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伏線相違の連鎖

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 と刑事課長がいうので、
「分かりました。皆に連絡を取ってみます」
 と、とりあえず、全員にLINEを一斉に送った。
 もちろん、LINEで伝えられる文字数も限られているので、電話で話さなければいけないだろうが、とりあえずはまだ何も分かっていないだけに、連絡を入れてくれるように通知するだけだった。
 先ほどの通報内容を聴いて判断すると、どうやら通報者と被害者、そして他に何人いたか分からないが、少なくとも二人以上で会食中、一人が苦しみ出したということで、救急車の手配と警察に連絡を入れたということだった。
 そもそも、苦しみ出したのが、何かの事件性があるのかも分からないので、あまり大げさにはできないが、警察にも連絡をしてきたということは、苦しみ方が尋常ではなかったということだろう。
「まさか、毒殺なのか?」
 と考えたが、急に苦しみ出すような毒薬というのは、そう簡単に手に入れることは普通の人では不可能に近い。
 そもそも、そんなに簡単に毒薬が手に入るような世界だったら、警察がどれだけあったって、足りるものかというものである。
 さすがに毒殺というのは考えすぎではないだろうか。
 苦しみ出した人には何かの既往症化何かがあって、食あたりでも起こしたのかも知れない。食あたりであれば、食べたものを苦しみながら吐き出すこともあるだろう。刑事と言っても人間だから、桜井刑事も、
「なるべく大げさな事件にならなければいいのにな」
 と考えてしまった。
 そのうちに、一人の刑事から電話があった。その刑事は、桜井の同期で、柏木刑事と言った。
 彼は桜井とは対照的に、活発な性格であったが、どこか古臭い考えがあるようで、よく言えば熱血漢であり、悪くいえば、猪突猛進というところであろうか。
 ただ、彼が急に何かに閃くことがあるようで、そのきっかけを誰かが与えたことで解決した事件も今までに何度もあった。
 柏木刑事は、そういう意味では、最後に美味しいところを持っていくという何か幸運の星の元に生まれたのではないかと思えるような性格で、ただ、それでも他の人から恨まれたりは決してしない。
 羨ましがられることはあるだろうが、それは彼が刑事課の中でも一番真面目だというところから来ているのだろう。
 猪突猛進で、熱血漢というのは、そういう真面目な性格の裏返しではないかと、刑事課の皆には分かっているようだ。
 それだけ、分かりやすい性格という意味もあるのだろうが、彼のような刑事が一人くらいいる方が、刑事課らしいのではないかと、刑事課長は思っていた。
 最初に連絡をしてきたのが、柏木刑事というのも、何となく分かっていたような気がした。
「桜井君、どうしたんだい?」
 と電話口でいつものような大げさに興奮しているかのような声が響いていた。
「ああ、皆に一斉に連絡したんだけど、事情が分からないので、一応、隅田君がいたので行ってもらったんだけど、どうやら、一人の男性が食事中に苦しみ出して救急車で搬送するという通報だったようなんだ。普通なら救急車だけなんだろうが、通報してくるというのは何か普通じゃなかったんだろうと思って、皆に連絡したんだよ」
 というと、
「現場は?」
「錦町なんだ」
 というと、
「俺は、隣の街にいるので、すぐに行ける。行ってみるよ」
 というので、詳しい住所を教えたので、駆けつけてくれるということだった。
 それから少しして数人から連絡があったので、急行をお願いした。皆快く了解してくれたのが嬉しかった。
 まず現地に到着したのは、やはり隅田刑事が一番だった。すぐに、最寄りの交番から巡査も駆けつけてきたが、中では、救急車を待ちながら、一人はすでに倒れて痙攣していて。他に二人がいて、それぞれ、怯えて何もできないようだった。
 隅田刑事がその部屋に駆け付けた時は。被害者は虫の息のようだった。
――なるほど、これなら慌てて警察に連絡するのも分かる気がする――
 というのは、明らかにおかしいと感じたのは、被害者が吐血したようで、あたりに血が飛び散っていて、傍から見ても、その時がどれほど恐怖の光景だったのかということが分かったかのようだった。
 隅田刑事はさすがに、絶句して、すぐに声を掛けられる様子ではなかった。被害者は、意識が混とんとしているようで、それでもたまに急に引き付けのようなものを起こして、少し痙攣を繰り返しているようなので、虫の息ではあるが、まだ生きてはいるようだった。
 しかし、刑事といえども、新米の隅田刑事には何もできない。とりあえず救急車が来るまで待つしかないのだが、駆けつけてきた巡査に、
「お疲れ様です。K警察刑事課の隅田です。
 と言って名乗り、相手の警官も、
「ご苦労さまです。私は最寄りの交番の長谷川巡査です。よろしくお願いします」
 と言って、敬礼をした。
 年齢的には隅田刑事よりも少し年上ではないだろうか。それを見ると、
――どうして警官なんかやってるんだろう。俺みたいに刑事課への転属を願い出れば、これたかも知れないのに――
 と勝手に想像していた。
 しかし、巡査の中には、交番勤務の方が市民と触れ合うことができて、それだけで嬉しいという思いに浸っている人がいて、そのままずっと交番勤務をしている人もいるという話を訊いたが、隅田刑事にはその理屈が分からなかった。
「何のために、警察に入ったんだ?」
 と考えたが、確かに警察というところは縦割り社会で、そもそもが公務員なので、会社のように役職以外でも、階級というものに縛られる。
 会社のように、何もなくとも、年功序列で出世できるわけではなく、ノンキャリアと呼ばれる自分たちのような、その他大勢は、出世したとしても、警視長以上はないのである。
 と言っても、そこまで行けるのは、相当稀な例であり、普通の警察官がいけるとして、少々頑張っても、警部どまりというところであろうか。
 テレビドラマなどで、下済みを重ねた叩き上げと呼ばれる警部が、事件を解決していくのを爽快な気持ちで見ていたのを思い出すと、
「警部も悪くないな」
 と思うが、やはりそこで終わりというのは、少し寂しい気がした。
 しかも、警察組織は昇進するのに、必ず試験がいる。(キャリア組はいらないようだが)
 試験に合格しなければ、いくら手柄を立てたとしても、上級警察官にはなれないのだ。それは悪いことではないと思うのだが、刑事畑に来れば、その宿命から逃れられないのは当然であり、そう考えていると、警察に入るのは、この宿命を甘んじて受け入れるという覚悟で皆入ってきていると思っていた。
「警察というところは、野心がなければ、務まらないところなんだ」
 と考えていたが、それにしては、理不尽なことと、形式的なことのギャップが大きいようだ。
――やはりテレビドラマの影響なのか?
 と考えてしまうほどなので、警官をしている連中が出世を望まない風潮というのも分からなくもない気がしていた。
 しかも警察組織というのは、警視正から上が国家公務員で、そこから下が地方公務員ということになる。
 ということは、警部まで行ったとしても、しょせんは地方公務員、やはりキャリアとノンキャリアでは相当な違いがあるということであろう。
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次