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中途半端な作品

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 当事者である聡子も、二人の間に関してのことは口を出してはいけないとでも思ったのか、何も言わない。しかし、それは卑怯な気がした。そもそも、今日は笠原と一緒にいるのだから、いくら知り合いが入ってきたとしても、無視を決め込むくらいのことがあってもいいのではないだろうか、
 そもそも誘ったのは聡子の方である。それなのに無視ができないどころか、自分もニッコリと笑って返事をするなどありえないと、笠原は思っていた。
――聡子がこんな女だったなんて――
 とまで思ったほどで、普段なら思わないのかも知れないが、何しろ告白した相手であり、その返事を待っている状況だ、
 いや、待っているというよりも、
「待ってあげている」
 と言ってもいいくらいではないか。
 それなのに、一体、聡子は何を考えているというのだろうか?
 そもそも川崎という男は、何者なのだろうか? 彼は一人で店に入ってきた。別に常連なら一人で入ってくることがあってもいいだろうが。
 そんなことを考えていると、厚かましくも、川崎という男は、自分たちの近くに座った。遠くにはたくさん空いている席があるというのに、おこがましいにもほどがあると思ったのだ。
――いや、俺が気にしすぎているせいなのかも知れない。友達くらいの関係であれば、別に普通のことだ。きっと、俺が聡子に対してすでに独占欲を持ってしまったからではないだろうか?
 と思ったが、
――独占欲を持つのも無理もないことだ。告白した相手から、返事はまだできないとは言われたが、会いたいということで誘われたのだ――
 デートだと思っても差し支えないのではないか?
 川崎というやつもやつだし、聡子も聡子だと思ってしまった。
 すでに、冷めた気分になってしまったことで、ここから先の展開を、自分中心で持っていくことはもはや不可能な気がした。
 完全に調子を狂わされた気がした笠原は、聡子が少しずつ会話をしてくるが、どうして川崎を意識してしまって、いつものような歯切れのいい回答ができなかった。
 笠原は以前から、誰かに相談された時の回答は結構歯切れのいいもだということで、サークル内でも有名だった。
「何か相談事があったら、笠原さんに相談してみるといい」
 と言われていたのだが、それはきっと、他人事だと思うと気が楽になるのか、そのおかげで的確なアドバイスができるのであった。
 そういう意味では、その人の身になっての相談というよりも、アドバイスを的確に受けることで、そのアドバイスをいかに自分で噛み砕いて判断するかということであるが、結局は最後には自分の考えを生むためのアドバイスだということであった、
 だから、人から相談を受けるたびに、今までの自分からは考えられないような発想が生まれてくるのが、魔力のように思えるほどだった。
 今日、聡子が会いたいと言ってきたのは、どういう目的があったのことだろうか?
 まさか、告白をしてきた相手の、恋の悩みをぶつけてくるはずもなく、何をどうしていいのか、戸惑っているのだった。
 いろいろ考えていたが、聡子は話しかけてくる様子はなかった。
――俺が今、戸惑っている印象が伝わって、何も言い出せない雰囲気になっているのだろうか?
 と考えた。
 だが、この膠着した雰囲気をさすがにまずいと思ったのか、聡子が切り出した。
「笠原さんは、どんなタイプの女性が好きなんですか?」
 と、何を今さらと思えるような質問をしてきた。
 もし、ここに川崎がいなければ、
「君のような女性に決まっているじゃないか」
 というのだが、川崎がどういう人なのか知らないだけに、当たり障りのことしか口にできないような気がした。
 頭の中では、この男が元カレではないかと思っているのだが、そう思うと、笠原には不審に感じられることが多かった。
 元カレだとすれば、別れてからすぐの状態のはずなのに、こんなにアッサリと会えるものか? しかも、そばから相手が離れないのに耐えられるというものか。
 どちらからフッたのかということが大きいのかも知れないが。聡子に限って、どちらがフッたのかということは、あまり関係のないことのように思えた。
 しかも、笠原がフラれたすぐ後に告白してくるという偶然をどう考えているのか。
――ひょっとすると、俺の告白は、彼女がフラれた時を狙っての姑息な考えではないか――
 とでも思われると、心外ではあったが、そう思われたとしても、無理もないことのように思える。
 そう考えてくると、もう一つの考えが浮かんできた。
――あの川崎という男は元カレだったのかも知れない。二人がどのような形で別れたのかは分からないが、ひょっとすると円満に別れたのかも知れない。そんな時、彼女の方に言い寄ってきた男がいたとして、少し寂しさを感じ得ない彼女としては、自分が流されてしあうかも知れないと感じ、元カレに相談したが、その時元カレから、自分が見定めてやるとでも言われたのだとすれば、辻褄は合うような気がする――
 もしそうであったのなら、笠原は手玉に取られているのかも知れない。それも、あまりにも自分の告白のタイミングがいいために、勘違いされたのだとすれば、無理もないが、こんなやり方は、他の人であれば、しょうがないと網が、自分が好きになった相手である聡子からされたのだとすれば、屈辱以外の何者でもないだろう。
 そんなことを考えていると、次第にその感覚が強くなってくる。せっかくの彼女からの誘いだというのに、これ以上一緒にいると、耐えられない気分になってくる。
 よほど、真意を確かめてやろうかとも思ったが、そこまでやると、大人げない行動に、自分が情けなくなり、情けなさに屋えられる自信がなかった。
「今日は、これ以上話すこともなさそうだな」
 と言って、その場を立ち上がったが、それは、聡子に自分の行動を後ろめたいと思ってほしいと思ったからなのだが、彼女にはそんな気持ちは欠片もないようで、態度に普段との変化はなかったのだ。

                二人の将来において

 どうやら、この時の、
「いや、昭和における二人の運命」
 は、どうやら考えられる最悪のことだったようだ。
 結果として、数日後に、笠原は、石松聡子から、
「あなたとはお付き合いできない」
 と言われた。
 これだけであれば、笠原は、
「ああ、フラれちゃったか、まあ、しょうがないわな」
 という程度で終わっていたことだろう。
 失恋のショックがどれだけ尾を引いたのか、彼の性格から考えると、普通の失恋であれば、よくて数か月、下手をすれば、半年以上、ショックから立ち直れないのではないかと思われた。
 だが、今回は最悪だったことが幸いしてか、一月ほどでショックはなくなっていたのだ。
 あの時、つまり聡子に、
「話がしたいので会いたいと言われて、ノコノコ出かけていった」
 あの時である。
 後から入ってきた川崎というやつは、やはり彼女の元カレだった。二人がどうしてそんなことをしたのかは分からないが、どうやら状況的に、二人は別れたくせに、偶然笠原が告白したことで、失恋のショックからが、何か冷静ではなかった聡子が川崎に、
「私に告白してきた人がいるんだけど」
作品名:中途半端な作品 作家名:森本晃次