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伏線相違の連鎖

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 と訊かれて、
「ええ、そうです。だって、松本君は一人暮らしなので、当然、冷蔵庫などにそんなにたくさん食材があるとは思えない。三人分必要ですからね。しかも、そこでもし冷蔵庫に会ったとしても、それを使ってしまうと、今度は松本君が困るでしょう? だから料理を作る僕が買い出してくるのは当たり前のことだと思うんですけどね」
 ということを聞いて、
「そうですね。それはごもっともなことでした」
 と、隅田は恐縮し、自分がいかに愚かな質問をしたかということを感じたが、それ以外に興味深い反応を得ることができたのは面白かった。
――梅崎という男は、どうして、こんなにムキになったんだ?
 と思うほど、自分が食材を買い出してから来たことを強調しようとしていた。
 まるでわざとしているような感じを受けるくらいで、
――何か、梅崎という男は、どこか捉えどころのない不気味さを感じる。やっぱり最初に感じた陰湿さという雰囲気はまんざらでもないかも知れないな――
 と感じた。
「分かりました。では先ほどの話の時系列として、あなたが買い出しを終えて松本君の部屋に来た時は、すでに松本君は帰宅していて、皆が来るのを待っていたというわけだね?」
 と隅田が聞くと、
「ええ、そうです。松本君が中から開けてくれて、私が部屋に入りました。何しろ両手が食材の買い物袋で塞がっていましたからね」
 と梅崎は言った。
「それから?」
 と隅田が訊くので、
「私が荷物を台所まで持っていったところで、松本君がデリバリーの話をして、例のピザ屋と、ほか弁屋でいいよねというので、いいと言ったんです。ちなみに、ほか弁屋というのは近くにあるデリバリーの店で、ズバリ名前が、ほか弁屋というんです。そこでパーティセットのようなものがデリバリーできるとで、そこからもパーティセットを一セットを頼んだんです」
 と梅崎がいうと、
「パーティセットというと?」
「鳥のから揚げやローストチキン、フライドポテトのようなものが、五人分、十人分という形で売っているんです。僕たちは三人だけど、五人前を頼みました。そもそも、五人前と言っても三人前くらいに小さなものなんです。それでその中にはピザが入っていないので、ピザも頼んでいるということです」
 と梅崎が答えた。
「じゃあ、チャーハンはいつもパーティをする時に君が作っているのかい?」
 と隅田に言われて、

いつもというわけではないですよ。今日はたまたま松本がチャーハンが食べたいと言ったので作ったんです。でも、うっかりしていたんですが、そこでニンニクのパウダーを使ってしまったんです。かなりの匂いが充満したこともあって、さすがに小山田君は食べようともしなかったんですけどね」
 と言った、
「小山田君は、ニンニクが嫌いなのかな?」
 と訊かれて、
「嫌いというわけではないんですが、どうも、ピザのチーズの匂いと、にんにくの匂いが混ざり合うのが嫌いなようで、それで、チャーハンには一口もつけていなかったというわけです」
 と梅崎がいうので、
「じゃあ、小山田君だけが、チャーハンに口をつけていないということなのかい?」
 と言われて、
「いいえ、実は僕もつけていなかったんですよ。あまり格好のいい話ではないんですが、調理をしている間に、味見のつもりで、結構調理をしながら、つまみ食いのようなことをしてしまったので、それで飽食状態になってしまったんでしょうね。自分で作っておきながら、もう食べたくないという気持ちになっていました」
 という梅崎に対して、
「確か、松本君は、玉ねぎがダメだと言っていたよね? じゃあ、あのチャーハンには玉ねぎが入っていなかったのかい?」
 と聞かれて。
「これも僕がうっかりしていたんですが、細かく刻んだ玉ねぎを入れてしまっていたんです。ただ、あまりにも細かくしたので、普通の人なら入っているかどうかまでは分からないレベルですね」
 というではないか。
 さすがにここまで聞かされて、
――梅崎という男、何かを企んでいるんじゃないか?
 と思わせたが、実際にはそこまでのことはなかったということを、その翌日に隅田は知ることになる。
 何しろ、その毒は玉ねぎに入っていたのだから……。

           捜査本部

 梅崎に事情を訊き始めてどれくらいの時間が経ったのか、真っ暗で誰もいない待合室で話をしていたということもあって、結構な時間だったように思えたが、実際には十五分ほどだったようだ。
 ここまで話を訊いてきたところで、夜間入館口から騒がしい声が聞こえてきて、二人はハット思ったのか、我に返ったかのようだった。
 どうやら、お待ちかねの松本の家族が到着したようだった。夜間入館口から入ってきたのは三人で、先ほどの話の通り、両親と姉の三人だった。
 まず姉が梅崎を見つけて、
「ああ、梅崎君が付き添ってくれていたのね。どうもありがとう」
 と言って、安心したような顔を梅崎に向けていた。
 梅崎もまんざらでもないように、松本の姉に挨拶をしていたが、この時、改めて初めて梅崎の笑顔を見たような気がしたのだ。
 だが、姉は梅崎の横にいる隅田を認めると、少し訝しそうな表情を浮かべて、
「どなたですか?」
 と訊かれて、
「ああ、K警察署の刑事さんだよ」
 というと、隅田は警察手帳を示して、
「隅田といいます、よろしくお願いします」
 と挨拶をすると、姉は一礼して、
「私は松本の姉の、みゆきと言います。ところで先ほどお電話をくださった小山田さんと、その時に一緒におられた柏木さんという刑事さんは、こちらには来られていないんですか?」
 と言われて、隅田刑事は、
「ええ、現場で現状保存と、鑑識の指揮を取っているから、まだ松本さんのお部屋におられます」
 と言った、
 それを聞いた姉のみゆきは、
「えっ? 鑑識ということは、何か事件性があるということなんですか?」
 というので、
「ええ、どうやら毒牙入っているものを口にしたということらしいのですが、それと一緒にアレルギー性のショックを起こしているということも先生は言われていました。それで何か既往であったり、アレルギー性の何かがないかを主治医の先生がお訊ねだったんですね」
 と隅田は説明した。
「そういうことだったんですね。じゃあ、弟が生死を彷徨っているというわけではないということですね?」
 とみゆきは、声のトーンを挙げて、
「それが一番の問題なのよ」
 とでも言わんばかりの勢いだった。
「それは大丈夫です。ただ、今はまだ安静が必要ということで、集中治療室にいますが、個室に移れるようになるのは、回復次第だということなので、そのあたりは安心してもいいようです」
 という話を隅田がすると、
「そうですか、ありがとうございます。じゃあ、まずは主治医の先生をお尋ねするのが最初になりますね」
 とみゆきが言って、両親の方を振り向いた。
 両親の方は、どうも放心状態になっているようで、きっと、息子の命に対して、何らかの覚悟を持ってきていたのかも知れないというのが見て取れた。放心状態なのは、極度の緊張から解き放たれた証拠だと言えるのではないだろうか。
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次