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伏線相違の連鎖

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「分かりました。こちらでも調べられるだけ調べてみましょう。ただ、ひょっとすると、彼の命を救ったのは、アナフィラキシーショックとの間で、副作用のようなものを起こして、青酸カリの毒が、致死量にまでいたらなかったのかも知れないですね。何かを食べている間に苦しみ出したんですか?」
 と聞かれた梅崎は、
「え、ええ、チャーハンを食べていていきなり苦しみ出して、そして血を吐いたんです。それでビックリして警察と消防に電話を入れたんです」
 と、少しうろたえながら話した。
 読者諸君は、先ほどの章で、小山田に柏木刑事が訊きとりをしている場面を見ているのでご存じだとは思うが、問題のチャーハンを作ったのは梅崎だった。ただ、その時はまだ隅田はそのことを知らないので、どうして梅崎が動揺しているのか、よく分かっていなかった。
「そうですか、だいぶ血を吐かれたんですか?」
 と聞かれた梅崎は、心ここにあらずなのか、思い出しながら、
「えっと、そうですね。何しろ血を吐くところをまともに見たのは初めてだったので、多かったんじゃないかって思っています」
 と梅崎がいうと、医者も、
「うーん」
 と言ってから、続けた。
「いえね、彼が命を取りとめたのは、毒の摂取が少なかったからなんですが、それはアナフィラキシーのおかげだけではなく、実際に摂取した量も致死量には行ってなかったのではないかと思ったんです。となると、この人を殺害しようという意志が最初からあったのかなかったのかによって、変わってくるはずなんですよね。もし、最初から殺害の意志がないのだとすれば、彼は死なない程度の青酸カリを飲まされたことになる。そうなると、かなりの薬学の知識がないと、できないことではないかと思うんですよね」
 と、医者は言った。
「僕たちの仲間内に薬学に詳しい人はいなかったと思うんですけどね」
 と、梅崎は言った。
「そうですか。とにかく、患者さんは、致死量未満の状態の青酸系の毒物を摂取したところで、アナフィラキシーショックを受けて、死を免れたというのが、私の見解ですね」
 ということだった。
「もちろん、生きている患者を司法解剖などできるわけはないので、実際の毒物や、アレルギーの正体まで分からないですが、あとは警察の方が鑑識さんを呼んで調べることになるので、そちらにお任せしましょう」
 と医者がいうと、それを聞いた梅崎が、
「先生、これは松本君が自殺しようと思ったということはないですかね?」
 と聞かれて、
「それは医者の私では分かりませんよ。本人の回復を待って、警察の方が事情聴取をされて分かることなんじゃないですか?」
 と、質問をした梅崎を見て、
――何を今さら、そんなことを言っているんだ?
 と言いたいような顔を医者はしていた。
 そのことに梅崎が気付いたかどうか分からないが、見ている限り、まだずっと何かに怯えているようだった。
「ところで、患者さんのご家族には連絡されましたか?」
 と隅田が先生に聞いた。
「いいえ、私どもは今まで患者さんを診ていましたので、そこまで手が回りませんでしたが……」
 という先生に対して、
「いえね、さっき先生はアレルギーや病気の既往について質問されたじゃないですか? それって、ご家族に聞くのが一番だと思うんですよ。病院で手配されたのかなと思いましてね」
 と言われて医者は、
「いいえ、していません。そもそも毒薬を服用しているので、少なくとも刑事事件に発展するのは間違いないので、刑事さんが連絡を入れると思っていたんですよ」
 と言われた隅田は、
「先生は付き添いの中に私という刑事がいることはご存じだったんですか?」
 と訊かれて、
「ええ、搬送中の救急車から患者の状態などの情報を貰っている時、刑事がついてきているという話は聞こえていましたので、てっきり刑事さんが連絡をしていただいているのかっと思っていました」
 と言われた隅田は、
「それは失礼しました。じゃあ、すぐに手配するようにします」
 と言って、梅崎に彼の家族の連絡先を聞いたが、梅崎は知らないということだったので、柏木刑事に連絡を入れて、小山田に確認を取ると、小山田は知っているということだったので、小山田を通して柏木刑事が家族に連絡を入れ、さっそく病院に来てもらうことになった。
 両親と姉はかなり驚いていたようで、急いで病院に駆けつけるということだった。
「命には別条ないが、既往症や、アレルギーなどの患者の情報がほしいということですので、お願いします」
 という連絡を取ったようだ。
 さっそく家族三人が病院にやってきた。そこには、松本のお薬手帳であったり、保健所関係を持ってきていたのだ。
 隅田と梅崎はとりあえず先生の部屋から出て、待合室にいた。そこにいれば松本の家族が来た時もすぐに分かるだろうし、隅田も梅崎に聞きたいこともあったからだ。
 もっとも、訊きたいことの半分は先生が話をしてくれたので、残りは半分なのだが、先生との話の中でも解決できていないところもあったので、そのあたりも含めて、梅崎の話を訊きたいと思ったのだ。
 さすがに夜中になってしまったことで、病院内は静まり返っていた。ただ、救急病院であるので、いつ何時、事故や病気などで患者が飛び込んできて、殺伐とした雰囲気になるか分からないという状況でもあった。
「病状の話などは先ほど主治医の先生が訊ねてくれたので、改めて聞くことはないんだけ、私の方が聞きたいのは、実際に松本さんが苦しみ出した時の状況を中心に、先ほどの宴会の際の皆さんの行動などなんですが、よろしいですか?」
 と言われた梅崎は、先ほどの小山田氏の話に中で、読者諸君が知っている話を、なぞるように梅崎はしたんだということであった。
 それを聞いて、隅田は、
――なるほど、問題のチャーハンを作ったのが、自分だということで、真っ先に疑われるのが自分だということだち分かって、あれだけビクビクした態度になったんだな?
 と感じた。
 だが、それだけではなく、どうも梅崎という気が弱いような感じがする。もしこれが分かってやっているとすれば、かなりの策士なのだろうが、見た目はそうも思えない。ただどちらかというと、その暗さにはどこか陰湿であり、悪く言えば、陰険な態度に見えるから不思議だった。
「ところで、梅崎君。君がチャーハンを作ったということだけど、それを作っている時、その部屋にいたのは、松本君だけかい?」
 と訊かれて、
「いいえ、作っている途中で小山田君が来たんです。僕たちは待ち合わせの時間を決めていたわけではないし、それぞれ仕事が終わってから集まるので、集まるのに順番も違うんですよ」
 という梅崎に対して、
「でも、部屋は松本君の部屋なんでしょう? だったら、松本君が部屋にいなければ、いくら君たちが早く来ても、表で待ってないといけないだろう?」
 と言われて、
「おっしゃる通りです。だから、僕はLINEで松本君に、最初から何時ことからなら家にいるかということを聞いておいて、その後に行くようにしていたんですよ。それに、チャーハンの食材だって、買って行かないといけないでしょう?」
 というのを聞いて、
「じゃあ、君が食材まで買ってきたんだね?」
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次