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中途半端な作品

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 ただ、それには最初の五十分の間に、なるべく恐怖を増幅させないというのが、最低限の条件であった。つまりは、ラストの四十分が町歩で、最後の十分にまで差し掛かることができれば、後は走ってでも、ゴールを目指せばいいという考えであった。
「考えていることって、意外と繋がっているものなんだな」
 と感じたが、そんなことを考えるのも、大学生だという証拠なのかも知れない。
 まだ大学の一年生も始まったばかり、最初の五十分の中のまだ、十分くらいのところなのだろう。
 そんなことを考えながら、彼女に、
「もし、お時間があれば、昼食、ご一緒しませんか?」
 と誘ってみた。
 もちろんダメ元の覚悟を決めてであったが、彼女の方も、
「ええ、いいですわ。私もちょうど、お昼に行こうと思っていましたからね」
 というではないか。
 誘っておいて、実はどこに行くかなどというあてはなかった。ただ、今の時間であれば、どこでも多いと思われるので、大学の近くの喫茶店が密集している中でも、少し遠めにあるところを考えていたが、いざ、彼女が了解してくれたことで、意外と自分の知り合いが行く店にわざと行ってみるのも楽しいのではないかと思えた。
「皆に、見せびらかしてやりたい」
 という気持ちがむくむくと頭をもたげてきたのだ。
 あれだけ断られた時、ショックを感じないような覚悟を持っておこうと思っていたにも関わらず、いざ一緒に行ってくれるとなると、せっかくなので、いい気分に浸りたいと思ったのだ。
 今までであれば、
「ここで見せびらかしても、いずれ別れることになったら、今日のことが格好悪く感じられるのではないか?」
 と感じられ、引っ込み思案な性格が表に出てくるはずなのに、そうではないということは、彼女であれば、付き合うことになっても、いいように思えたのだ。
「いや、初めから付き合うということを前提にしなくても、ゆっくり仲良くなっていけばいいんだ。彼女のことだって、徐々に好きになってきたんじゃないか」
 と考えるようになったのだ。
 この日、誘ったお店は、意外と大学生には知られていないようだ。喫茶店のまわりには、ツタが絡まっていて、駐車場もそれほど広くなく、看板も申し訳程度にできているので、正直誰も喫茶店だとは思わないだろう。
 今の時代であれば、美容院などであれば、オシャレな店として評判になるかも知れないが、何しろネットもなく、当時はまだ地元の情報誌すらなかった時代である。大学生の口利きでもない限り、常連さんだけで成り立っている店と言ってもいいだろう。
 この店は、一種のクラシック喫茶であった。
 黒と白のモノトーンを基調とし、まるで、ピアノの白黒鍵盤を思わせた。
 洋楽が好きな人なら大抵は知っているであろう、白黒鍵盤を模した曲が、そのままこの店の名前になっていた。
「エボニー&アイボリー」
 メジャーアーティストによるデュオ曲である。
「なかなか渋い店を知っているだろう?」
 とでも言いたげな、どや顔をしていたかも知れないが、彼女はそのこと触れなかった。
 店に入ると、
「いらっしゃい」
 と言ってマスターが迎えてくれたが、マスターとは、自分が常連になってからの馴染みであった。
 笠原がこの店の常連になったのは、結構早い時期からだった。まだ入学式が済んでから数日くらいしか経っていない時、大学の図書館で少し本を読んだ後お腹が減ったので、どこかに寄ろうと店を物色している時に見つけたのだ。
 夕方の日が暮れかけいる頃だったので、却って、看板に明かりが灯ったことで、ここが喫茶店であると認識したのだが、昼間なら絶対に気づくことはなかっただろうと思うと、運命のようなものを感じたのだ。
 カウンターに座ると、サイフォンで入れるコーヒーの匂いが香ばしさを感じさせた。そもそも、高校三年生になるまでコーヒーは飲めなかったのだが、受験勉強中に眠気覚ましに飲んでみると、思ったよりもおいしかったのと、想像以上の香ばしさに、一時期病みつきになった。
 コーヒーというのは、カフェインが入っているので、覚醒効果があるようで、眠気覚ましにはいいという。
 さすがに、当時爆発的に売れ始めたスタミナドリンクを飲む気にはなれなかったので、コーヒーで十分だったのだ。運命を感じて入ったお店で、コーヒーの香りが香ばしさを運んでくると、常連にもなろうかというものだ。
 しかも、小学生の頃からクラシックは好きだった。ここも店を気に入った理由だったのだが、店の客が常連ばかりだというのも笠原を行き着ける理由だった。大学生になったら、常連になれる店をたくさん作りたいというのが、笠原の目標でもあったのだ。

                 小説談義

 マスターから声を掛けられた笠原は、、
「こんにちは」
 と、声を掛けたその瞬間に、隣の石松さんも同じように、
「こんにちは:
 という声を掛けたのを聞いてびっくりした。
 思わず隣をあっけにとられるように見つめると、彼女はニッコリとして、
「私、ここの常連なんですよ」
 というではないか。
「何だ。それだったら言ってくれればいいのに」
 というと、彼女はニコニコしながら、したり顔だった。
「やられた」
 という気分でいっぱいだったのだ。
「でも、この店を知っているということは結構ツーですね」
 というと、
「ええ、私は誰かに教えられたわけではなく、偶然歩いていると、辿り着いたという感じなんですよ」
 という彼女に、
「そうなんだ。実は僕もそうなんだよ。一応僕は地元ではあるんだけど、大学に入学するまではこのあたりはまったく知らない領域だったので、探検を兼ねて歩いてみたんだけど、こんなしゃれたお店があるとは思わなかったので、発見した時は、ちょっと嬉しかったですね」
 と答えた。
 それを聞いたマスターがニッコリと笑って、
「いらっしゃい。まさか笠原君と、聡子ちゃんが知り合いだったなんて、ビックリしたのはこっちだよ」
 というではないか。
 それを聞いて初めて、彼女が聡子であるということを知った。
「僕はいつもカウンターなので、いつものくせでここに座っちゃったけど、よかったかな?」
 と笠原がいうと、
「ええ、いいですよ。私も実は、いつもここなんですよ」
 と言ってくれたことで、安心したのだった。
「ところで、聡子さんは、どこかサークル決めましたか?」
 と笠原は聞いた。
「笠原さんは決められましたか?」
 と言われたので、
「僕は文芸サークルに決めました。僕は法学部なんだけど、機関誌を発行していて、自分の作品を雑誌に載せてくれるということだったので。入部したんですよ。僕は自分で何かを作ることが好きなので、文章を書いてみたいと思っていると、機関誌もあるということだったので、飛びついたといところですね」
 というと、
「笠原さんは、高校までに文章を書いたりしたことはあったんですか?」
 と訊かれて。
「いいえ。中学時代に、俳句を少々齧ったことがあったくらいで、文章なんておこがましいと思っていたくらいです」
 というと、
作品名:中途半端な作品 作家名:森本晃次