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伏線相違の連鎖

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「こちらの部屋はこの間の現場であった松本さんの部屋よりも広いし、余計なものもないので、集まって何かをするのであれば、こっちの方がよさそうだと思うんだけどね」
 と柏木刑事が言った、
「そうですね。ここなら表通りの方に近いし、交通の便や買い物にしても便利がいいはずなんですけどね」
 と、隅田刑事が付け加えた。
「でも、この被害者のこの部屋、かなり几帳面に片づけられているじゃないか。彼が潔癖症だとするならば、人を呼びたくないという気持ちも分からなくもない。そう思うと、人を呼ばないのも理解できるというものだよね」
 と、桜井刑事が言ったので。二人は再度部屋のまわりを見渡して、
「確かに」
 と、柏木刑事がいうと、その横では、隅田刑事が何度も頷いていた。
 そんなリビングの奥に、寝室があった。
 ここは、今度は逆にかなり荒れていた。箪笥から衣服がこぼれていて、さらに洋服ダンスから、服がはみ出しているではないか。リビングとはまったく違うその様相のその先に、一人の男が断末魔の表情を浮かべ、倒れていた。
 そこにいるのが、この部屋の住人である梅崎だということは一目瞭然であった。
 どちらかというと、あまり表情を変えることのない梅崎が、こんな苦悶の表情を浮かべ、倒れているのを見ると、まるで夢を見ているかのような気分にさせられる。
「何であっても、死体発見現場というのは、いつ来ても慣れるというものではないな」
 と、顔をしかめながら、桜井刑事は言った。
 首には白い布が掛かっているのが見えたので、
「絞殺ですかね?」
 と、隅田刑事が訊いたが、
「それ以外には考えにくいね」
 と、桜井刑事が言った。
「この間は殺されることはなくて、毒を盛られた事件から始まって、昨日は、これも事なきを得たけど、上から植木鉢が落ちてくるということがあって、今回は本当に首を絞められて殺されたということですかね?」
 と隅田刑事がいうので。
「そういうことになるんだろうな」
 と、桜井刑事が言った。
「それにしてもこれは酷い。犯人が物色していったんでしょうね?」
 という隅田刑事の質問に、
「そうだろうな。物色しているところを見つかって思わず殺したのか、それとも殺しも目的で、まず殺しておいてから、何かを物色したか。それによって、状況は違ってくるよな」
 と桜井刑事がいうと、
「そうですね、前者であれば、物取りも考えられるが、後者であれば、物取りというよりも、被害者に何か弱みを握られていて。その証拠を取り戻して、一緒に口を塞ごうとしたということになるんでしょうね」
 と、柏木刑事は言った。
 それを聞いた桜井刑事は、
「もう一つ気になることがあるんだけど」
 というと、
「どういうことですか?」
 と、隅田刑事が訊いた。
「今回の犯罪が最初に起こった毒殺殺人未遂から繋がっているものだとするならば、犯罪に一貫性がないような気がするんだよ。最初は毒殺、そして昨日は植木鉢を上から落とす。そして、今回の絞殺」
 というと、
「それが何か?」
 と、今度は柏木刑事が訝しそうに聞いた。
「そして、さらに、最初の二回はどちらも死んでいないが、今回は確実に死んでいる。たぶん、完全に息の根を刺そうというつもりだったんだろうな」
 と桜井刑事がいうと、
「でも、絞殺でなくても、刺殺なら、もっと確実ですよ」
 というと、
「でも、返り血の問題だったり、凶器の処分とかもいろいろあったんじゃないかな?」
「でも、絞殺でも暴れられたり、大声を出されたりなどと抵抗される可能性だってあるわけですよね?」
 と柏木刑事がいうと、
「睡眠薬を飲ませて、眠らせているかも知れないだろう?」
 と桜井刑事がいうと、
「なるほど、そうかも知れませんね。そうやって考えると、理屈も分かってきます。とりあえず鑑識さんの見解を聞くことにしましょう」
 と言って、鑑識が手早い手つきで鑑識キッズを使っての捜査を行っていた。
「少しでも分かったら、教えてください」
 と、桜井刑事は、鑑識官に言った。
「分かりました」
 と言ってから、無言での鑑識作業が行われてから、三十分ほどしてからのことだった。
「詳しくは司法解剖の結果によりますが、今は完璧ではないので、そこはご了承ください」
 というと、皆無言で頷いた。
「まず、死亡推定時刻ですが、今から四時間前、つまり、四時過ぎくらいではないでしょうか? 死因は絞殺、首に巻き付いている手ぬぐいのようなもので首を絞めているように見えますが、ピアノ線のようなものを最初に使ったと思います。さらに抵抗した痕がほとんど見られないことから、先ほどの推理のように、睡眠薬を服用している可能性は高いと思われます」
 と、いうのが現時点でも死体検分であった。
「それじゃあ、それ以外では何か気になることはありましたか?」
 と言われて、
「そうですね。物色したものが、死体の下にあったりということはなく。むしろ死体の上にある感じだったので、この物色は、殺害後のことだということが分かります」
 というと、
「ちょっと待ってください。死体を後から動かしたのでは?」
 と言われて、
「動かした形跡はないと思われます。第一死体を動かす理由がどこにあるというのでしょうか?」
 と、鑑識がいうと、さすがに刑事もそれを聞かれると、グーの根も出なかった。
「やはり、何か探し物があったのと、殺害とは関連はしているけど、どちらが本当の目的だったのかということが、この事件では大きな問題ではないかと思うんだよな」
 と、桜井刑事が言った。
「とりあえず、この後、司法解剖に回しますので、その結果をお待ちください」
 ということであった。
 すると、少ししてから、部屋の物置を調べていた鑑識員から、
「桜井刑事、ちょっと」
 と言って、呼ばれた。
「これなんですがね」
 と言って、彼が出してきたのは、小物入れとしては大きいが、衣装ケースとしては小さすぎる中途半端な大きさのプラスチックでできたケースを持ってきて指を差したところに、綺麗な指輪と、綺麗に畳まれたナース服が入っていた。
「梅崎に、彼女がいて、その叶の持ち物ということか?」
 というと、
「それもおかしな話ですよね。隠すようにして置かれていたんですから。誰にも知られたくないものだったということでしょうからね」
 というと、
「ひょっとして、犯人が捜していたのは、これだったんじゃないですか?」
 と柏木刑事がそういうと、
「そうかも知れない。そうであれば、物色をする理由が分かるのだが、殺そうとまでするんだから、物色したものが金目のものでないとすれば、復讐か、それとも何か都合の悪いところを見られてしまったりして、それが問題なのかも知れないな」
 と、桜井刑事が言った。
 そう言った後、桜井刑事は黙り込んでしまった。そんな時の桜井刑事は、必死に頭の中で推理をしているのだ。話しかけてもきっと返事をしてくれないだろう。きっと別の世界にいるということなのだろうと、桜井刑事を知っている人はそう考えるだろう。
「うーん、何となく事件の骨格が見えてきたような気がするな」
 と呟いた桜井刑事だが、さすがにその早さに皆驚愕していた。
「どういうことですか?」
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次