中途半端な作品
「女性の気持ちなんか分かるはずがない」
と、自虐的に思っている笠原なのだから、それも当然のことであろう。
それから少しの間、授業でもサークルでも、聡子と会うことはなかった。
「偶然、会えなかっただけなんだろうな」
と思っていたがそうでもないようだ、
彼女は、サークルに顔を出すことも、授業に出ることもなかったようで、
「あんなに真面目な石松さんが、どうして……」
と、まわりは、おかしいと言っていた。
まわりが彼女のことを把握しているのに、笠原が把握できていないのは、笠原が、彼女のことを誇大評価してしまっているからなのかも知れない。自虐的な性格である笠原には、「自分のようなだらしない男が、聡子のような女性は似合わない。高嶺の花なのではないだろうか?」
と思っていたことだろう。
その思いは彼女に小説の才能があるということを知ってから余計に感じるようになった。似合うか似合わないかということよりも、才能のあるなしで考えれば、
「男のくせに、女に負けるなんて」
という、いかにも昭和の考えがあったからだろう。
まだまだ、男尊女卑が残っていた時代、何と言っても、令和と昭和では、まったく街の様相も全く様変わりしていたと言ってもいいだろう。
令和に生きる若者に、昭和の頃の話をすれば、
「そんなの信じられない」
ということがたくさんあるだろう。
たとえば、タバコの文化を取っても、大きく様変わりしている。
今では、タバコを吸える場所はほとんどなく。電子タバコなるものだけが、公共の場で、分煙という形で吸えるだけになっている。
昭和の頃は、逆にいえば、どこでも吸えた。喫茶店やレストラン、電車の中にだって、灰皿が壁に設置されていて、いくらでも吸えた時代だった。
「煙が辛い」
などというと、タバコを吸っている連中から白い目で見らるくらいである。街中にも灰皿が配備されていて、歩行者天国にも、灰皿があったくらいだった。
「灰皿があるから、タバコを吸う。タバコを吸うから、灰皿を置かなければいけない」
基本的に今のようにタバコを吸う人間が悪であるという見方をするような時代でなければ、このスパイラルは解消されない。ずっと、
「タマゴが先か、ニワトリが先か?」
という禅問答が繰り返されることで、永遠の負の連鎖で終始することになるだろう。
もう一つ感じるのは、やはり世間の風潮に、世論というもが動き、さらにsこから法改正や、新たな法案が通ってきたことであろうか。
笠原が感じている変化の顕著なものとして、
「男女雇用均等に関わっているものではないだろうか?」
と思うことだった。
さらに、猟奇的な犯罪が増えてきた。いや、以前からあったが、途中からそれが陰湿になってきたことで問題になってきた、いや、言葉まで生まれた、
「スト^カー犯罪」
というものの対処が急務だったこともあるだろう。
男性の勝手な思い込みで、女性のプライバシーやや、酷い時には自由や命までも奪ってしまうストーカーという犯罪、昔は確かに好きな女の子の痕をつけてみたくなるというのは、男性であれば、一度くらいはあっても不思議ではないが、それがエスカレートして、ほぼ犯罪に結びついてしまうことから、ストーカーからの救済が急務となった。
さらに最近では、ストーカー犯罪がに絡んだところで、女性の精神的なトラウマに対してのケアも問題になったことから、その手の犯罪には過敏になっているのだ。そして、ネットの普及によるプライバシーの侵害であったり、詐欺等が起こることから、
「個人情報の保護、情報セキュリティ」
というものが問題となり、さらには、会社での上下関係、男女関係などの、
「立場や権力による暴力」
という、ハラスメントが問題になり、
「コンプライアンス違反」
が、社会問題になることで、下手をすると、会社でも、
「仕事を回すのが難しくなった時代だ」
と言われるようになっていったのだ。
次の日になって、部活の修了後に聡子に話掛けられて、
「まだ、お返事というところまではできないかも知れないんですが、今日はちょっといろいろと気軽にお話でもできたらと思ってね。だって、私、笠原さんのこと、考えてみるとm何も知らないような気がして」
と言われた。
「そうだね。僕もそういえば、聡子さんの性格は分かっているつもりでいるのに、好きになったので付き合ってほしいというわりには、気を遣っているからか、もっと知ろうとしなかったこともいけないんじゃないかと思うしね」
と、笠原は言った。
「うん、だから今日は気軽にお話ができればいいかなと思って、普通のお友達のように」
と言われて、
「そうだよな、何もかしこまることなんかないんだ」
と思いながら、口では、
「うん、そうだね」
としか言えなかった。
「学校の近くに私の知っている喫茶店があるので、そこに行ってみましょう」
と、場所は彼女が指定した。
最初に声を掛けてくれたのだから、当然場所も考えてのことであろうから、別に違和感はなかった。その喫茶店は、駅前から少し入ったところで、最初に一緒に行った喫茶店とは少し場所が離れていて、駅を通り越すことになるので、あまり立ち入ることのないエリアだった。
そのあたりにも喫茶店がたくさんあるというのは、大学に入った時、駅前のマップを見て確認していた。
店に入ると、コーヒーを注文すると、
「まずは、笠原さんにはお礼を言わないといけないと思っていたの。ありがとうございます」
という意外なところからの切り出しだった。
「どういうことなんだい?」
と聞くと、
「笠原さんがこのサークルを勧めてくれていないと、自分が何をやりたいのかっていうことに気づかなかったと思うの。それに何かやりたいことがあれば、何か辛いことがあったとしても、乗り越えられる気がするのね」
というのだった。
その話を聞いた時、笠原が、聡子に告白してからすぐくらいの頃、サークルの女の子がウワサをしているのを耳にしたことがあった。
「石松聡子さん、彼女、最近様子がおかしいでしょう? どこか上の空っぽいところがある」
と言っていたのを聞いて、その理由が自分の告白を真剣に考えて、悩んでくれているのかと思ったが、彼女たちに、笠原が聡子に告白をしたなどというのが分かるわけもなく、想像もできていないだろう。そう思って何を言い出すのかと思って聞いていると、
「彼女、たぶん、彼氏と別れたんじゃないかな? 彼女が前にしていた指輪、最近してないもん。私は指輪のことが気になっていたんだけど、そのうちにどこか挙動不審になったのが分かったので、これはきっと失恋ではないかって思ったのよ」
というではないか。
「えっ? あれだけ仲が良かったのに、別れるとかあるの?」
と言っていた。
どうやらこの二人は、聡子が誰と付き合っていて、どの程度の付き合いなのかということも分かっているのではないだろうか。どういう意味frhs、この二人の話は信憑性がある。
聡子に彼氏がいるという話をしていた人も、結構聡子のことを分かっていたような気がした。