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伏線相違の連鎖

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「実は、さっき電車から降りてから、一人でベンチに座ってうな垂れているいる女の子がいたので、気分でも悪いのかと思って声を掛けてみたんですが、どうも、誰かにつけられているような気がすると言って、ベンチに座っていたようなんです。それで交番に連れてきたというわけなんですよ」
 t、小山田は言った。
 駅から一番近い交番はここなのだが、この交番は少し入り組んでいるので、知っている人でなければ、その場所に交番があるなどということを知る由もないはずだ。
――どうしてすぐに分かったんだろう?
 と、若干の疑問を感じていたが、とりあえず目の前で心細がっている女の子を何とかしなければならず、最初の疑問は後から考えるとして、震えている彼女の事情を訊くことにした。
「大丈夫ですか? 落ち着いたら、お話を伺いますが」
 と、彼女をいたわるように声を掛けた。
「ありがとうございます。ええ、大丈夫です」
 と、震えてはいるが、毅然とした態度であることから、
「根は心細い小心者なのだろうが、毅然とした態度を装おうと必死になっているのが伺える」
 という姿が見て取れた。
「それでは、伺っていきますね。まず、誰かにつけられていると言われましたが、その人の姿や顔は見られましたか>」
 と訊かれて、
「ええ、姿は分かったんですが、向こうからライトが当たっているところだったので、逆光になって、シルエットだったので、顔までは確認できませんでした」
 という。
 ということは、誰かにつけられていることは確かだが、それが誰だか分からないということなのであろう。
「じゃあ、何か誰かにつけられるという覚えはないですか? 時々誰かに見られている気がするとか、いつも後ろを同じ人が歩いてくるのが気になるとかですね」
 と言われた彼女は、
「そういうことはありませんでした。もしその時に気になっているのであれば、その時に交番に駆け込んでいると思います」
 と言った。
 意外と彼女は怯えていながら、結構思考回路が働いていて、感覚がマヒしているというわけではないようだった。
「なるほどですね。じゃあ、あなたが気になったのは、どのあたりからでしたか?」
 と訊かれて、
「私はS駅から乗車してきたんですが、電車を待っている時からその人が私を気にしているということに気づいたんです。ただ、私の近くに寄ってくるわけではなく、じっと見られているという感じですね。私は誰かに見られているかも知れないと思った時、結構敏感だったりするんです。だから、気になる人がいたりして、その人を気にしていると、自分を見つめていることがだんだん分かってくるんです」
 と彼女がいうので、
「それは、ひょっとすると若干の被害妄想が含まれているかも知れませんよ。相手だって、自分を気にする女性がいれば、思わず気にしてしまうというのは往々にしてあることで、あなたが気にしているので、相手も気にしているという逆の現象だってあるんです。つまり、それぞれが意識して引き合っているという感じでしょうか?」
 と、長谷川巡査は言った。
「そうかも知れません、確かに私は被害妄想が強くて、よく人からも言われます。でも、自分を被害妄想だと思い込むのも怖いんです。なぜなら、言あは被害妄想なのかも知れないけど、本当に何かが起こった時、どうせ被害妄想だと思ってしまったらどうなるか? 
ということを、考えると、童話にあったオオカミ少年の話を思い出して、手遅れになるかも知れないと思うと怖くて仕方がないんです」
 というのだった。
 長谷川巡査と小山田はお互いに顔を見合わせ、何か言いたそうだったが、声に出すことはなかった。
「じゃあ、僕が家の近くまで送っていきましょうか?」
 と小山田がいうので、
「それはありがたいです」
 と彼女が言った。
「私が連れていければいいんだけど、交番を空けるわけにはいかないので、すみませんがお願いしてもいいですか?」
 と小山田に頼んだ。
 長谷川巡査とすれば、きっと気のせいに違いないという思いがかなり強かったのであろう、もし、もう少し危ないと思っていれば、人に頼まずに自分が行っていたはずだからである。
 彼女の方も同伴してきた小山田の方も、お互いに警察に通報したという安心感があったに違いない。
「それじゃあ」
 ということで、彼女と一緒に帰ることになった小山田だったが、その翌日わざわざ交番まできて、
「昨日は無事に送りとどけましたよ」
 と報告に来てくれたのだ。
 それを意気に感じた長谷川巡査は、小山田とこれを機会に個人的に仲良くなったのである。
 長谷川巡査が非番の日には、小山田の部屋に来て、一緒に酒を飲んだりもした、最近では小山田の方の仕事が忙しくなった関係で、なかなか会うことも減ってきたのだが、小山田もたまに交番に顔を出すこともあって、完全に疎遠になったわけではなかったのだ。
 そんな仲のいい小山田だったが、公私混同はしてはいけないということで、この間の松本が毒を盛られたあの日に顔は合わせたが、二人がまさか知り合いだったということに気づいた人は、一人もいないほどだったのだ。
 長谷川巡査としては、小山田の優しいところが好きで、小山田にとっては、長谷川巡査の真面目なところが好きだった。
 お互いに、相手にありそうなことを持っていそうで、実際には持っていないと思うと、余計に相手に対する敬意を表する気持ちになるのである。
 もちろん、嫉妬がないわけではないが、嫉妬よりも、落ち着いた気分になれることの方が大きく、特に小山田の方としては、
「自分が大人になってきたのかな?」
 と感じていた。
 そんな小山田と少し距離が遠くなったのは、小山田が交番に立ち寄らなくなったからだ。ちょうどその頃、それまでプライベイトで仲がよかったのは、松本だったというのだが、そこに昔からの腐れ縁ということで、梅崎が絡んできたことから、何となく三人がぎこちなくなり、小山田も交番に立ち寄るだけの余裕がなくなっていたようだ。
「そんな時こそ、相談に乗ってやるのに」
 と、長谷川巡査が言ってくれたが、どちらかというと、
「一人になりたい」
 という意識が強いようだった。
 そんな小山田に対しては、放っておくことの方が礼儀だと感じた長谷川巡査だったが、やはり気になるのは気になっていた。
 その頃から、
「梅崎という男は、何か小山田とは合わないところがあるんじゃないか?」
 とは感じていた。
 しかし小山田自身が相談してくれわけでもなく、ましてや何かの事件でも起こったわけでもないので下手に関われば、プライバシーの芯が二なってしまう。警官としては、それは避けなければいけないところであった。
 それが、一年くらい前のことだっただろうか。そういう意味では。この間の事件において、他の刑事たちから見た三人の感性性を看破できる人がいただろうか? と感じるのであった。
「でも、柏木刑事は、何となく梅崎だけが浮いているような状況を分かっていたのかも知れないな」
 と感じた。
作品名:伏線相違の連鎖 作家名:森本晃次