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中途半端な作品

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「これはきっと、当たり前のことを当たり前にできない自分のせいなんだって、僕は思ってしまったんだけど、本当にそうなのかということが自分でも分からなくなってしまったんだと思います。だって小説なんて、確かに最終的には人に読んでもらうためのものなので体裁が必要だけど、基本的には自己満足でもいいと思っているんですよ。そもそも、最初にプロのような作品が書けるわけでもないですからね。でも、一つ一つの作品を丁寧に書いて行こうという思いがあるので、結局、妥協に思えてしまう。妥協を許さないということまでは思ってもいないくせに、書いていて、どこか情けない思いがしてくる。そこが小説を書けるかどうかの分かれ道の気がするんです」
 と聡子がいった。
「じゃあ、そんな情けなさを感じないようになれば、小説を書けるようになるんじゃないかと考えているんですか?」
 と笠原に聞かれて、
「というよりも、体裁ばかりを気にしていると、身動きが取れないようになるのではないかという思うがあるからなんでしょうね」
 と、聡子は言った。
「小説を書く上で、書けないと思っている人へのアドバイスということで、これは本に載っていたことなんですが、とにかくどんな話であっても、最後まで書きあげることが大切と書かれていたんですが、自分が昔書こうと思っていた時は、そのレベルにすら達していなかったということなんでしょうね」
 と笠原がいう。
「そうですね。私もそれは自分に対して感じました。だから、書ける書けない以前に、終わらせるだけの材料すらなかった。もっと言えば、小説を書く姿勢すらできていなかったということではなかったんでしょうか?」
 と、聡子は言った。
「小説を書く時って、孤独じゃないですか。そもそも一人でコツコツとこなす趣味というのは孤独なものなんでしょうけど。でも、その孤独な時間、自分の世界に入り込んで、妄想のようなものを抱いていると、時間が経つのが早かったりしてですね。僕はそのあっという間に過ぎる時間こそに、小説を書くパワーが隠されているんじゃないかって思ったりするんですよ」
 と、笠原は言った。
「いいですね。私もその発想大好きなんですよ。小説に限らず、芸術はほとんどが一人の世界。その世界をまわりから見ていると、とても高貴に見えてくる。だから自分もやってみたいと思ったんですよ」
 と聡子がいうと、
「そういえば、僕が高校生の頃、友達が言っていたことなんですけど、彼が以前、どこかの湖畔の宿に家族で行った時、湖畔の脇にベンチああって、そこでキャンバスを立てて、本格的に絵を描いている人がいたそうなんです。格好も絵描きそのものだったので、さぞや有名な絵描きなのだろうと思って話しかけたそうなんですが、その人は自分は素人で、ただ恰好から入っているというらしいです。でも絵を見てみると相当上手に描けていて、プロと比較してもそん色がないと思ったらしいんですおね。そこで聞いた話としては、その人がいうのは、恰好がどうのこうのではなく、それをまわりがどう考えるかという発想とは別に、被写体が自分を見て、描かれていることに感情を持ってくれると、下手な自分でもうまく描けるような暗示をかけてくれるのではないかと考えたようなんです。本人は幼稚な考えだっていって笑っていたそうなんですが、それを聞いて、何と面白い発想なのかって思ったんですよね。それは、発想云々よりも、見る角度で、子供のような発想であっても、単純に子供で終わらないような感じですね。その友達はそれから、自分でも絵を描くようになったんですよね。今では僕が見ても、なかなかだと思えるくらいになっているんですよ」
 と、笠原はいうのだった。
「興味深いお話ですね。被写体が反応してくれるという発想はさすがにないですね。でも、小説だって、妄想することで話が繋がるんだから、絵を描く人が妄想したっていいですよね」
 と聡子がいうので、
「そうなんですよ。その絵を描いている友達がこれも面白いことを言っていたんですが、絵描きというのは、目の前にあることを、忠実に描いているわけではないというんです。時には何もないのに、あるかのようい描いてみたり、逆に大胆に省略して見たりするのが絵画だというんですね。それを聞いた時、芸術って、妄想や目の前に見えているものだけを表現するだけでは、ダメなんだと思うようになったんです。だから、素直に書こうと考えると、数行で終わってしまうんですよ。考えてみれば、本屋の文庫本コーナーに並んでいる小説を見ると、そのほとんどが、一つの場面の描写を描くだけで、数行を費やしているじゃないですか。いろいろなことを書いているんだけど、よく読んでみると、描写の描き方に共通点があるんですよ。それは一人一人違うもので、それを見た時、法則はあるけど、皆それぞれ違うもので、それを個性というのではないかということを感じたんですよ」
 というのだ。
「私もそれは感じたことがあります。基本的にあまり本は読んでこなかったんですが、本を読んでいても好き嫌いが出てきたんですよ。好きな作家さんの作品は一気に一晩で読んでしまうほど、嵌って読めるんですが、自分に合わないと思う作家の作品は、それこそ、最初の章を読んだところで挫折するような感じですね」
 と聡子がいうので、
「聡子さんは、どんなジャンルが好きなんですか?」
 と訊かれて。
「私はミステリーやSF系が結構好きかな? 奇妙なお話なんかも好きかも知れないわ」
 と聡子は言った。
「僕もミステリーは好きですね。実は昔のミステリー黎明期の探偵小説と言われていた時代が好きですね」
 と笠原がいうと、
「探偵小説?」
 と聡子が聞き返してきた。
「ええ、大正末期から昭和初期くらいの作品で、ちょうど今から六年くらい前に、よく映画化されたりドラマ化された作品があったでしょう。有名な探偵が出てくる」
 というと、
「ああ、そういえばありましたね。私はその頃興味もなかったので、そういう探偵さんの小説が流行っているというのは話しだけ聞いていましたけどね」
 と聡子は言った。
「僕は今とまったく違うその時代背景が好きなんです。探偵小説であり、オカルトの要素も十分含まれていて、おどろおどろしいその雰囲気にのまれてしまって、それこそ一日で読破してしまうほどでしたね」
 と笠原がいうと、
「そんなに面白いんだったら、私も読んでみようかしら?」
 と聡子は言った。
「いいと思いますよ。僕の場合は、自分の知らない時代背景から繰り広げられる物語に感動するタイプなので、トリックとかよりも、ストーリー重視の見方をしますね。中学生くらいの頃だったら、きっとトリックや、残虐性に目を奪われて、派手な部分しか見ていなかったかも知れませんが、今では小説を時代背景を元に見ているので、小説を読みながら、歴史の勉強もするようにしています」
 というと、
「昭和初期が、もう歴史の一ページなんですね」
 と、彼女は少し寂しそうに言った。
「それはそうでしょう、戦争が終わったのが今から四十年くらい前、戦前は過去の歴史と言ってもいいんじゃないですか?」
 という。
作品名:中途半端な作品 作家名:森本晃次