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臭いのらせん階段

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 接着剤にも種類があって一概には言えないが、プラモデルなどに使用される接着剤には、シンナーのような臭いがあるようで、その臭いは、かなりきついものであるが、嗅覚を擽るどころか、嗅覚をマヒさせるほどの臭いだけではなく、目が痛くなったり、喉が痛く鳴ったりする場合がある。
 シンナーには、中枢神経麻痺作用があり、酔っ払い状態、いわるる、
「トランス状態」
 であったり、
「ラリってしまう」
 などとも言われたりしていた。
 シンナーに含まれる主要成分は、トルエンである。中毒性があることで、一度吸い始めると、止まられなくなるという、麻薬中速性を帯びている。つまり、吸い続けると、依存症になってしまい、やめられなくなるということだ。これは麻薬と同じで、まだ、酒に対しての依存症と似ているとも言われている。
 今ではあまり見なくなったが、昭和の頃の不良というと、中学時代は、
「シンナーを吸っている」
 というイメージが強い。
 いわゆる、
「シンナー遊び」
 と呼ばれるものが主流で、ビニール袋の中に、シンナーを入れて、それを口に当てて、吸引する。それを俗に、
「アンパン」
 と言われていたが、この名称は、袋からシンナーw吸っている姿が、アンパンを食べているのに似ていると言われているからだということらしいが、どうも想像ができないのは自分だけではないかと、思っている人も多いような気がする。
 昔の不良というと、
「ヤンキー」
 などと呼ばれていたが、それも、
「周囲を威嚇するような強そうな恰好をして、仲間から一目置かれたい」
 という意識の表れだったという。
 元々の、北部アメリカ人を刺す言葉との違いはアクセントにあり、北部アメリカ人のアクセントは最初にあるのに対し、不良の場合は、後ろにある。これはきっと、不良をそう言い始めた元祖が関西になったことで、関西人が喋った言葉から来ているのではないだろうか。
 すでに、昭和五十年頃からその言葉があったというから、最近のものだと思っていた人には長いと感じ、昔からあったと思っている人には中途半端な出現時期と感じるだろう。
 その頃の不良の名称というと、
「ツッパリ」
 という言葉が主流だった。
 かつてのロックンロールブームにおいて、その言葉が楽曲になっていたので、広く知られているとすれば、
「ツッパリ」
 の方かも知れない。
 ちなみに、ヤンキーという言葉を使ったコミックソングもあったが、知名度からすれば、まだまだ一部の人だけだったのかも知れない。
 なぜ、敏子がこんなことを考えたのかというと、
「気が付いたら、目が覚めていた」
 と思ったからだ。
 しかも気付いたその場所は自分の部屋のベッドではない。暗いどこかの建物の中だった。
――建物、これが?
 と感じたのは、その場所がすでに人が住める場所ではなくなっている、廃墟と言ってもいい場所だからである。
 以前は、マンションだったのだろうが、老朽化からなのか、それとも他の事情による建て替えなのか分からないが、真っ暗なその場所にカンテラのような明かりがついていて、その明かりはかなりの明るさを感じさせた。一種のスポットライトと言ってもいいだろう。
 その場所には、埃が舞っていた。真っ暗なところにスポットライトが当たっているのだから、当然埃が舞っているように見えるのも無理のないことであるが、明らかに、埃の臭いも感じられた。
 目が覚めるにしたがって、頭痛が激しくなってくる。意識が戻ってくるにしたがって、戻ってくるはずの記憶が何かによって妨げられているように、意識が遠のいていくのを感じた。
「うーん」
 と言って、頭を押さえて苦しんでいると、
「大丈夫ですか?」
 と、誰か男の人の声が聞こえた。
 その人を確認しようと思ったが、その人の後ろからスポットライトが当たっている形になったので、後光が差しているようで、顔を確認することができなかった。
「ええ、大丈夫です。ここは?」
 と言って言葉をとぎると、いや、言葉を途切ったわけではなく、言葉を言おうとすると、埃が喉に入り込んでせき込んでしまったようだ。
 またしても、その男性が、
「大丈夫ですか?」
 と労ってくれたので、
「はい」
 と答えるだけだった。
「あなたは、意識不明でここで倒れていたんですが、記憶はありますか?」
 とその男性は言った。
「あの、すみません。私は、どうしてここにいるんですか? そして、あなたは誰なんですか?」
 と聞かれた敏子は、
「覚えておられないんですか?」
 と言われたので、
「ええ、一向に」
 と答えたが、正直、意識はだいぶ復活してきていて、記憶もある程度よみがえってきてはいたが、なぜここにいるのかが、正直分からなかった。
「さっき夢を見ていたような気がしたんです」
 と、記憶がないかわりに、夢の内容を話してみた。
「何か強烈な臭いがして、気を失っていくのが感じられたんですが、今から思えば、シンナーの臭いだったような気がするんです。ちょうど、会社の人と、趣味の話になって、その人がプラモデル作りが趣味だと言った時、接着剤に臭いとともに、シンナーの臭いを嗅いだというシチュエーションだったような気がしたんですが、気が付けばそれは夢の中のことで、目が覚めるにしたがって、激しい頭痛に苛まれたんです。その時、目の前にあなたがいたわけで、これが今の自分を思い出せる、この場面での記憶なんです」
 と敏子は言った。
「じゃあ、あなたは、気を失うまでのことは覚えていないということですね?」
 と聞かれて、この男が一体何を聞きたいのかが分からず、少し苛立ってしまった。
「あなたは誰なんですか?」
 と再度きくと、
「ああ、これは失礼しました。私はK警察署の桜井というものです」
 というではないか?
「刑事さん? 刑事さんがどうしてここに?」
 と聞くと、また頭痛がしてきた。
 どうやら、何かを思い出そうとすると、頭痛を催すようだ。その時一緒に、吐き気も催すので、頭痛がさらに激しさを増す。
「まるで偏頭痛のような気がする」
 と、感じていたのだった。
「どうやら、まだ、意識が朦朧とされているようですね?」
 と言われて、どうやら、自分は知らないが、この刑事が知っていることの方が多いということに、苛立ちを感じている自分がいるようだった。
「ええ、何があったんですか?」
 と聞かれた桜井刑事は、
「すべてをまともに話すと、頭が混乱するでしょうから、基本的に聞かれたことにお答えするようにしましょうね。まず、意識が朦朧としている理由は、あなたが、麻酔薬を嗅がされて、意識不明になっていたからなんですよ」
 と言われた。
「麻酔薬? 誰が何のために?」
 と聞くと、
作品名:臭いのらせん階段 作家名:森本晃次