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伏線相違の連鎖

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 三人でつるんでいる割には、梅崎という男が陰湿で、いつも一人でいるのが似合いそうな気がすると、以前から三人の関係性を知っていた長谷川巡査なので、分かったことだと思ったが、どうやら、柏木経緯も気付いているようだった。
 どこか落ち着きというものを醸し出すことのできるレアなケースとして、柏木刑事の存在を感じるのだった。
「この間の事情聴取だけで分かったのであれば、すごい」
 と長谷川巡査は感じたが、柏木刑事としては、
「あの陰湿さはウソをつくタイプの陰湿さの気がする、だけど、二人の供述は辻褄が合っていたということはウソではない、そう思うと、逆に梅崎の陰湿さというのは、本物なのかも知れない」
 と感じた。
 結構長谷川巡査というのは、相手のことをよく見ている方で、今までにその性格を生かして、事件解決に功労があった。本当であれば、刑事課が引っ張ってもいいくらいなのだろうが、隅田刑事の刑事課に移動したいという思いの強さが勝って、まだ交番勤務を続けている。
 だが、本当のところ、長谷川巡査は交番勤務が好きであった。庶民と直接触れ合えるのと、面倒くさい事件が多いが、一つ一つ細かいことをこなしていくことに喜びを感じる彼には、交番勤務は最適であった。
 そんな長谷川巡査に、いつも隅田刑事は敬意を表していた。
「本来なら、俺なんかおりも長谷川君の方が先に刑事になっているべき人なんだろうけど、それを譲ってくれるんだから、本当にいいやつだよな」
 と、よく同期の間でこぼしていた。
 逆に長谷川巡査の方でも、
「隅田君は本当にすごいよ。まだまだ若いんだから、刑事課でこれからどんどん手柄を立てて行けば、警部補、そして警部へと上がって行って、俺なんか、あごで使われちゃうお」
 と言って笑っていた。
 傍で聴いていると、お互いに皮肉を言い合っているように聞こえるが、この二人に限っては正直な気持ちであった。
 しかも、そのことをまわりはちゃんと分かっているというところが、何ともすごいところだと言えるのではないだろうか。
 小山田も、そんな長谷川巡査に惹かれた時期があった。何でも相談できるのは、長谷川巡査しかいないとまで思っていた時期があったようで、自分が独り占めをしている錯覚に襲われていたようだ、
 しかし、よく見ていると、長谷川巡査は、
「街の頼りになるおまわりさん」
 だったのだ。
 誰にであっても、分け隔てがない警察官。
 当たり前のことのようで、実際にできている人はどれくらいいるだろうか。
 そもそも誰からも慕われることのない警察官だってたくさんいる中で、市民から本当に慕われているというのはすごいことである。
 しかも、交番のおまわりさんというと、どうしても暇な人のイメージが強い。自転車で見回りをし、交番で制服を着て、いつも何かを書いているという勝手なイメージがまとわりついているのは、きっと、テレビドラマの影響であろうか。
 ドラマに出てくる警官というと、市民のいうことには何でも聞くというイメージが強いが、実際には、どうなのか、やはり人によって違うのではないだろうか。しかも、赴任地によって、忙しくて余裕のないところもあれば、事件らしいことはほとんど何もないところもあったりするだろう。
 これは交番に限ったことではない。暇な部署と忙しい部署が存在するのは、どの職種でも同じなのかも知れない。それだけに、実際に勤務に従事している人は、その不公平感を身に染みて分かっているのだろう。
 しかし、社会人である以上、人事が決めた赴任地に逆らうことはできない。転勤を断ったことは、退職を意味するという慣例があることでも分かるように、それぞれ、会社と従業員の間には就業規則なるものがあり、それが会社で従事するための法律であった。それが得てして、組織と従業員との間の壁となって立ちふさがることになるのだが、それも、致し方のないことなのかも知れない。
 だが、長谷川巡査は、基本的に組織が決めたことに逆らう気持ちはなかった。今のところではあるが、昇進への野心があるわけでもなく、ただ、自分は、
「組織の歯車として機能すればそれでいいんだ」
 と思っているのだった。
 そんな長谷川巡査を慕っていたのは、小山田にも似たところがあることであり、彼にも野心のようなものはほぼほぼなかった。どちらかというと、まわりに対してへりくだっていると言った方がよく、よく言えば従順であるが、悪く言えば、犬のような存在だったと言えるのではないだろうか。
 つまり、一緒にいる人間によっては、
「正義にもなれば、悪にもなる」
 そんなタイプだったのだ。

              第三の事件

 そんな小山田の頭の上から落ちてきた植木鉢、誰かが故意に落としたと考えるのが普通であろう、植木橋など他にはなく、植木鉢があることすら不自然で、さらに、人通りの少ないところ。ここまで考えると、誰かの意志が働いていると考える方が自然だろう。
 小山田には、
「まったく誰かに狙われるなんていう覚えはないですよ」
 と言っていたが、それだけに恐ろしさもあった。
 狙われる理由も分からないところで誰かに恨みを買っていたのだとすると、それは自分が気付かないのが悪いのか、それとも、勝手な逆恨みなのか分からない。どちらにしても、恐ろしいことには変わりはない。どちらにしても、自分がまわりを気にしていない証拠であるし、気付かないうちに誰かを傷つけているということである。相手をして、正当な恨みなのか、それとも逆恨みなのか、逆恨みであっても、抱かれるにはそれなりに理由があるということであろう。
 小山田にとって、いつも他人ばかりを気にしていただけに、いざ自分のこととなると、考えたことはないのだろう。今回の事件の中での一番の問題点はそこらへんの彼の性格にあるのだろうと、長谷川巡査は言った。
 ただ、小山田の態度を見ていると、どこか大げさにも感じられた。
 確かに植木鉢を上から落とされるなどというのは、恐怖におののくレベルのものではある。
 しかし、それ以上に何かに怯えている様子を見ると、
「何か心当たりが本当はあるのではないか?」
 と長谷川巡査は感じた。
 もっとも、そんな思いを抱いているのは長谷川巡査だけであり、小山田のことを何も知らない他の刑事たちには、まだ、彼のことを理解できていなかった。
 いや、
「小山田という人は結構分かりやすいひとだ」
 と思っているのは長谷川巡査だけで、他の人、刑事だけではなく、梅崎や松本も感じていたようだ。
 きっと、小山田のことを利用している人たちも、実際に小山田の本質というものを分かっていて使っているわけではないような気がした。
 それだけに、使いはするが安心しているわけではない。悪いやつになると、
「利用するだけ利用して、後はいくらでも処分すればいい」
 と思われていればそれは恐ろしいことであろう。
 しかし、実際に小山田にはそんな自分に従順な人物がいて、その人の存在に気が付いた時、彼は一皮むけた気がしたようだ。
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次