敗したから、逮捕されて、取り調べを行ったから、調書が残ってるんだよな? その後、しばらく静かにしていて、実際に彼らの関わっているような事件はなかった。そして、ほとぼりが冷めたとでも思ったのか、別の詐欺事件を起こして、結局逮捕されることになってしまった。ということは、やつらって、検挙率は百パーセントということになるわけだよな? ずっと失敗している。それでも、詐欺を繰り返すというのは、どういう心境なんだろうな」
 というのが桜井刑事の疑問だった。
「なるほど、そうかも知れませんね。でも、それは我々警察の立場から見たことであって、やつらの側から考えると、ここまで間抜けに見えてしまうことを繰り返すというのもおかしなことですよね? ひょっとすると、詐欺グループの中に、内偵者がいるのではないのですかね? スパイのような人がいて、逐一警察に情報を流しているようなですね。そう考えると、事件が簡単に明るみに出るというのも分かる気がするんですよね」
 と、柏木刑事が言った。
「うん、それは十分にありえることなのかも知れない。だが、その内偵者というのは、警察機関の人間なのか、犯罪組織側での、同業他社的なものなのかは、定かではないんだろう?」
 と桜井刑事がいうと、今度は横から隅田刑事が口を挟んだ。
「ええ、確かに、警察内部での内偵者がいたとしても、彼が何か行動を起こすということはないと思います。あくまでも、彼は犯罪グループを検挙するための、証拠を探っているわけで、警察が自ら組織に対して何かをするということはありえません。だからこその内偵なのであって、内部から、捕まるように手引きするというのは、よほどの動かぬ証拠が揃っていない限り、警察の逮捕に内偵者が絡むということはないでしょうね? そんなことをして、せっかくの証拠が証拠でなくなったりしたら、裁判でひっくり返されたりしますからね」
 というのだった。
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次