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中途半端な作品

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 その時のシチュエーションとして、ある一定の区域にバリアを貼り、その中だけ別の世界になるように施していたのだが、その一定の空間はバリアの膜に隠されていて、中はどうなっているのか分からなかった。
 しかし、ヒーローが変身することで、その不思議なバリアに穴をあけて、中に入ったのだが、そこで見たものは、
「凍り付いた世界」
 だったのだ。
 それを見た主人公であるヒーローは、
「何だ、この凍り付いた世界は?」
 と感じたのだが、すぐに凍り付いていると思った世界が違っていることに気づいたのだ。
 警官が、どうやら何かを見つけて、たぶん、この世界を作った悪魔である妖怪を見つけたのであろうが、ピストルの照準を合わせて引き金を引いたのだろうが、その球がゆっくりと空気中を移動していた。それを見た時、主人公は感じた。
「この世界は凍り付いたわけではなく、ものすごく時間の進みが遅い世界なんだ」
 と思った。
 そして、それが想像以上の遅さなので、ぶっぱなしたピストルの弾がゆっくり動いている以外は、凍り付いて見えるのだった。
 そう、あの時の凍り付いた場面を今の状況に当て嵌めて思い出していた。
「俺は、どうすればいいんだ?」
 と思うのだったが、どうすることもできなかった、
 アニメで見た凍り付いたと思った世界は、その世界自体が真っ青であり、いかにも凍り付いたというう演出が見事であった。
 今の目の前の世界も、同じように真っ青な世界であった。
 しかも、アニメと違って実写だと、色付けがむずかしい。それだけに、凍り付いているという意識よりも先に、
「時間の進みがあまりにも遅い世界なんだ」
 と、直接考えさせられた。
 それを思うと、笠原は急に、
「あの時のアニメを描いた作者は、今の俺のような世界を垣間見ていたのかも知れないな」
 と感じた。
「ということは、俺も小説で似たようなシチュエーションが書けるかも知れない」
 と思ったが、書けるとすれば、、
「自分ではなく、聡子の方がふさわしい」
 と思った。
「いや、実際にすでに彼女の中の世界として描いているのかもしれない」
 とも感じた。
 アニメの世界において、時間を自由に操るというシーンは何度か見たことがあったような気がしたが、今から思えばこのシーン、拳銃の球がゆっくりと飛んでいるというこのシーンが一番印章的だったというのは間違いないことであった。
 そう思うと、
「時間が遅いというシチュエーションのアニメを見たのは、その時が最初だったので、センセーショナルなイメージが鮮明に残ったのかも知れない」
 と、感じたのだった。
 だが、この時間が遅いという感覚、自分の作品の中で感じたわけではなく、本当にリアルな感覚として残っているような気がした。
 それがどこから来るものなのかと考えていると、
――そうだ、小説を書いている時の感覚だ――
 ということを感じたのだった。
 小説を書いている時というのは、いつも同じようなわけではない。
 ストーリーが頭に浮かんでいて、どんどん書き進めることができる時と、まったく進まず、頭を掻きむしりたいと思う時と、それぞれである。
 明治の文豪が苦しみながら作品を紡いでいる時の様子を、よく写真で見ることがあったが、自分も同じような苦しみを感じている時、
「昔の文豪になったかのようだ」
 と感じる時もあり、そう感じた時、結構その後、筆が進んだりしたものだった。
 前者と後者ではまったく時間の感覚が違う。あっという間に進む時は、実際には一時間くらい経っているにも関わらず、自分で感じているのは、五分くらいだったりすることもあったりする。
 それは当たり前というもので、実際には一時間かかっているのだから、五分しか経っていないと思っているスピードが実際には一時間では、別に自分がスーパーマンになったわけではなく、時間の感覚がマヒしていたことで、勝手に時間を操っていただけのことであった。
 それでも、次々に発想が出てくるのだから、自分に自惚れるくらいの時間だったとしても無理もない。
「ずっとこんな時間が続けば、俺はベストセラー作家になれるんじゃないか?」
 と思うほど、マヒしていた時間の感覚というのは、自分にとって、大切なことだったのではないだろうか。
 と感じたのだ。
 ただ、今は一人で妄想している時間ではない。二人の時間を過ごしているのだが、この時、ふと感じたのだ。
「これって、本当に二人の時間なのだろうか? ひょっとすると、お互いの時間をお互いが共有していると勘違いしているのではないか? それよりも、もしそれぞれの時間が存在しているとすると、その時間は、同じものなのだろうか。それぞれで微妙に時間の進みが違っているとすれば、自分が十分と思っていることを、彼女は、二、三分くらいにしか思えていないのだとすると、すべてが自分のお思い過ごしなのかも知れない」
 と感じたのだった。
「ガランガラン」
 と、少し鈍い鐘の音が聞こえた。
 この重低音の音は、店の扉についている鐘の音だった。令和ではそんな喫茶店は珍しいが、昭和の頃には、珍しいののではなかったのだ。
 さすがに、客の皆は、音に慣れているのか、誰もそっちを振り向く人はいなかった。しかし、聡子がそちらを見たので、反射的に笠原のそっちを見たが、そこにいたのは、一人の青年だった。
 どう見ても大学生。それだけにまったく目立たなかった。気になったのは、聡子とその青年の目が逢った時、懐かしそうな眼をしたからだった。どうやら、二人は知り合いのようだった。
 笠原がドキッとしないわけもない。
「聡子は彼氏と別れたんだ」
 と思っていたが、それが間違いだったのか?
 と思ったが、顔を合わせてニコッと笑った割には、それ以上のリアクションはなかったことから、二人が付き合っているのかということに関しては、信憑性は感じられなかった。
 だが、付き合ってはいないが、友達であることには違いないようだ。
 すると、今入ってきた男は空気が読めないのか、こちらに近づいてきた。
「やあ、石松さん。こんにちは」
 というと、聡子の方も、
「川崎さん、お久しぶりです」
 と言って、お互いにニコニコしている。
 その表情はいかにも懐かしそうで、二人が一体いつから会っていないのか、興味深いものだった。
 だから、気になったので、
「そんなに会っていなかったんですか?」
 と聞くと、
「そうね。二週間くらいになるかしら?」
 と言われて、笠原はビックリした、というか、呆気にとられた。
――二週間? そんなもの、久しぶりの範囲に入らないではないか――
 と感じた。
「聡子さん、今日はデートですか?」
 と聞かれた聡子は、
「いえ、お友達なんですよ。こちらは、同じサークルの笠原さん。そしてこちらは、大学に入って一番最初にお友達になった川崎さんです」
 と、お互いを紹介してくれた。
 笠原と川崎はお互いに相手に頭を下げたが、お互いに探りあっているように見えて、二人とも相手の目線から視線を逸らすことはしなかった。
 他人から見ると、実に滑稽なことだっただろうが、他の客はこの状況を知ってか知らずか、まったく無視していた。
作品名:中途半端な作品 作家名:森本晃次