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伏線相違の連鎖

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 それでも、今刑事課にいる人たちは、何とか一つでも上に行こうと頑張っていることであろう。
「上が分かっていても、努力する気持ちに変わりはない。少なくとも目指す上があるのだから」
 と言っている人もいた。
 ただ、中には昇進への意欲をほとんど持っていない警察官もいる。やはりそこは、テレビドラマでの警部という立場が相当格好良くイメージに残っているからだろう。
 普通に見るとダサいと思われるような警部であっても、演じる俳優。役柄によってはかなりの格好良さが演出される。やはり第一線での一番の主役は警部や警部補なのであろう。
 刑事ということであれば、どうしても、捜査をするにしても、上の意向には逆らえない。特に捜査本部の決定であれば、警部であっても、逆らうことはできないだろう。
 隅田刑事が現場に到着して少ししてから救急車がやってきた。被害者を救急車に運び込んで、急いで病院に向かったが、隅田刑事の目から見ても、
――これは危ない――
 と、ハッキリと分かっていた。
 それは刑事の勘でもあるが、その時の状態を見る限り、現場で何が起こったのか、正直分からないところが気になった。
 まずは、他の二人から話を訊かなければいけないのだろうが、救急車には、一人が乗り込んでいったために、残ったのは一人だった。
「君はここに残っていてくれないか? 警察も呼んでいるわけだし、事情も聴かれると思うんだ。事情聴取になれば、俺より君の方がいいだろう。病院に行って彼の話をするのは俺の方がいいかも知れないとも思うしね」
 と、救急車に乗り込む人間と、残って警察に説明する人間の手筈はできていたのだ。
 救急車が出て行こうとした時、ちょうど、柏木刑事が到着していた。警察側も二手に別れることにしたが、病院について行くのは隅田刑事で、柏木は、残った人に事情を訊く役になった。
「じゃあ、後で報告の時に」
 と言って、隅田刑事は救急車を追いかけて。病院に向かった。
 残った男性と、柏木刑事は、少し気まずい雰囲気になった。柏木刑事は今到着したばかりで、まったく事情を知らないわけだし、残された男の方も、このような惨状の後で、一人にならずに済んだことはよかったのだろうが、一緒に残ったのが刑事だということで、対応に苦慮しそうに思い、かなりの緊張があるようだった。
「すみません、私はK警察の柏木というものですが、少しお話を伺えますか?」
 と言って、形式的な警察手帳の提示を行い、メモの用意を取った。
「警察に通報されたのは、あなたですか?」
 と聞くと、
「ええ、私です」
「ちなみに今日ここにおられたのは、今運ばれた方とあなたと、付き添って行かれた方の三人ですかね?」
 と訊かれて、
「ええ、そうです」
 と男が答えると、
「ちなみにこのお部屋は誰のお部屋だったんですか?」
 と言われた男は、
「今救急車で運ばれた男性の部屋です。今日は久しぶりに三人が揃ったので、食事をしながら酒でも飲もうという話になったんです」
 と言って、十畳くらいの広さがあるだろうか、部屋お中央のテーブルの上に、出前でも取ったのか、ピザや弁当などのおつまみになりそうなものが置かれていて、缶ビールの飲んだ後の缶が、そこらへんに転がっていた。
 片づける様子がなかったのを見て、
「現場保存ということで、散らかったままにされているんですか?」
 と柏木が聞くと、
「ええ、そうですね。それに、彼の吐血の痕が、どうにも気持ち悪くて」
 というのを聞いて、
「それは分かります」
 と、さらに惨状を見て、こみあげてきた吐き気を我慢しているようだった。
「ところfr、それぞれの身元を教えていただけますか?」
 と言われた彼は、
「ええ、僕たちは、大学時代からの友人で、今救急車で運ばれたこの部屋の住人が、松本裕也と言います。そして、一緒に彼に付き添っていったのは、梅崎達夫といい、そして私が小山田哲彦といいます。年齢は皆三十二歳になります、大学は地元のF学園大学の理学部出身です」
 ということだった。
「じゃあ、三人は、大学時代に知り合ってからなので、もう十年以上のお付き合いになるんですね?」
 と柏木に聞かれて、
「ええ、そうです。腐れ縁というやつでしょうか?」
 と言って、小山田は苦笑していた。
「ところで、今日は何の集まりだったんですか?」
 と言われて、
「今日は梅崎君の誕生日のパーティを細々とやっていたんですよ」
 と小山田がいうと、
「いつも、松本さんの部屋に集まるんですか?」
 と柏木は聞いた。
「ええ、そうですね。ここが集まるには位置的にも、部屋の規模からいってもちょうどいいんですよ。防音関係も一番充実しているので、それほど気にすることもないからですね」
 と小山田がいうのを聞いて、柏木は再度、テーブルの上を見た。
 気になったのは料理で、気になったというよりも、違和感があるというべきなのか、その理由を探ろうと、テーブルの上を凝視した。
 前述のように、一見して分かるのが、デリバリーのピザ、そして、同じくデリバリーのお弁当やおつまみ関係、そこに手作りを思わせるつまみとして、チャーハンが用意されていた。
 それぞれが少しずつ中途半端に残っている。一番残っているのは手作りのチャーハンだった。
 そして気になったのは、そのチャーハンの食べ方が汚かったからだ。皿からこぼれて、テーブルの上に散乱している。汚く感じたのは、このチャーハンの散乱だったのだ。
「このチャーハンは、誰が作ったんですか?」
 と言われて、
「作ったのは、梅崎でした。彼は調理をするのが大好きで、いつも、デリバリーを取りながら、梅崎の料理も一緒に食べていたんです」
 と小山田は言った。
「ひょっとしてですが、このテーブルの様子から見ると、松本さんが苦しみ出したのは、このチャーハンを食べた後のことですか?」
 と柏木が聞くと、
「ええ、そうです。基本的には、皆の共通の大好物はピザなので、しかも、ビールと一番合うのがピザだという共通の認識があったので、一番最初に皆がピザを食べていました。その次には、梅崎の作るチャーハンなんですが、これを好きなのが、運ばれて行った松本だったんです。ピザばかり食べていると、確かにおいしいんですが、彼は大食漢のくせに、同じ料理を続けて食べることが苦手なようなんです。すぐに飽きるとか言ってね。だから、この日もすぐにチャーハンに乗り換えました」
 と小山田がいうと、
「じゃあ、このチャーハンを食べたのは、松本さんだけということですか?」
 と言われた小山田は、
「いいえ、私も少しだけ食べました」
 とそこまでいうと、柏木はスマホを取り出して、目の前のテーブルの上を撮影した。
「何か、松本さんに、アレルギーのようなものがあるということはないですか?」
 と念のために聞いてみた、
 だが、それがすぐに愚問であることが分かったので、返事は決まっていた。
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次